131 事情聴取②
タロン君が立ち上がって話し始めた。
「一週間前、僕たちに10万ベルを貸していただいたことには感謝していますが、ただ、その際のライオネルさんの説明に嘘がありました。返済期限は無しだと聞いていたのに、借用書では期限が一週間後になっていました。しかも、その返済のために、僕たちのパーティーの女性メンバーをライオネルさんの店で働くよう、今まさに強制されています」
議長である警部さんが思案顔になった。
「ふむ、それが本当であれば詐欺罪が成立するな。では、ライオネル氏側の反論を聞こうか」
タロン君が着席し、代わりにライオネル氏が立ち上がった。
「私は確かに、返済期限が一週間後であることをご説明申し上げましたよ。それでもギルドへの違約金の支払いで困窮していたのでしょう。彼らはそれを納得したうえで借りられたわけですな」
「なるほどな。双方の主張に食い違いがある以上、目撃者を探さねばなるまい。ただ、タロン氏の主張には無理があるな。返済期限の無い借金など存在するわけがない」
まぁ、そりゃそうだ。普通に考えたら、社会的地位の高いライオネル氏のほうを信用したくなるだろうね。
ここでナナが右手を上げて発言を求めた。
「そもそもギルドへの違約金につきましては、受付嬢であるマリーナさんが『フセ村青年団』を陥れたことによって発生したものです。これはライオネルさんの命令によるものだったと、マリーナさん自身の証言を得ています」
会議室の前方にあるドアから青白い顔をしたマリーナ嬢が入室してきて、ナナの発言を肯定した。
「私の父親がライオネル商会から借金をしておりまして、言うことを聞かない場合は私の妹を娼館で働かせると脅されました」
ライオネル氏は余裕の態度を崩さず、冷笑を浮かべながら言った。
「その女性が自分の罪を軽くするために、私に罪をなすりつけようとされているみたいですね。私があなたに命令したなどと、証拠はあるのですか?証拠は…」
ナナが再度立ち上がった。手にはスマホを持っている。
「マリーナさんへ命令したことに関する証拠は無いでしょう。ですが、これを聞いてください」
・・・
「やあ、タロンさんじゃないですか。ライオネルです。憶えてらっしゃいますか?」
「は、はぁ。お久しぶりです」
・・・(中略)・・・
「ここには何が書いているのですか?」
「利息が年10%であることや、あとは特に返済期限を定めないことなどですね」
「え?返済期限が無いんですか?」
「もちろんです。若者を支援するのが私の趣味ですから」
「本当にそれだけですか?もしもあなたの説明とこの書類の記述が違っていたら大変なので、ギルドの人に聞いてみても良いですか?」
「私を疑うのですか?ならば、この話は無しですね。10万ベルは別の方から借りてください」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ…」
「まぁ、警戒するのは当然でしょう。そうですね。この借用書の文言と私の口頭での説明に差異があった場合は、借金そのものを無効にしても良いですよ。つまり、10万ベルは差し上げる形になるわけです。まぁ、返済期限無しですから、同じようなものですがね」
・・・
会議室の中は静まりかえっている。
ライオネル氏はさすが海千山千の実業家だね。顔色を変えることなく座っていたよ。ただし、微動だにせず、硬直してたけどね。
タロン君たちも、一週間前のやり取りがそのまま再生されたことに驚いていたよ。
最初に復帰したのは議長役の警部さんだった。
「この声は間違いなくライオネル氏の声だな。もはや言い逃れすることはできないだろう。うむ、詐欺罪が成立するのは確実だ」
「わ、私の声じゃない…」
「小さくて見えづらいかもしれないですが、映像もありますよ。はっきりとライオネルさんの顔が記録されていますから」
ナナがスマホの映像を警部さんに見せてあげていた。
「ふむ、確かに…。それにしてもこれは素晴らしい人工遺物だな。取り調べの状況を記録しておけば、裁判の際に証言をひっくり返されることもなくなるではないか」
物欲しそうにスマホを見ている警部さん…。いや、あげないよ。
ここで再度前方のドアが開いて入室してきた男性が二人…。
一人はロータス子爵で、もう一人はアインホールド伯爵様だった。子爵は貴族っぽい服装だけど、伯爵様はラフな格好をしていたよ。
ロータス子爵の姿を確認したライオネル氏の顔に生気が戻った。
「子爵様、あなた様のお力で私の苦境をお救いください。あなた様の忠実な僕たるこの私に、無礼な平民どもが難癖を付けてきているのです。どうかよろしくお願い申し上げます」
てか、ロータス子爵って久しぶりだな。『勇者の斬撃』のゲイル君の父親じゃん。
ライオネル商会の後ろ盾って、この人だったんだ。
子爵はライオネル氏を無視して、俺に向かって話しかけてきた。
「ツキオカ殿、久しいな。息子の性根を叩き直した結果、今ではかなりマシになってきたぞ。全て君のおかげだ。感謝する」
「それは良かったです。ところで、子爵様はライオネル商会を擁護なさるおつもりですか?」
「まさかっ!犯罪者を庇うつもりなど毛頭ない。いや、それ以前に、君と敵対することなど考えられない」
これを聞いたライオネル氏の表情は、魂が抜けたようになっていた。最後の頼みの綱だったのだろう。それがこんなにあっさりと切れてしまったわけだからね。
どうでも良いけど、警部さんが俺のことを気味悪そうに見ていた。…が、気付かなかったフリをした。
次いで、アインホールド伯爵様が話し始めた。
「ロータス子爵はライオネル商会に出資はしていたけど、犯罪には加担していなかった。これは暗部の調査によるものだから、100%信用できるよ。ちなみに、ライオネル商会の裏帳簿の隠し場所も暗部の調査担当者が見つけてくれたからね。今頃は隠し場所に踏み込んだ警吏本部の別動隊が、それを見つけている頃じゃないかな?あ、裏帳簿を見つけ次第、こちらに持ってくるように手配しているよ」
ライオネル氏がガタッと椅子を後ろに倒しながら立ち上がった。やはり裏帳簿があったのか…。
これは面白くなってきたね。




