134 後日談
「本当に、本当にお世話になりました。サトルさんたちに出会えていなかったらと思うと、ぞっとします。本当にありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
タロン君の音頭でナーレ君、そしてアリちゃんやサラちゃんも、俺たち『暁の銀翼』メンバー全員に対してお礼を言ってくれた。
余談だが、冒険者ギルド『エベロン支部』から支部長決済によって、迷惑料及び事件解決協力費という名目で50万ベルが『フセ村青年団』へ支給された。これは受付嬢だったマリーナさんの件を吹聴しないようにという口止め料も兼ねているらしい。
いや、口止め料にしては安過ぎるんじゃないの?
まぁ、タロン君たちが事件の詳細を周りにペラペラとしゃべったりすることは、元々無いだろうけどね。
上記のお金の使途を質問したら、こう答えてくれた。
「馬車を買えるほどではないので、人力で引っ張る荷車でも買おうかなと思ってます。あとはスキルの【コーチング】費用にあてたりとか…。とにかく、個々人には分配せず、パーティー資金として今後の冒険者活動に役立てていくつもりです」
うん、なかなかしっかりとした考えだ。これなら何も心配いらないだろう。
「先のことは分からないけど、俺たちも当分の間はこの王都にいるつもりだからね。何かあったら遠慮せずに相談してくれよ」
「はい!よろしくお願いします」
うん、真面目で気持ちの良い青年たちだったよ。彼らの今後の活躍を祈りたいね。
・・・
『フセ村青年団』の四人と別れた直後、ナナから言われたのは謎の言葉だった。
「お兄ちゃん、気づいたかな?アリちゃんとサラちゃんがお兄ちゃんを見る目に…」
「え?なんだそれ?恨まれるような心当たりは無いぞ」
「はぁ~、なんでそういう発想になるかな…。いや、気づいてないんだったら、別に良いんだよ。あ、心配しなくても恨まれてるわけじゃないと思うよ」
そうか…。てか、俺を見る目って何だ?まさか、惚れられたりなんてことがあるわけ無いし、憧れとか尊敬とかかな?だったら嬉しいけど…。
「サトルはあの子たちにとってヒーローなんだよ。お貴族様や警吏の人たちからも一目置かれていて、危機一髪の状況でも颯爽と問題を解決してくれる英雄ってことだと思うよ」
「そういうサリーだって英雄だぞ。あのときよく俺と一緒に動いてくれたよ」
爆発の人工遺物が発動する寸前の状況を思い出すと、今でも身体に震えが走るよ。
ナナがライオネル氏の目潰しをして、サリーがその手首を切断してくれなければ、俺たちは全員死んでいた可能性があったのだ。いや、可能性じゃなく、間違いなく死んでいた。
「サトルさん、あのときはお役に立てず申し訳ありませんでした。色々と考えてしまい、咄嗟には動けなかったです」
「いえ、アンナさん。それが普通ですよ。というか、あの場にいた警吏の人たちだって、誰一人として動けていませんでしたからね」
そうなのだ。会議室の後方に立っていた警吏の人たちって、距離的には俺たちよりもライオネル氏に近かったにもかかわらず、完全に硬直してたからね。
でも、下手に動かなかったことが、結果的には良かったんだけど…(俺たちの邪魔にならないという意味で…)。
「サトル様、格好良かったです。そう言えば、あの人工遺物って、【アイテムボックス】の一覧にはどのような名前で表示されているのですか?」
「オーレリーちゃん、ありがとう。あれは『サーモナックラー(右手付き)』って名前になっているよ。名前だけじゃ爆発物かどうかは分からないね」
いや、本当は分かってます。直訳して『熱核(兵器)』ってことだよね。超小型の核融合爆弾ってことですよ。…って、まじかよ。
非核三原則を順守している日本人としては、核反応1秒前の物が【アイテムボックス】内に収納されてるのは、まじで何とも言い難いです。
ナナが何とも言えない顔で俺を見ていたのだが、一言だけ釘を刺してきた。
「お兄ちゃん、絶対に、ぜぇっ~たいに取り出さないでよ。まじでお願いね」
ああ、ナナにはあれが何なのか、その名前から推測することができたのだろう。
一応、安心させておくか…。
「分かってるよ。それにしても俺の【アイテムボックス】内が時間経過無しで良かったよ。でなきゃ、【アイテムボックス】の中で爆発したあと、収納されているもの全てが放射能汚染されていただろうからね」
ナナが安堵の表情になったことから考えて、俺とナナの推測は一致していたみたい…。
それにしても、あんな危険なものが人工遺物として世の中に出回っているってのが恐怖だよな。よく今まで事故が起きなかったものだ。




