156 マリーナさん再び
冒険者ギルドに来たついでに、依頼の掲示板を確認してみることにした。
面白そうな依頼がCランクかDランクの依頼の中にあれば、受注してみても良いね。
あ、そう言えばアンナさんとサリー、それにナナが揃って、そろそろランク更新の時期に差し掛かるらしい。
アンナさんがDからCへ、サリーがEからDへ、ナナがFからEへと上がれれば良いんだけど、現時点の評価ってどうなっているのかな?聞いたら教えてもらえるのだろうか?
てか、俺とオーレリーちゃんが最底辺であるFランクのままなので、なんだか肩身が狭いよ。いや、今年の夏にはEランクに昇格できるはず…(多分)。
なお、俺が貴族になったことについては、支部長と主任さんの二人限りの秘密にしてもらった。他のギルド職員さんから変に気を遣われたくないからね。
掲示板を眺めていると、横から声をかけられた。聞き覚えのある女性の声だった。
「お久しぶりです。その節は大変ご迷惑をおかけしました」
おっと、見覚えのある女性だ。元・ギルド受付嬢のマリーナさんだったよ。
その隣には俺を鋭い目で睨みつける女の子の姿が…。いや、なんで睨む?
ちなみに、その子は長い髪をツインテールにしていて、小柄で可愛い15~16歳くらいの女の子だった。
「これは私の妹のサーシャです。この子が15歳になったので、私と一緒に冒険者として登録しました」
あぁ、マリーナさんがライオネル氏に脅される原因となった妹さんか。
てか、やはり執行猶予になったのか。実刑判決が下らなくて良かったよ。
ただ、前科が付いたせいで、商店なんかの働き口が無いのかもしれない。冒険者登録をしたってことは、多分そういうことだろう。
「よくもお姉ちゃんを傷物にしたな。絶対に許さないからね」
いや待て、『傷物』って人聞きの悪い…。おそらく、お姉さんに前科が付いたことを言ってるんだろうけど…。
「申し訳ありません。この子には私が悪いということを再三説明したのですが…」
「だって、お姉ちゃんは私のためにやったことなのに、それを無理に暴いたのはお前だろ?余計なことをするな!」
あぁ、この子の中では未だに心の整理がつかないんだろうな。自分のために大好きなお姉さんが前科者になってしまったということを受け入れられないのだろう。
そして、その罪を誰かに転嫁したいのだと思う。いや、サーシャちゃんの罪じゃないんだけどね。諸悪の根源はライオネル氏なんだから…。
「とりあえず、ここでは何ですから、場所を変えて話しましょう」
ギルドの掲示板の前で話す内容じゃないよ。
俺たち『暁の銀翼』とマリーナさんとサーシャちゃん姉妹は、ギルドの近くにある飲食店の個室に入った。ちょうどお昼時なので、ちょうど良かった。
「奢りますので、何でも好きなものを注文してください。サーシャちゃんも遠慮しないでね」
メニューの中の一番高い料理を注文するサーシャちゃん。とりあえず、俺の財布に打撃を与えようというわけか。
マリーナさんが恐縮していたけど、俺は笑顔で頷いた。その程度の攻撃で俺の懐は痛まないぞ。
食事をしながら、この事件の顛末をサーシャちゃんに語ってあげた。
『フセ村青年団』との出会いから、ライオネル氏の破滅までをね。アンナさんやナナも適宜補足してくれた。
こうして全ての事情が詳らかになったあと、マリーナさんがサーシャちゃんに優しく語りかけた。
「サーシャ、これで分かったでしょう?もしもツキオカ様がライオネル商会を潰してくれなかったら、私は犯罪者として鉱山奴隷になっていたかもしれないし、あなただって娼館で働かされることになっていたかもしれないのよ。だから感謝こそすれ、恨むなんてあり得ないことなの」
「ご、ごめんなさい…。あと、ありがとうございました」
サーシャちゃんが一転して、借りてきた猫みたいになってるよ。いや、分かってくれれば良いのだ。
「それよりも、やはり就職は厳しいですか?」
「はい。執行猶予中の犯罪者を雇ってくれるような商会は見つかりません。でも冒険者にはなれましたので、薬草採取等で生計を立てています」
うーん、大丈夫なのかな?冒険者としての実力はあるのだろうか?
ちょっとステータスを見てみるか。
・名前:マリーナ
・種族:人族
・状態:健康
・職業:冒険者(Fランク)
・スキル:
・鑑定 62/100
・耐鑑定 51/100
・徒手格闘術 12/100
・会計 87/100
・交渉術 76/100
うわぁ、まさに文官って感じのステータスだな。てか、戦闘力が皆無です。
でも【会計】というスキルのスキルレベルが高いのは素晴らしいと思う。日本で言えば公認会計士みたいな感じか?
妹さんのほうはどうだろう?
・名前:サーシャ
・種族:人族
・状態:健康
・職業:冒険者(Fランク)
・スキル:
・鑑定 21/100
・耐鑑定 14/100
・徒手格闘術 6/100
サーシャちゃんもお姉さん同様、すぐに死にそうなステータスだよ。
これは【コーチング】で戦闘系のスキルを取得しないことには、冒険者として活動し続けることは難しいのではないだろうか?
薬草採取であっても、魔獣に襲われることはあるからね。
うーむ、なんとかしてやりたいけど、どうしようか?どうすれば良い?




