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015 アンナ・シュバルツの回想①

 私がアインホールド伯爵家のご令嬢であるエイミー様付きの侍女となってからもう三年になります。

 お嬢様が10歳で、私が18歳のときからです。

 好奇心旺盛で破天荒な性格のお嬢様は、伯爵家のご令嬢としてちょっとどうなのか…という言動をとることが多く、家庭教師の方々を困らせています。私としてはそういう点も含めて、お嬢様のことを愛らしいお方であると思っているのですけど…。

 いつもは領都リブラにあるお屋敷で過ごされているのですが、夏真っ盛りの季節となったため、領都よりはいくらか涼しいデルトという街へ行くことになりました。そこは少し標高が高いのと、地形からなのか常に穏やかな風が吹いているせいで夏でも過ごしやすいのです。要するに避暑ということですね。


 馬車であれば二日で着けるのと、領内の治安状況を(かんが)みて護衛は五人となりました。なお、私も僭越ながら腕には自信がございます。お嬢様は必ずお守り致します。

 ところがまさか、その移動の二日目、ある森の中で盗賊たちから襲撃されることになるとは夢にも思いませんでした。

 馬車の窓から見える範囲だけでもかなりの人数がいることが分かります。

 対してこちらの騎士は五人のみ。私も火や水の攻撃魔法は撃てますし、格闘能力にも自信があります。

 お嬢様のお(そば)を離れるわけにはいきませんが、参戦しなければいけない状況になることも考えられます。でも全員を魔法で倒すほどの魔力量はありません。

 私としては、騎士様たちの奮戦を祈るのみです。


 戦闘が始まってすぐに分かりました。多勢に無勢であると…。

 個々の戦闘力に関しては騎士様たちのほうが上なのは確かです。馬による機動力もありますし…。

 しかし、やはり賊の人数が多すぎる…。しかも賊の中には弓矢を使う者もいるため、馬を傷つけられると一気に不利になるでしょう。


 もしも賊が勝利した場合、私たちはどうなってしまうのでしょうか?お嬢様は人質としての価値が高いため、(ひど)い扱いを受けることは無いかもしれません。

 でも私は違います。一応男爵家の出身ではありますが、おそらくこの身を賊たちに蹂躙(じゅうりん)されてしまうことは容易に想像できてしまいます。

 もちろん、そうなる前に自害して自身の誇りを守るつもりではありますが、お嬢様を盾に自害が許されないことも考えられます。

 暗い考えに(おちい)りながらも騎士様方の奮戦を見守っていると、徐々に戦況が変わり始めました。賊たちが次々に倒れていきます。これは風魔法でしょうか?


 どうやら通りすがりの魔術師様が参戦してくださったようで、私たちは危地を脱しました。本当に感謝の念に()えません。

 その方はぼさぼさながらも清潔感のある黒い髪と、この地方には珍しい顔立ちで、かつ黒い瞳の若い男性でした。私よりも少し若いかという風貌ですが、魔術師としての技量を考えると見かけよりもお年を召されている可能性もあります。

 なにしろ、賊のほとんどを倒すくらいの魔法を連発するだけの魔力量をお持ちなのですから…。

 マクシミリアン隊長がお嬢様に対して、このお方のことを『魔術師サトル・ツキオカ様』とご紹介していました。家名をお持ちであることから貴族階級のお方なのかと思いましたが、ツキオカ様ご本人は自身が平民であることを強調されておりました。本当でしょうか?


 さらに驚かされたのが、ツキオカ様が放った【エリアヒール】です。『光魔法』の中では中級魔法にあたり、スキルレベルが60以上でないと使うことはできません。

 しかもその効果の高さからスキルレベルはもっと高いことでしょう。

 私は『鑑定』にも自信を持っていますが((あるじ)に有害なものを見極めるため、侍女の必須技能です)、ツキオカ様を『鑑定』することはできませんでした。『耐鑑定』のスキルレベルも高いということでしょう。


 ツキオカ様はデルトへ向かう私たちに同行してくださるとのことで、とても心強く感じました。『鑑定』できなかったのは少しだけ不安ですが、悪い方には見えませんでしたし…。

 そしてさらに驚かされたのが、途中でとった休憩のときでした。

 なんと『水魔法』に属する中級魔法の【クラッシュアイス】を発動されたのです。これで『風魔法』『光魔法』『水魔法』の三属性に適性があるということが判明しました。


 お嬢様やマクシミリアン隊長は気付いていないようですが、私は魔術師(の端くれ)ですのでその異常性が分かりました。

 魔法を使えるかどうかは本人の適正に依存します。適性が無ければスキルレベル100の達人(マスター)から【コーチング】を受けても、スキルを取得することはできないのです。

 一般的に魔法適性を持つ人の割合は全体の一割で、そのほとんどが一つの属性だけに関する適性です。

 私は珍しい二属性(ダブル)の魔術師(『火魔法』と『水魔法』の二つ)なのですが、今まで三つ以上の属性を持つ方なんて見たことも聞いたこともありません。

 王宮にいらっしゃる宮廷魔術師様たちですら、最大で属性は二つです。他国には三属性以上をお持ちの魔術師様も普通にいらっしゃるのかもしれませんね。

 いえ、まさかこの方は、この三属性(トリプル)以外の魔法スキルもお持ちなのではないでしょうか?…つまり四属性(クアドルプル)

 ふふ、さすがにそんなお伽話(とぎばなし)のようなことは無いでしょうけどね。


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