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132 事情聴取③

 アインホールド伯爵様の話は続く。

「裏帳簿によってこれまでに脱税した額が判明すれば、追徴課税を含めて大変な金額になるだろうな。ライオネル商会の持つ全ての娼館経営の権利を売り払ったとしても、果たして払える額になるかどうか…」

「き、貴様は何者だ!?」

「僕は王室の(めい)を受けてこの件を調査しているグレゴリー・アインホールドという者だよ。ああ、一応伯爵()を持っている貴族だからね」

「お、王室…。なぜ…」

 ライオネル氏は脳の処理能力を超えるような情報量の多さに、死にそうな表情になっている。


「ツキオカ殿の依頼だからね。そりゃ王室も動くさ」

 ちょっ!どういうこと?

 伯爵様が俺のことをどういう風に王室に伝えているのか、めっちゃ気になる…。

 あと、『暁の銀翼』メンバーは平然としていたけど、『フセ村青年団』の四人と警部さんたちが目を見開いて俺を見ているよ。あとで、どう誤魔化せば良いんだ?


 …っと、このタイミングで救いの神が現れた。

 会議室前方のドアから入室してきたのは、数冊の帳簿を両腕に抱えている警吏の人だった。

「遅くなりました。税務当局に提出されている数値の元となる帳簿類とは別に、裏金を記載している裏帳簿を発見しました。脱税や贈賄に関する詳細が、これにより明らかとなっております。正確な金額は後日計算するとして、ざっくりとした計算では累計で5億ベルほど脱税していました」

 おぉ、なかなかの額だな。これは重加算税もかなりの額になりそうだね。

 計算に使ったメモ用紙と共に帳簿類を警部さんに渡した彼は、敬礼をしたあと退室していった。


 警部さんはこの場の議長としての責任を思い出したのか、総括に入った。

「それではライオネル商会会頭のライオネル氏を『詐欺罪』及び『贈賄罪』、並びに『所得税法違反』の罪により逮捕する。なお、現時点をもってライオネル商会の全財産を凍結する。経営する店舗に関しては、裁判の終了まで閉店処分とする。そこにいるライオネル氏以外の三名についても、犯罪への関与を調査するため、警吏本部へ同行してもらおう」

 警部さんのこの言葉のあとに、アインホールド伯爵様が更なる追い打ちをかけた。

「君の店の女の子たちへの慰謝料の支払いもしてもらうよ。そうだな…、一人あたり1,000万ベルってところかな。5店舗合わせて100人近くいるみたいだし、総額で10億ベルは必要だろうね。あ、追徴課税と慰謝料の支払いについてだけど、もしも払えない場合は、犯罪奴隷として鉱山送りになるだろうね。まぁ、頑張って働いて、せいぜい稼いでくれたまえ」


 ライオネル氏には(わず)かながらも希望があったはずだ。

 保釈金を積めば拘置所に入ることもなく、裁判官を買収すれば無罪を勝ち取ることも夢ではない。要するに金さえあれば、大概のことは何とかなるものだ…と。

 それが財産凍結に加え、とても払えそうにない税金や慰謝料の額…。

 いったい、どこで間違ったのか。そんなことを考えているに違いない。まぁ、自業自得だよな。


「くっ、くそが…。もはや終わりだ。こうなればお前らも道連れにしてやる」

 ライオネル氏の目が狂気の色を帯びているように見えた。なんか眼球が血走っているよ。

 右手で服の内ポケットから取り出したのは15cmくらいの長さの棒みたいな物体だった。陸上のリレー競技で使うバトンみたいな感じかな?

 ライオネル氏は棒の端を握っている。そして、その棒の手元のほうには赤い光が3つ、先端のほうに向かって緑の光が7つ点灯していた。

「こ、これは爆発ポーションよりもずっと強力な爆発を引き起こす人工遺物(アーティファクト)だ。半径50メートルが更地(さらち)になるほどの威力だぞ。わ、私を追い詰めたお前らが悪いんだからな」

 その言葉が発せられたあと、緑の光が1秒間に一つずつ消えていく。まさか10秒後に爆発するのか?


「お兄ちゃん!」

 ナナの言葉に俺は机を一足飛びに乗り越えて、目の前にいるライオネル氏に向かって走り出した。隣にはサリーも並んで走っている。

 ナナは閃光銃(フラッシュ・ガン)を【アイテムボックス】から取り出して構えているし、サリーはロングソードの()を両手で握って走っているという状態だ。

 緑のランプが全て消えて、残りは赤ランプ3つになっているのが確認できた。


 ナナが閃光銃(フラッシュ・ガン)引き鉄(トリガー)を引いたのだろう。閃光がライオネル氏の視力を奪った。

 右手に棒を掲げた状態で、左手で両目部分を覆って棒立ちになっているのが確認できたよ。

 サリーがライオネル氏の右手首の部分をロングソードによって一閃した。棒を握ったままの状態で身体から切り離された右手が、くるくると回転しながら落ちてくる。

 俺はジャンプして机の上に身体を投げ出した。伸ばした手が棒を(つか)んだ瞬間、照準(レティクル)を合わせ、それを右手ごと【アイテムボックス】に収納した。最後に見えた赤ランプの状態は、残り1個だったよ。


「うがぁー、手がぁ」

 叫んでいるライオネル氏に【光魔法】の中級【グレーターヒール】をかけて、止血してあげた。最後の慈悲だよ。

 なお、これで右手が元通りになるわけじゃない。【グレーターヒール】で部位欠損は修復できないからね。

 まぁ、とは言っても【光魔法】の上級【リジェネレーション】を使えば部位欠損も治せるので、神官に高額なお布施を払えば治してくれると思うよ。あ、もはや払えないか…。


 いやはや、それにしても危機一髪だったよ。

 単なる脅しだったのか、本当に爆発する人工遺物(アーティファクト)だったのかは、もはや確認しようがないけどね。

「ナナもサリーも見事な連携だったよ。これからずっと、俺の【アイテムボックス】の中に、爆発物を握った状態の右手が存在するってのが憂鬱だけどな」

 取り出した瞬間に爆発するからなぁ。はぁ~(溜め息)。


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