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152 解毒棒

 顔合わせも終わり、どうやら二人には好意的に(とら)えられたみたいで安心した。

 傲慢(ごうまん)で鼻持ちならない貴族だったらどうしようって思っていたけど、さすがはアンナさんのお父上だ。平民にも高圧的な態度を取らない良い人だった。奥方が平民出身なんだから、当然と言えば当然か。

 なお、アイーシャさんが公明正大な人であることはすでに分かっていたし、アイーシャさん本人が元々平民だからね。あまり心配はしていなかったよ。


「お二人にはお近づきの印にこちらを差し上げます。どうぞご笑納ください」

 俺はシュバルツ男爵とアイーシャさんへ小さな木製の筒を手渡した。直径1.5cm、長さ8cmの細長い筒の上端には親指で跳ね上げられるようなカバーが付いており、それを開けると押しボタンが内包されている。

「これは【光魔法】の初級【レッサーキュア】を魔道具化したものです。ご自身のステータスを確認した結果が『毒状態』となっていた場合、カバーを開けてボタンを押してください。その際、ボタンの反対側をご自分のほうへ向けてください。もちろん、他人を解毒することも可能です。ボタンのある側とは反対側のほうへ向かって魔法が発動されるようになっていますので、それだけを認識しておいていただければ大丈夫です」

 大きさ的にはポケットに忍ばせておくことができるサイズに収めたつもりだ。小型化には苦労したけどね。

 なお、鉄で作らなかった理由は重くなってしまうから…。これなら女性がドレス姿であっても、問題なく携帯できると思う(というか、アンナさんに確認したから間違いなく携帯できる)。


「なんと!このような魔道具は見たことが無い。まさかツキオカ殿が作られたのか?」

 シュバルツ男爵が驚愕の声を上げた。

治癒(ヒール)解毒(キュア)の魔道具は教会の既得権益(きとくけんえき)を侵害する恐れがあるため、魔道具業者は販売を自粛していますからね。であれば、ツキオカ殿のオリジナルとしか考えられません」

 これはアイーシャさんの感想だ。てか、そうだったのか…。どおりで【光魔法】系統の魔道具が少ないと思ったよ。


 アインホールド伯爵様がちょっとドヤ顔で発言した。

「ツキオカ殿は優秀な魔道具師でもあるのだよ。彼の作った魔道具は王室にも献上されているからね」

 いや、献上したのは伯爵様ですけどね。

 ちなみに、この魔道具の名前は『解毒棒(キュア・スティック)』だ。もちろん、伯爵様やエイミーお嬢様にも贈呈済みだよ。


 実はサリーの『健康銃(ヘルシー・ガン)』を作ろうとした際、【レッサーヒール】や【レッサーキュア】の『魔道基板』を大量に作ったのだ(練習で…)。

 で、もったいないから再利用したってわけ。

 まぁ、貴族って毒殺を常に警戒しているらしいから、いざというときのために携帯しておいてもらえれば良いかなと思っている。

 転ばぬ先の杖だよ。というか保険?


「魔石の交換につきましては私に言っていただくか、業者に依頼してください。一応、3回ほど【レッサーキュア】を発動できるような魔石を取り付けていますので…」

 魔力量30の安物の魔石を内蔵しているんだけど、高価な魔石はサイズ的に取り付けられないのだ。小型化の弊害だな。

 ちなみに、原価は40万ベルまではかかっていない。『魔道基板』が高いから、どうしても高価な物にならざるを得ないよね。

 とは言っても、魔道具としては安いほうかな?まぁ、廃物利用(リサイクル)だし…。


 ・・・


 そして今日は王城へ行く日だ。

 伯爵様はいつも通りだけど、俺のほうはさすがに朝から緊張しているよ。


「サトルさん、大丈夫ですか?どうかご無事で…」

 …って、アンナさん。戦場に(おもむ)くわけじゃないんだから。


「お兄ちゃん、なにかあったらメフィストフェレス氏を呼び出せば良いんだよ。あのアークデーモンの能力って、Aランク魔獣の中でも最上位だと思うしね。お城の近衛騎士団が果たして太刀打(たちう)ちできるかどうか…」

 おいおい、ナナさんや。俺はテロリストじゃないぞ。呼び出すわけないだろ(いや、決してフラグじゃなく…)。


「サトル。王様や王妃様、それと王子様や王女様のお顔をあとで詳しく教えてね。きっと美男美女揃いなんだろうな」

 いや、サリー。そんなに顔がはっきり分かるほど、近づけるわけないじゃん。俺は魔術師なんだから、警備の都合上、30メートル以上は離れた場所から謁見することになるはずだぞ。


「サトル様、ご活躍と御身(おんみ)の安全をお祈りしています。それにしても、普段の(よそお)いとはまったく違っていて、格好良いです」

 オーレリーちゃん、ありがとう。てか、そうなのだ。今日の俺の服装は、貴族っぽいものになっているんだよな。伯爵様のお古を急いで仕立て直したものなんだけどね。

「お兄ちゃん、馬子(まご)にも衣裳(いしょう)だね。ニッポン人の顔で、その服はちょっとだけ違和感あるけど…」

 くっ、俺自身が自覚していることを…。


「それじゃそろそろ行こうか。馬車の用意もできたみたいだしね」

「お父様、行ってらっしゃいませ。ツキオカ様もご武運をお祈り申し上げます」

 エイミーお嬢様の応援(エール)を背に、馬車に乗り込む伯爵様と俺。

 さてさて、波乱なく帰ってこられるだろうか?いや、ここまで来たら、もう腹を(くく)るしかないな。

 出たとこ勝負で行くしかない。


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