143 リバーシ大会
俺の用件は割と早く済んでしまったけれど、せっかくなのでイザベラお嬢様と少しお茶でもしてから宿屋へ戻ることにした。
彼女は元・侯爵令嬢なんだけど、日本からの転生者なので話が合うのだ。
なお、デートには見えないはず…。なぜって、相手は13歳の子供だからね(肉体年齢はともかく、精神年齢は俺より上みたいだけど…)。
余談だけど、お嬢様の容姿は、目元がちょっとだけ吊り上がっていて勝ち気な印象を受けるものの、総合的にはとても可愛らしい。
豪奢な金髪を縦ロールにでもすれば、まさに悪役令嬢って感じかな?いや、乙女ゲームというものを全く知らないので、適当言ってます。
とある喫茶店風の飲食店に入って窓際の席に案内された俺たち…。まさに特等席だ。多分、イザベラお嬢様が高貴な人という印象を店の人に与えているせいだと思う。
「なぁ、サトル君。君の本命は誰だね?私の見たところでは、アンナ・シュバルツ嬢じゃないかと思っているのだがね」
「えっ?あぁ、まぁそうですね。アンナさんは美人な上、何でもできる完璧超人で、正直言ってかなり惹かれていますよ。ただ、俺にとっては高嶺の花ですけどね」
「くっくっく、そうかそうか。ならば5年、いや2年か3年で良い。私がもう少し成長するまでは、結婚せずに待っていてくれたまえ。そうすれば、私も君の争奪戦に参戦できるからな」
は?争奪戦?
誰が俺を取り合うというのか?そんな甘い雰囲気になったり、アプローチをかけてきた女性は今までいないんだけどな。
あ、アンナさんやナナからは以前『一緒にいたい』って言われたけど、それが恋心によるものなのかどうかは今一つ分からん。非モテ陰キャにとって、女性の心理を推し測るのは難し過ぎるのだ。
この一見『恋バナ』風の会話のあとは、それとは全く関係のない日本に関する話題で盛り上がった俺たち…。やはり、転生者との雑談は楽しいな(ナナとの会話もそうだけど…)。
顕微鏡の構造についての話もして、俺の持つ知識とイザベラお嬢様の持つ知識をすり合わせることができたので、非常に有意義な時間だった。
・・・
ついでに早めの昼食を摂ってから、拠点である宿屋へ戻った俺たちだったが、そこでは熱戦が繰り広げられていた。
そう、リバーシ大会だ。…って、まだやってたの?
アリスさんや医官の人たちは初心者だったため、最初の数試合は練習試合として勝敗にはカウントせず、慣れてきた今からトーナメント戦を始めるところだったらしい。
10名なので、シード選手が二人いるわけだね。
…で、そこへ帰ってきたのがイザベラお嬢様と俺ってわけ。当然、俺たちもそのトーナメント表に組み込まれてしまったよ。
総勢12名になったので、1回戦が6試合、2回戦が3試合で、勝ち上がった3名が総当たりのリーグ戦を行うという変則的なトーナメント戦とした。
最後に残った3名が自分以外の二人と戦い、2勝0敗ならば優勝ということだね。なお、三人全員が1勝1敗だった場合はコマの数の差で順位を決定する。
うん、良いんじゃないかな。
ちなみに、大会を盛り上げるため、イザベラお嬢様の提案でルナーク商会から賞金が出ることになった。優勝者が6万ベル、2位が3万ベル、3位が1万ベルというささやかなものだけど…。
あと、対戦相手の組み合わせについては、公平を期すために抽選だ。
トーナメント表に1から12までの数字を書いたあと、それぞれがくじを引いて自分の番号を決めるわけだね。
アンナさんやナナには当たりませんように…。できれば初心者の医官の人と当たりたいなぁ。
…って思っていたら、俺の対戦相手はアリスさんだった。よっしゃ!
時短のために3試合を同時に行うことにして、アリスさんと俺の試合はその最初の3試合の一つになった。
ふふふ、相手は初心者、鎧袖一触だな。
…って思っていたら、あっさり負けた…。は?
「お兄さん、悪いね。勝っちゃったよ」
俺たちの試合を観戦していたナナがポツリと呟いた。
「お兄ちゃん、弱い…」
うっ、正直な感想が俺の心に突き刺さる。
1回戦6試合、2回戦3試合が終了したあと、勝ち残っていたのはアンナさん、ナナ、そしてアリスさんだった。
ちなみに、イザベラお嬢様とサリーは1回戦負け、オーレリーちゃんは1回戦を突破したものの2回戦で負けてしまった。てか、対戦相手がナナだったから仕方ないね。
最後の総当たり戦は、ナナが2勝0敗で優勝、アリスさんが1勝1敗で2位、アンナさんが0勝2敗で3位という結果で終わった。
てか、アリスさん大健闘だよ。俺が負けたのは当然って感じの強さです。あれ?今日初めてプレイした初心者だよね?地頭が良いんだろうな、きっと…。
「うーん、ナナ君、強いねぇ。この王都で一番強いんじゃないか?ふふ、お兄さんとは大違いだな」
いや、アリスさん、死体蹴りは止めてほしいのですが…。俺のライフはゼロですよ。




