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172 ミュラー公爵家①

 事件の翌早朝、ミュラー公爵家の豪華絢爛たる馬車がうちの屋敷の玄関に横付けされた。

 馬車から降りてきたのは、侍女のローリーさんだった。

「ツキオカ様、お迎えに上がりました。ミュラー公爵閣下並びにテレサお嬢様がお屋敷でお待ちです。()くご準備を」

 まだ朝日が顔を出したばかりの早朝だよ。まぁ、念のために早起きしておいたので良かったけど…。


「人員の指定はありますか?」

「はい。ツキオカ男爵とシュバルツ男爵令嬢にお()でいただきたいとのことでございます」

「承知致しました」

 アンナさんがサリーとマリーナさんに家のことでいくつか指示を与えたあと、俺と一緒に馬車へと乗り込んだ。

 てか、屋敷のことはマジでアンナさんに頼り切りなのだ。アンナさんがいなかったらと思うと、ぞっとするよ。

 いつも感謝してます。あと、どうでも良いけど、まだナナは寝てるっぽい…。


 同じ貴族街の中なのでそれほど時間もかからず、馬車はミュラー公爵家の王都別邸へと到着した。

 余談だが、車内に謎の緊張感が(ただよ)っていたんだけど、何なの?

 対面式で六人掛けの座席の俺の向かい側にアンナさんとローリーさんが仲良く並んで座っていたんだけど、談笑している様子が何だか怖かったんだよな。

 いや表面上は、にこやかに会話していたんだけどね。


 お屋敷の応接室へ案内されたあと、しばらくしてからミュラー公爵とテレサお嬢様が入室してきた。

「朝早くからわざわざ呼び立てして悪かったね。昨日の事件の詳細については、この子とカーター子爵令嬢から聞いているのだが、客観的な視点からも状況を(つまび)らかにしておきたいと思ったのだよ」

「はい。それでは私の目の前で発生した拉致の状況からお話し致します。現場は平民街の…」

 このあと、俺の目撃した状況とその対処(カルローネ氏の屋敷まで追跡したこと)についてご報告申し上げた。

 その屋敷にリュート・ハウスホーフェン侯爵令息が二人の騎士と共に突入してきて、あっさりと拘束された場面ではミュラー公爵の顔が苦虫を噛み潰したようになっていたよ。ま、そりゃそうだよな。


 あとは

・オーレリーちゃんの親父さんにうちの屋敷への連絡を頼んだ件。

・カルローネ氏の護衛を魔法で攻撃し、カルローネ氏やリュート様を捕縛した件。

・先生と呼ばれていたカルローネ家の用心棒を金で寝返らせた件(ユーリさんのことね)。

などを話していった。


 途中で口を挟まず、最後まで静かに聞いていたミュラー公爵だったが、俺が話し終えると頭を下げながらこう言った。

「まずは君にお礼を言わねばならんな。この子を守ってもらえて本当に感謝している」

 テレサお嬢様とこの場に同席しているローリーさんも揃って頭を下げてくれたよ。

「いえ、人として当然のことをしたまでです。どうぞ頭をお上げください。さらに言えば、私の取った行動には自らの心の平穏を保つためという一面もあります。つまり、自分自身のために勝手に行動しただけとも言えるのです。ですので、公爵様のそのお言葉を聞くことができただけで、謝礼としては十分でございます」

 そう、結局は『不幸な目にあう人を見たくない』という俺自身のエゴなのだ。いわゆる寝覚めが悪いってやつだな。

 『俺の力で助けてあげられるものなら、助けてあげたい』という心理こそが、俺の行動原理ってわけ…。おせっかいとも言う。

 てか、人によっては『偽善者』なんて言われるかもしれないね。


 でも、ミュラー公爵は感銘を受けた様子だった。

「うむ、やはり私の見込んだ通りの人柄だな。だが、いくつか疑問がある。それを尋ねても良いかね?あぁ、秘密にしておきたいことまで無理に聞き出すつもりは無いよ。安心してくれたまえ」

「はい。何でしょうか?」

「まずは疾走する馬車をどうやって見失わずに追いかけることができたのかね?」

 はい、自分の(あし)で走って追いかけました。…って、さすがに無理があるだろう。

 【空間魔法】を使ったことを話さない限り、整合性のある説明はできそうにないんだよな。うーん、どうしよう?


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