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166 救援到着

 あれから何時間が()っただろう。もう夕方に近い時間だ。俺としては警吏本部から応援がやってくるのを待つしかないという状況だ。

 突然、客間のドアが開き、カルローネ氏とその護衛たちがドカドカと足音を立てながら部屋の中へと入ってきた。

 何か(あせ)っているようにも見える。


 思わず抱き合うテレサお嬢様とローリーさん。その彼女たちを守るように前に立つリュート様(お、なかなか紳士的な振る舞い…)。

 カルローネ氏が人質三人にこう言った。

「お前らの家の奴らがこの屋敷を嗅ぎつけやがったみたいだ。ミュラー家かハウスホーフェン家かは知らんがな。まったく忌々(いまいま)しいことだ。お前らには私が逃げるための人質になってもらうぞ」

 さっきまでの丁寧な口調は影を潜め、反社の人間らしい荒々しい口調に変わっている。てか、こっちが本性だろう。


 入ってきたカルローネ氏の護衛は先ほどと同じ四人。

 俺は先手必勝とばかりに【火魔法】の【ファイアアロー】、【水魔法】の【ウォーターカッター】、【風魔法】の【ウインドカッター】、【土魔法】の【ストーンバレット】を同時に発動した。四つの魔法を同時発動する『マルチキャスト』だ。

 照準(レティクル)を合わせた位置は太腿(ふともも)にした。こいつらが走って逃げられないようにするためにね。

 なお、全ての魔法発動に成功する確率は約34%だったが、幸運なことに四つとも発動したよ。


 護衛たちを【鑑定】する余裕は無かったため、彼らが【魔法抵抗】スキルを持っているのか、持っていたとしてそのスキルレベルがどの程度なのかは分からない。

 なので、もしかしたら初級魔法が抵抗(レジスト)される可能性もあったのだが、どうやら四人全員にダメージを与えることができたようだ。


 一人は片脚が燃え上がり、床を転げ回ることで火を消そうとしていた。大火傷だな。

 一人は細い水流によって太腿に小さな穴が穿(うが)たれ、立っていられず膝をついた。ダメージは骨(大腿骨)にまで達しているかも…。

 一人は風で切り裂かれた太腿から鮮血が吹き出しており、床に敷かれている絨毯(じゅうたん)を赤く染めていた。かなりの出血量だ。

 最後の一人は石礫(いしつぶて)の貫通こそ無かったものの、脚が変な方向に折れ曲がっていた。かなり痛そう…。


 護衛たちが(かな)でる悲鳴の大合唱の中、カルローネ氏の表情は何が起こったのか全く分からないって感じで、(しば)し呆然としていたよ。

 俺はカルローネ氏の目の前で認識阻害のローブを脱ぎ、その姿を現した。それと同時に、【アイテムボックス】から取り出した十手をカルローネ氏の鼻先に突きつけ、こう言った。

「貴殿を営利誘拐の容疑で逮捕する。大人しく(ばく)につけ」

「お、お、お前は何者だ?いったいどこから現れた?」

「俺が何者かなどどうでも良い。あえて言えば『通りすがりの者』だな」

 いや、本当にそうなんだけどね。ただの『通りすがり』であることに間違いはない。


 カルローネ氏はじりじりと後ずさりしながら、往生際が悪く、部屋の外にいる(のかどうか、こちらからは見えないが)部下に指示を出していた。

「おい!魔道武器を持ってこい!あと、先生をここへ呼べ!」

 (きびす)を返して逃げようとしたカルローネ氏だったが、逃がすわけないだろ。彼の背中に【風魔法】の【ウインドブラスト】をぶつけてやった。

「ぶぎゃっ!」

 蛙が潰れたような姿になって、カルローネ氏がうつ伏せ状態で気絶した。これで親玉は倒したってわけだ。

 あとはこいつを縄で縛り上げ、俺たちが脱出するための人質になってもらおう。まさに立場は逆転したわけだな。


 屋敷を囲む塀の外では騎士たちが突入の機会を(うかが)っていた。彼らによる包囲の状況がこの部屋の窓から確認できたよ(ただし、正門の周辺だけね)。

 人質を取られているため、力押しはマズイと判断しているのか、まだ突入の動きはない。三人の人質については俺が守るので、すぐに突入してきて欲しいところなんだけどな。でも、それを伝える手段がない。

 どうやって伝えようかと悩みながら窓から門のところを見ると、冒険者風の格好をしているアンナさんとナナが(小さいけど、かろうじて)見えた。

 俺は【ファイアアロー】を一発空へと放って、まずは彼ら彼女らの注意を引いた。そのあと、開いた窓からはっきりと見えるように、大きく手を動かした。円を描くようにね。

 この動きにアンナさんかナナが気付けば、おそらく強行突入を進言してくれるだろう。


 あとは、この部屋の中の状況を整理しよう。

 まずは、(うめ)いている四人の護衛たちの頭を十手で殴りつけ、意識を刈り取った。

 次に時間を稼ぐため、部屋のドアを閉めてから重量のあるソファをその前に移動させた。バリケードにするためだ。侍女のローリーさんが(俺が何も言わなくても)自発的に手伝ってくれたよ。てか、男のリュート様は見てるだけかよ。

 最後に、【アイテムボックス】から取り出した縄でカルローネ氏を後ろ手に縛り上げ、花瓶の水を頭からぶっかけて強制的に気絶状態から目覚めさせた。


「うぐっ、背中が痛ぇ。よくもやりやがったな。うちと敵対したらどうなるか、目にもの見せてくれるわ。覚えてろよ」

 縛られて人質となっている状況なのに、なかなか強気だな。

「おい、今の状況が理解できないのか?貴殿の生殺与奪については、俺たちが握っているんだぜ」

 そう言いつつ、左手の小指を手の甲の側に折り曲げてやった。

 パキッと軽い音が鳴ったと同時に、カルローネ氏の口から絶叫が(ほとばし)った。


 テレサお嬢様が眉を(ひそ)めているのが分かったけど、まだここは敵地なのですよ。

 敵の親玉の抵抗を封じておくのは重要です。俺としてもそんなに余裕があるわけじゃないしね。


 窓の外では、この屋敷の戦力と騎士団の間で戦いが始まっていた。騎士団による鎧袖一触だろうと思っていたら、そうでもなく、戦いは拮抗している様に見える。

 どうやら魔道武器が数十挺あるみたいで、【ファイアアロー】や【ウォーターカッター】、あと【ストーンバレット】などの魔法が騎士団へ向けて放たれていた。

 ただ、魔石の魔力量は有限だから、最終的には騎士団が勝つだろうけどね。なかなか前進することはできないまでも、魔法自体は盾で防ぐことができているようだし…。


 さて、俺たちが逃げ出すタイミングはどうしようか?

 逃げ出さず、この部屋に籠城して、騎士団が突入してくるのを待つというのが最善の選択なのかもしれないよね。

 それとも、カルローネ氏を盾にして、屋敷の建物から自力で脱出するべきだろうか?いや、その場合、三人(テレサお嬢様、リュート様、ローリーさん)を守り切れる自信がないな。

 アークデーモンのメフィストフェレス氏を呼び出しさえすれば万事解決なんだけど、あまり魔王っぽい姿を見せたくない。いや、魔王じゃないけど…。


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