128 囮捜査
「それはどういうことだね?」
主任さんの質問に、タロン君たちに罠を仕掛けた(と思われる)マリーナ嬢がテーブルに手をついて頭を下げた。
「ごめんなさい。字が読めない彼らに達成できそうにない依頼を斡旋しました。そうしないと親の借金のカタに妹を連れて行くと脅されて…」
マリーナ嬢に詳しい話を聞いてみると、今回の企みが明らかになった。
・仕掛けたのはライオネル商会であり、そこは性風俗の店を5店舗ほど展開する新進気鋭の商会である。要するに、娼館だな。
・風俗店の従業員については、その多くを違法すれすれの手段で確保しているらしい。
・手口としてはまず借金を持ち掛け、返済不能状態にしたあと、(返済のためと称して)若い女の子を娼婦として商会が経営する店で働かせる。これが強制だったら違法なんだけどな。
・利息制限法に引っ掛かるような違法な金利は取っていないため、警吏本部でも取り締まりは難しいとのこと。あくまでも借金返済のための働き口を紹介しているという建前なのだ。
うーん、それにしても酷い話だ。
「おそらくそちらの女の子二人が可愛いため、目を付けられたのだと思います。妹を守るためとはいえ、本当に申し訳ありませんでした」
あぁ、可愛い女の子二人って、アリちゃんとサラちゃんのことだね。
マリーナ嬢に対する怒りもあるけど、それ以上にライオネル商会に対する怒りがふつふつと湧いてくるよ。
どうにかできないものだろうか?
マリーナ嬢を詐欺罪として告発はできるだろうけど、共謀共同正犯としてライオネル商会を罪に問えるだろうか?いや、間違いなく関与を否定するはずだし、かなり難しいだろうな。
明白な法律違反さえあれば、叩き潰せるのになぁ。
「お兄ちゃん、この商会を潰そう。今のままでは罪に問えないのなら、冤罪を作れば良いんだよ」
「いやいや、冤罪はダメだろ。それより納税はきちんと行っているのかな?もしかして脱税してたりしてな」
ナナと俺の会話にアンナさんも加わった。
「サトルさん、それはあり得ますね。もしかしたら後ろ盾となる貴族が付いているかもしれませんし、そのような商会は脱税していることが多いという噂です。あくまでも噂ですが…。貴族家から警吏本部へ圧力をかけて、なかなか摘発に踏み切れない状況を作ったり、摘発情報をこっそりリークさせたりするそうですよ」
へぇー、やはりどこの世界も同じだな。
仕方ない…。またアインホールド伯爵様を頼るしかないな。借りがどんどん膨らんでいくよ。はぁ~。
とりあえずマリーナ嬢の妹さんの身の安全のために、ダイアウルフ討伐依頼は未達成で、違約金が発生したという形にしてもらった。タロン君たちには気の毒だけど…。
これによってライオネル商会側から『フセ村青年団』へ何らかの接触が図られるはずだ。つまりは囮捜査だな。
「お兄ちゃん、私が一時的に『フセ村青年団』に入って、糞商会からの接触を待つよ。向こうの言い分をしっかり録音して、借用書についても読めないフリをしながら、こっそりと確認すれば良いんじゃないかな?」
「ああ、きっと酷い内容の契約書だろうから、口頭での説明との食い違いで詐欺罪が確定するかもしれないな」
てか、糞商会って…。そんな言葉づかいをするような子に育てた覚えはありませんよ。
主任さんの伝手で警吏本部の人にも話を通すことにして、さらにマリーナ嬢にも口止めした。
タロン君たちにも協力を要請し、一時的にナナが『フセ村青年団』に加入したことにしてもらったよ。
くくく、さぁーてどんな感じで接触してくるだろうね。ちょっと楽しみでもある。
・・・
その日の夜、アインホールド伯爵家の王都別邸にて…。
「ツキオカ殿、君たちは相変わらず、事件に首を突っ込むのが好きだな。まぁ分かったよ。僕のほうでライオネル商会の後ろ盾となっている貴族がいるかどうか調べておこう。この王都で犯罪者の跳梁を許さないのは王室も同じだから、暗部の人員も使えるしね」
え?暗部って、国の諜報活動や暗殺なんかを受け持つ機関じゃなかったっけ?
伯爵様って何者だよ…。なんか怖いよ。




