154 品格の維持
王城からアインホールド伯爵家の王都別邸へと帰ってきた伯爵様と俺は、『暁の銀翼』メンバー全員に王城での出来事を報告すべく、応接室に集まってもらった。
あ、もちろんこの場にはエイミーお嬢様もいるよ。
「あらためて、俺がこの国の男爵位に叙されたことを報告します。法衣貴族だから王都に屋敷を構えないといけなくなったけど、王城勤務や特別な任務は無いからね。今まで通り、冒険者として活動を続けていくことになるよ」
「お兄ちゃん、貴族としての年金は貰えないのかな?」
「もちろん、あるぞ。貴族としての品格を維持するための費用ってやつだな。使用人を雇ったり、屋敷を維持管理するためのお金として、年間1億ベルをいただけるらしい」
まぁ、1億ベルって多いようで、そうでもないんだよな。
だって、年収500万ベルの使用人を10人雇えば、給料だけで年に5000万ベルだからね。屋敷の光熱費や食費もあるし、贅沢できるような金額ではないと思う。
とりあえず屋敷をどうするかだな。
実は、ハウゼン侯爵家の持っていた王都別邸を下賜しようかと、国王陛下から打診を受けたのだ。断ったけどね。
なぜなら大き過ぎるのだよ。維持管理のための使用人が大量に必要みたいで、運用経費がかかり過ぎる。
希望としては、パーティーメンバーのための個室が5部屋、来客用の応接室と客間2部屋、あとダイニングキッチンがあれば十分だよ。それでも8DKってことだからね。
「明日からしばらくは不動産屋を回って、屋敷を探すことになるだろう。借家ってことになるけどね」
「屋敷の購入費用くらいは僕のほうで援助させてもらうよ」
「いえ、伯爵様にはできるだけ頼らないようにしていきたいと思っております。どうしようもないときは頼らせていただきますが…」
そう、今まで頼り過ぎだったからね。少しは自力で頑張らなければ…。
「えっと、そのお屋敷ってサトルとナナの二人で住むの?私たちはどうすれば良いのかな?」
「何を水くさいことを言ってるんだよ。『暁の銀翼』メンバー全員の拠点だぞ。だから、小さくても良いから部屋数が5部屋以上は必要だな」
サリーの質問に軽い調子で答えたけど、別におかしなところは無いはずだ。
「え?そうなの?ナナだけじゃなく、アンナさんやオーレリー、そして私も?」
「当然だ。あ、もしかして嫌なのか?だったら無理強いはしないけど…」
「嫌なわけないじゃん!一緒に住むよ。なんなら夜這いしてきても良いよ」
サリーのいつもの冗談だな。いつもこの子の明るさには癒されるよ。
「サリー、私の目の黒いうちは冗談でも許さないからね。鉄壁の妹ガードでお兄ちゃんを守るよ」
ナナもいつも通りだった。てか、『妹ガード』って何だよ。
「サトルさん、いえ、ツキオカ男爵様。叙爵なされたこと、誠におめでとうございます。王城では、こ、婚約者のお申し込みがかなりあったのではありませんか?」
「いえ、アンナさん。そのような話は全く…。あと、俺のことは今まで通りの呼び方でお願いしますね」
ホッとした様子のアンナさんだった。うーん、貴族ともなると婚約者がいるのが普通なのかな?
婚約について考え込んでいた俺に向かって、オーレリーちゃんが話しかけてきた。
「サトル様、お屋敷の場所は貴族街じゃないといけないのですか?」
この質問にはエイミーお嬢様が答えてくれた。
「オーレリーちゃん、平民街だと警備の問題が生じるのよ。防犯のために警備の人員を手配するのは当然なんだけど、貴族街ならそもそも巡回している警吏の数が多いからね。それだけ安全なのよ」
なるほど。てか、使用人については、執事1名、侍女2名、料理人1名、厩番1名、庭師1名くらいを考えていたんだけど、警備の人員も2名くらい必要なのか。いや、三交代制で24時間警備体制をとるならば、6名(二人一組で8時間勤務が三組)は必要だな。
うわぁ、総勢12名じゃん。いや、待てよ。使用人の住む場所も必要になるな。
年金が1億ベルじゃ全然足りないような気が…。
お金のやり繰りに悩む俺に、アンナさんがある提案を申し出てくれた。
「サトルさん、私が屋敷を管理する執事兼侍女として働きますから、その分の使用人は不要ですよ」
「だったら料理は私がするから、料理人も不要だよ」
ナナもアンナさんに追随した。
「警備は私に任せてよ」
これはサリーの発言だ。さらにオーレリーちゃんも続いた。
「馬の世話は私が…。庭の草木の剪定なんかもやってみたいです」
…って、それなら使用人が一切不要になるじゃないか。
彼女たちには毎月50万ベルの給料を渡しても良いくらいだな(それでも年間で総額2400万ベルだ)。
警備だけはサリーだけでは手に余るだろうから、何か考えないといけないね。
防犯システムみたいな便利な魔道具は無いのだろうか?




