167 反社の用心棒
カルローネ一家の構成員たちは、ほぼ全員が騎士団との戦闘に駆り出されているようで、俺たちのいる客間へ誰かがやってくるような気配や物音はしていない。
やはり、ここは『待ち』の一手かな。騎士団員が救出に現れるのを待つのがベストだろう。
まさか、騎士団が負けるとも思えないし…。
「あのぉ、逃げないのですか?」
テレサお嬢様がおずおずと質問してきた。俺のことをかなり怖がっているようだ。
まぁ、そりゃそうか。部屋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図って感じになっちゃってるし、カルローネ氏の指の骨を折ったところも見せたしね。
「ここで待っていれば騎士団が突入してくると思いますので、それを待ちましょう。大丈夫ですよ。騎士団が負けるはずはありませんし、彼らには優秀な魔術師が二人ほどついていますからね」
魔術師とはアンナさんとナナのことだ。
ここでローリーさんも俺に質問をぶつけてきた。
「それよりさきほどの魔法はあなただったのですか?いえ、そんなはずはありませんよね。一人で同時に四つの属性の魔法を発動できるわけがありません。きっと見えないように隠れている魔術師様がほかにもいらっしゃるのですよね?」
「ええ、その通りです。なので、ご安心ください。皆様のことは確実にお守り致しますので…」
都合よく勘違いしてくれているみたいなので、それに乗っかろう。『マルチキャスト』の技術については、できるだけ隠しておきたいし…。
「お礼を申し上げたいので、どうかお姿を見せていただけないでしょうか」
「いえ、ツキオカ家の誇る影の特殊部隊ですので、それはご容赦ください。正体がバレると任務に支障を来たしますので…」
いえ、本当はそんな部隊はありません。嘘八百です。てか、任務って何だよ。そんなの無いよ。
これを聞いて残念そうなテレサお嬢様とローリーさんだった。
ここで今まで無言を貫いてきたリュート様が発言した。
「ハウスホーフェン侯爵家の人間としてツキオカ男爵に命令する。この男、カルローネを殺して、この一件は幕引きとするように」
んん?まさかこの誘拐事件へのご自身の関与を隠すために、関係者の口封じを図るってことか?
「それはリュート様が誘拐事件の黒幕だったことを隠すためでしょうか?」
「ふん、それがどうした?下位貴族の人間は上位貴族には逆らえない。それがこの国の法だ」
へぇ、そういう態度をとるんだ…。だったら、この件を国王陛下に告げ口しても問題ないな。
「リュート・ハウスホーフェン侯爵令息、恥を知りなさい!貴族の序列を言うのならば、我がミュラー公爵家があなたに命じます。この事件の主犯として大人しく裁きを受けるように!」
テレサお嬢様が毅然とした態度で、リュート様に向かって右手の人差し指を突き付けていた。まだ幼いのに立派だな。さすがは公爵家のお嬢様だ。
激昂したリュート様が思わずテレサお嬢様に掴みかかろうとしたため、俺は即座にお二人の間に割り込んだ。
十手で叩きのめすわけにもいかないので、リュート様の腕の関節を極めて、動きを封じるだけに止めたけどね。
「貴様、男爵のくせに…」
「ツキオカ様、その男を捕縛してください。公爵令嬢に対する暴行未遂です」
「はっ、仰せのままに」
俺はカルローネ氏と同様、縄でリュート様の腕を後ろ手に縛り上げた。
窓の外からは依然として戦闘音が鳴り響いているが、音が次第に大きくなっているように感じる(つまり屋敷に近づいてきている)。
どうやら騎士団側が押しているみたいだね。屋敷への突入は、もはや時間の問題だな。
…っと、安心したのも束の間、この部屋のドアがいきなりバラバラに分解された。木製とはいえ、かなり分厚いドアだったのに、何かで細切れにされたようだ。
そこからぬっと入ってきたのは、片刃の剣を左手にぶら下げた女性だった。年齢は30代ってところかな?大柄(180cmくらいかな?)で筋肉質ではあるが、顔立ちは美人と言っても良いだろう。
特徴的なのは右腕が無かったことだ。服の右袖がぶらぶらと揺れていて、中身の無いことを示していた。
「先生!は、早く助けてくれ!今こそ先生のお力を示すときだ。今まで何もしてこなかったのに高い給料を払ってきたのは、こういうときのためですぞ」
入ってきた女性を見たカルローネ氏がめっちゃ喜んでいた。ドアを破壊した剣技を見るに、戦闘に特化した用心棒ってところだろうな。
俺は即座に彼女を【鑑定】してみた。
・名前:ユーリ・グレイフィールド(グレイフィールド騎士爵家長女)
・種族:人族
・状態:健康
・職業:カルローネ家用心棒
・スキル:
・鑑定 90/100
・耐鑑定 87/100
・魔法抵抗 72/100
・剣術 120/120
・徒手格闘術 76/100
・乗馬術 59/100
まじかよ…。
【剣術】が伝説だよ。ほかのスキルも軒並み高い数値だ。
特に【魔法抵抗】がヤバい。初級魔法は100%抵抗されるし、中級魔法でも82%の確率で抵抗に成功するじゃん。
【徒手格闘術】は、かろうじて俺のほうが上(俺のスキルレベルは81)だけど、その差はわずかだ。
相手が隻腕とはいえ、とてもじゃないが俺では勝てそうにない。てか、こんな隠し玉がこの屋敷にいたなんて、思ってもみなかったよ。
いや、残った左腕が利き腕じゃなければワンチャンいけるか?
それにしても、騎士爵家の人なのに、反社の用心棒になってるのは何故なんだ?何か深い事情でもあるのだろうか?




