表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/373

135 新たな依頼

 春の日差しがポカポカと暖かく感じられるようになってきたある日、俺たち『暁の銀翼』のメンバー全員は冒険者ギルド『エベロン支部』の支部長室に呼び出されていた。

 用件は不明だけど、別に怒られるようなことはしていないはずだ(ちょっと緊張…)。


 ちなみに、ライオネル商会の事件からすでに二か月は経過していて、その間ずっと俺たちはアインホールド伯爵家の王都別邸に身を寄せている。

 アインホールド伯爵様もご自分の領地(アインホールド領)には帰らず、王都に居続けているよ。領地経営(統治)は大丈夫なのだろうか?

 春先(年度始め)には全ての貴族が王都に集結するって話だから、それまでは王都に滞在するつもりなのだろう。ただ、エイミーお嬢様が単独で王都へ来ることになるから、それだけは伯爵様も心配そうにしていたよ(もちろん、アインホールド伯爵家騎士団が護衛に()くんだけど…)。

 そう言えば、アキさん(アーキンアトキンセル嬢)がアインホールド領の領都リブラへ旅立ったって話を伯爵様から聞かされたな。エイミーお嬢様が王都へ向かう際の護衛を務めるためだ。

 うん、『棒の騎士』であるアキさんが付いていれば、大規模な盗賊団に襲撃されても全く問題ないね。間違いなく返り討ちにしてくれるだろう。


 俺たちは毎日、戦闘訓練を屋敷の裏庭で行いつつ、各人のスキルレベルの向上に努めている。

 もちろん、冒険者ランクを上げるために、たまにギルドの依頼も受けているよ。一週間に一件くらいのペースだけど…(その程度であっても、かなりの収入を得ているのだ)。

 なお、俺は収入のほとんどを魔道具の材料購入に()てているため、【細工】のスキルレベルはかなり上がったものの、慢性的な金欠状態になっている。

 女性陣の(ふところ)具合は知らないけどね。服や下着、化粧品などに費やしているのだと思うが、俺としては特に関心もない。なにしろ全員が【アイテムボックス】持ちなので、何を買っているのかなんて、全く分からないのだ。


 …っと、話を戻そう。

 俺たちの目の前には冒険者ギルドの支部長が座っている。かなりの高齢で、優しそうな好々爺(こうこうや)って印象を受ける。ただ、その眼光は鋭くて、さすがは王都の支部長を務めるだけのことはあるって感じかな。

「君たち『暁の銀翼』の活躍は部下たちから聞いておる。Dランクパーティーでありながら、その実力がAランクに(せま)るものであることもな」

「過分なご評価をいただけて、光栄に存じます」

「くっくっく、そのような受け答えができることだけを見ても、君たちの非凡さが分かるというものだわい。さて、今日ここに来てもらったのは、君たちに指名依頼を出したいからなのだ」

 ん?またアインホールド伯爵様からの指名依頼かな?

 いや、伯爵様からならば、今日の朝食時にでも事前に話があったはずだよな。


「依頼(ぬし)(わし)個人だ。もっとも本当の依頼者は王室だがな」

 俺たち全員の驚愕の表情を見て、嬉しそうにしている支部長の爺さん。してやったりといった表情だ。

「それはAランクパーティー、例えば『炎の蜂(フレイムビー)』などへ依頼すべき案件ではないのでしょうか?」

 『炎の蜂(フレイムビー)』とはAランク冒険者のマクベスさんとBランク冒険者のカミーラさんのパーティーだ。ちなみに、カミーラさんは既にCランクからBランクへ昇格している。うちのオーレリーちゃんの以前の仲間だね。

「いや、戦闘力だけではダメなのだ。今回の案件に求められるのは『問題解決能力』なのだよ。君たちの積み上げてきた功績はアインホールド伯からも聞いておるよ。(わし)が求めているのは、まさにそういう能力なのだ」

 うーん、何かの調査任務ってことかな?

 このあと、詳しい話を聞いてみた。まとめると、以下の通りだ。


・この王都の北東、北西、南東、南西の四か所に存在するスラム街の内、一か所で奇妙な病気が蔓延しつつある。

・王室の(めい)によってすでに調査は開始されており、それによると発生源は屎尿(しにょう)()み取り業者からではないかと考えられている。

・病気の症状は発熱、嘔吐、下痢などであり、重症化した者の中には死者も発生している。

・治癒ポーションや【光魔法】のヒール系を使用しても、改善するどころか、かえって症状が悪化する。

・【鑑定】によって『状態』を確認すると『健康』ではなく『毒状態』になっている。

・解毒ポーションや【光魔法】のキュア系を使用することで一時的にではあるが、その症状は改善する。ただ、完治には至らない(一定時間後、『毒状態』に戻ってしまう)。

・安静にしておくことで快癒(かいゆ)する者も出てきているが、繰り返し罹患(りかん)する者もいる。


 余談だけど、この王都の街壁の外側には農地が広がっていて、王都民の口に入ることになる野菜類を育てている。汲み取り業者が集めた王都民の屎尿(しにょう)は、その畑の肥料として使われているらしい。

 この王都ですら上下水道の整備は行われておらず、飲み水は川か井戸(両方とも必ず、煮沸(しゃふつ)して利用)であり、排泄物(はいせつぶつ)は汲み取り方式なのだ。


 話を聞いただけでは判断しづらいけど、コレラっぽい?いや、赤痢(せきり)って可能性もあるな。

 てか、そもそもそれは地球産の菌だよな。この世界にもあるのだろうか?

 俺のような地球からの転移者がいるのだから、コレラ菌や赤痢菌が転移して来ている可能性もゼロじゃないか…。


「依頼内容は、この病気の原因を探ること。できれば治療法を見つけてくれれば言うこと無しだ。まぁ、医者でもない君たちに期待するのは(こく)かもしれん。だが、(わら)にもすがる思いなのだよ。もちろん、依頼を達成できなくてもペナルティは無いし、失敗扱いにもしないことを約束しよう」

 なるほど、俺たちは(わら)か…。だとすれば、そんなに気負わなくても良いかもしれないな。

 それよりスラム街と聞いて、オーレリーちゃんが真っ青な顔色になっているよ。親父さんが住んでいるから、決して他人事(ひとごと)じゃないのだ。


 オーレリーちゃんが(すが)るような目で俺のことを見ているけど、俺の気持ちはすでに決まっているよ。

「お兄ちゃん、当然受けるよね?」

「ああ、俺は受注に賛成だが、皆の意見も聞いてみたい」

 アンナさんとサリーも、そして言うまでもなくナナとオーレリーちゃんも賛成してくれた。全員が受注賛成ってのが、リーダーとして誇らしい。


「そのご依頼、『暁の銀翼』で受けたいと思います。まずは初期の調査を行った担当者に直接聴取(ヒアリング)したいのですが…」

「おぉ、そうかそうか。ホッとしたぞ。そうそう先ほど言い忘れたが、病気の終息までの期間が分からんから、報酬の算定が難しい。ゆえに、今日から一日あたり20万ベルを支給していくが、それで構わないだろうか?調査活動費ということだな」

 五人で割れば、一人あたり一日4万ベルってことか…。まぁ、妥当かな。

 本当はCランクやDランクの魔獣討伐依頼を受けたほうが儲かるんだけど、王都の危機だからなぁ(王都中に病気が蔓延する可能性はゼロじゃない)。

 今ではこの国に対してかなりの愛着が生まれているのもあって、恩返しの意味も込めて頑張るとしよう。あ、決して無理はしないし、させないけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ