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130 事情聴取①

 言い忘れていたが、グリズリーベア討伐依頼に関しては窓口ではなく、応接室のほうで達成手続きをしてもらった俺たち…。

 もちろん『フセ村青年団』とナナの五人が部屋を出ていったあとのことだ。

 グリズリーベアの正規の討伐報酬が3体分で90万ベル。さらに20kgを超える分の熊肉と胆嚢(たんのう)の納品によって、1体あたり150万ベルの追加報酬になったよ。

 つまり、総額で540万ベルだ(ダイアウルフとホーンラビットの納品は行わず、【アイテムボックス】に収納したままだけど…)。

 この高額な追加報酬は、死体を丸ごと解体所に納品できたことによるものだ。ちなみに、『新鮮な状態の死体を丸ごと』という状況に歓喜した解体所の責任者の判断で、解体料金は無料になった。

 さらに余談だけど、報酬の分配は一人100万ベル(白金貨1枚ずつ)ってことにして、端数の40万ベルはパーティー資金にしたよ。


 ナナの【アイテムボックス】に入れてるグリズリーベアの死体もあるのだが、それについてはライオネル商会がすぐに接触してきたらしいので、あとで解体所に持ち込むことになった。

 で、問題はナナの住まいなんだけど、タロン君たちと同じ宿屋には泊まりたくないそうだ。あ、これはタロン君やナーレ君を警戒しているわけじゃなく、単純に安い宿屋であるため、固いベッドに加え、清潔とは言い難い環境なのが嫌なんだってさ。

 そういうわけで、ナナはこれまで通り、俺たちと一緒に貴族屋敷(アインホールド伯爵家の王都別邸)に滞在している。まぁ、大丈夫だろう(ライオネル氏には気づかれないと思う)。

 あと、借金の返済期限である一週間後までは、タロン君たちの冒険者活動については休止にしてもらった(メンバーの一人が急病って(てい)で…)。ちなみに、俺たちも休養している(ナナが俺たちと一緒に活動していると、ライオネル氏に疑われるおそれがあるからね)。

 なお、それまでの『フセ村青年団』四人分の生活費については、ライオネル商会から借りた10万ベルで(まかな)ってもらうことにした。いや、そもそも違約金なんて発生していないのだから…。


 ・・・


 そして一週間が過ぎ去った。

 昼過ぎに冒険者ギルド『エベロン支部』を訪れた『フセ村青年団』とナナの五人。

 もちろん、アンナさんとサリー、オーレリーちゃんと俺も物陰に隠れて様子を(うかが)っている。


 …っと、そこへ現れたのがライオネル氏だ。彼は護衛らしき屈強な男たち三名を引き連れていた。多分、抵抗する女の子たちを力づくで引っ張っていくためだろう。

「タロンさん、お久しぶりですね。借金返済のご都合はつきましたか?昨日の時点で返済期限は過ぎているのですが…」

「え?あの借金って返済期限無しだったんじゃ?」

「そんな馬鹿な話があるわけないでしょう。常識でお考えください。借用書にも『一週間が期限である』(むね)しっかりと記載されておりますので、裁判にでもなれば私どもが勝つのは間違いありません」

「でも僕たち、返せるお金なんて持ってないです」

 タロン君が困惑顔だ。てか、演技してもらっているんだけどね(なかなかの名演です)。


 それを聞いたライオネル氏は、にちゃぁっとした嫌らしい笑みを浮かべて、こう言った。

「それでは仕方ありませんな。アリさんとサラさん、それにナナさんの三人にはうちの店で働いていただきましょう。労働で返済していただくわけですね」

「な、何のお店ですか?」

 アリちゃんが質問した。

「くっくっく、ライオネル商会が経営しているのは、大人相手のお店ですよ。優しいおじ様方に可愛がってもらうだけの簡単なお仕事です。ご心配なく」

 ここで娼館って明言しないのが、また嫌らしい…。


 さて、ここから反撃開始だな。

 ちなみに、一週間前の時点で詐欺罪で逮捕することもできたんだけど、後ろ盾となる貴族の存在を調べたり、税務調査を進めるためにわざと泳がせていたのだ。

 俺は広いロビーで立ち話をしている彼らに近づき、こう話しかけた。

「こんにちは、皆さん。込み入ったお話をするのに立ち話ではなんですから、こちらへどうぞ。ギルドの会議室をお借りしております」

「あなたは誰なんですか?関係無い方は口を出さないでいただきたいものですな」

「俺はこの子たちの先輩であって、決して無関係ではありません。あ、警吏(けいり)本部の方もお呼びしておりますので、同行を断られる場合には、何らかの疑惑が生じるおそれもありますよ」

 ライオネル氏は『警吏本部』という単語に一瞬ビクッと反応したけど、自分の策は完璧だと信じているのだろう。俺たちと共に大人しく会議室へ向かったよ。


 その部屋は、新人冒険者向けの講習会等で講義室として使用されたり、ギルド幹部が会議をする際に使われたりする多目的会議室だった。定員は50名くらいなので、そこそこ広い。

 現在はコの字型にテーブルを配置しており、中央に警吏本部の方(階級は警部だと言っていた)が座り、窓側にライオネル氏と護衛3名、出入口側に『フセ村青年団』と『暁の銀翼』合わせて9名が着席した。なお、会議室の後部には、警吏5名が後ろ手に腕を組んで立っている。


 議長となる警部さんが第一声を発した。

「さて、本日は『フセ村青年団』に対する詐欺事件について、事情聴取を行いたいと思う。容疑者となるのは、ライオネル商会会頭であるライオネル氏だ。まずは原告である『フセ村青年団』のタロン氏から発言を許可する」

 実はこれ、時間稼ぎも兼ねている。捜索差し押さえ令状を持った警吏たちがライオネル商会の経営する娼館へ踏み込んで、裏帳簿などを捜索しているのだ。そう、今まさに…。


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