179 捜査協力
ここで俺も(許可されるかどうかは分からないけど)捜査への協力を申し出てみた。
「私たち兄妹も捜査に参加させていただくわけにはいきませんか?ご迷惑をかけないように致しますので…」
「ううん、さすがに民間人を捜査チームに加えるのはマズイか…。いや、しかし彼は平民というわけではないしな。近衛騎士団には貴族子弟も多くいるから、ツキオカ男爵の協力を得たほうが良いのかもしれん」
グレンナルド伯爵が悩んでいた。
ただ、悩んでいた時間はそれほど長くは無かった。
「よろしい。他ならぬミュラー公爵の名代でもあるのだ。問題が起きたら、この儂が責任をとる。ツキオカ男爵とご令嬢、よろしく頼む」
「はい。微力を尽くします」
素人だから役に立つかどうかは分からないけど、捜査の進展を屋敷で待つよりも、その捜査に参加したほうが精神衛生的に良いと思ったんだよね。
ここで刑事部長が警部さんに命令した。
「とりあえず死んだマクレガーの身辺を捜査することから始めるべきだろう。早々に自殺として処理してしまったため、その辺りは疎かになっていたからな」
「はい。かしこまりました」
さらに俺のほうにも指示を出してきた。命令ではなく、お願いという体だけど。
「現在の近衛騎士団長についても、その人物像の把握や周囲の評判などを聞き込みしたいところだな。ツキオカ男爵様、もしも騎士団に伝手がありましたら、そちらをご担当いただけますか?」
「了解しました。第二騎士団長を通じて近衛騎士団に探りを入れることは可能であると思います。あと、私のことはただの平民の冒険者として扱っていただけないでしょうか?もちろん、他の方々にもそのように周知していただければありがたいです」
うん、ツキオカ男爵様などと呼ばれるのは、なんだかむず痒いからね。
「分かりました。では、冒険者のツキオカ殿、捜査協力をよろしくお願いします」
刑事部長の立場(平民らしい)だと、さすがに敬語無しってわけにはいかないか…。
「儂からもよろしく頼む。もしも真犯人が近衛騎士団長であった場合、その逮捕には第一か第二騎士団の協力が必要になるかもしれん。警吏本部という組織は基本的に平民の犯罪が対象だからな」
貴族犯罪は騎士団が、平民犯罪は警吏本部が担当するってのが原則なのだ(この国では…)。
まだ会ったことはないけど、第二騎士団長のグレイシアス様が正義の人だったら良いな。まぁ、アインホールド伯爵の従弟だから、あまり心配はしていないけど…。
・・・
このあと、いったん屋敷に戻ることにしたナナと俺。
アンナさんからグレイシアス様の人柄なんかを聞き取り調査しておきたいのだ(本人に会う前に…)。
その帰り道、ナナとグレイフィールド事件について考察してみた。
「ねぇ、お兄ちゃん。やっぱり近衛騎士団長が黒幕なのかな?」
「うーん、怪しいのは確かだよな。でも怪し過ぎるから、一周回って犯人じゃなかったりするかもしれない」
「もしも近衛騎士団長が真犯人だとしたら、何のひねりも無いよね。駄作の推理小説だよ」
「いや、刑事コ〇ンボのように最初から犯人は分かっていて、あとはどう追い詰めていくかって展開もあるぞ」
ドラマが犯行場面から始まるってやつだ。ちなみに、一部伏字だ。
「たしかに実行犯が死んでいる以上、黒幕を追い込んでいくための証拠が無いよね。謀が得意なタイプだったら、絶対に証拠は残していないだろうし…」
そうなのだ。状況証拠の積み重ねだけでは逮捕するのは難しい。
確たる証拠が無いとね。




