126 実戦テストの帰路
街道沿いにある道の駅っぽい休憩所でトイレ休憩と昼食を摂って、一息ついた俺たち…。
戦果はすでに十分なので、このまま王都へ帰還する予定だ。
この休憩所には他にも休憩中の人が何人か居たんだけど、その身なりから判断するに(商人や旅人ではなく)冒険者っぽい。商人であっても自衛のために剣を佩いている場合もあるけど、この若者たちは多分、雰囲気的に冒険者だろうな。
まだ高校生くらいに見える男女四人(男性二人、女性二人)のパーティーだ。いや、パーティーかどうかは知らんけど。
【鑑定】してみれば『職業』の表示で冒険者かどうかが(あと冒険者ランクも)分かるんだけど、絡まれてもいないのに【鑑定】するのはプライバシーの侵害だから控えよう。てか、絡んでくる奴に対しては、いつも遠慮なく【鑑定】してるけどね。
四人の内、男性二人がショートソードを腰に提げていて、女性一人が短剣、もう一人の女性は弓を持っていたよ(矢は矢筒に入れた状態で背負っていた)。
俺たちは山で拾ってきた木の枝なんかを燃やして暖を取っていたんだけど、そこへ冒険者らしき男性のほうから話しかけてきた。
「行商人の方ですよね?すいませんが火を貸してもらえませんか?」
あー、火をつける魔道具も無く、火の魔術師もいない場合って、着火は重労働なんだよな。てか、行商人じゃないんだけど…。
「良かったらこっちに来て、同じ火にあたらないか?俺たちは構わないよ」
こういうときは助け合いの精神だよな。別に悪そうな顔つきでもないし…。
こちらの集団が若い女性ばかりであり、オーレリーちゃんなんか幼い子供にしか見えないせいだろうか。物怖じせずに近付いてきて、一緒に焚火を囲んだ彼ら、彼女らだった。
どうやら王都で冒険者登録をしたばかりの駆け出しのFランク冒険者で、全員が近くの村の幼馴染だそうだ。
俺たちに話しかけてきた男性がパーティーのリーダーで、タロン君という名前らしい。もう一人の男性は少し気弱そうだけど、優しそうな感じのナーレ君。
金髪ショートの短剣持ちの女性が斥候役のアリちゃん。銀髪ロングで弓士の女性はサラちゃんという名前だそうだ。
女性は二人とも割と可愛い。幼馴染が可愛いって、タロン君とナーレ君の人生は勝ち組決定だな。
こちらも順番に自己紹介をしたんだけど、俺たちが冒険者であることに驚いていた。特にアンナさんがDランクであることに…。
さらに、オーレリーちゃんが冒険者であることに…。いや、12歳くらいに見えるけど、15歳だから…。
余談だけど、タロン君たちのパーティー名は『フセ村青年団』という名前だそうだ。フセ村の出身ってことがすぐに分かる良い名前だね。
「え?この馬車って借り物じゃなく、パーティー資産なんですか?すごいですね。あー、僕たちも早く馬車が持てるようになりたいなぁ」
タロン君の言葉にパーティーメンバー三人が頷いていた。そう、現地までの移動手段としても、狩った獲物の運搬用としても馬車は便利なんだよな。
「ある商会が僕たちにお金を貸してくれるって申し出てくれたんですけどね。担保も保証人も無しで…。ただ、僕たちってまだまだ新米で、返済の見込みも立たないので断っちゃいました」
「へぇ、奇特な商会もあるもんだね。何という商会?」
「ええっと、たしかライオネル商会って名前だったと思います」
Fランクの新人冒険者に気前よく金を貸そうとするってのは、なんだか怪しいな。断って正解だったと思うよ(推測だけど…)。
「そう言えば、君たちも何らかの依頼で王都の外へ出ていたのかい?」
「はい、この近くの森の外縁で薬草採取です。一応、納得できる数が集まったので、今から王都へ帰るところでした」
おぉ、薬草採取…。俺も最初はそればっかりやってたなぁ。
ポーションの安定供給のためにも重要な仕事だよ。
うーん、袖すり合うも他生の縁って言うし、この若者たちを馬車に乗せてあげようかな?
アンナさん、サリー、ナナ、オーレリーちゃんの順番で顔を見合わせていくと、全員が無言で頷いてくれた。以心伝心だよ。
「君たちさえ良ければ、うちの馬車に乗っていかないか?俺たちも今から王都へ帰るところなんだよ」
「え?良いんですか?すっごいありがたいです。なぁ、みんな」
タロン君の言葉にナーレ君、アリちゃん、サラちゃんも口々にお礼を言ってくれた。うん、良い子たちで安心した。
まぁ、ついでだしね。馬たちにとっては少し負担が大きくなるだろうけど、我慢してもらおう。
俺とオーレリーちゃんが御者席に座り、荷台には7人が乗っているという状態で王都へ帰り着いたのは、それから約1時間後のことだった。
荷台では会話が弾んでいたみたいだけど、俺は陰キャ特有の人見知りを発動して御者席にいることを選択した。てか、会話に加わった場合、この世界の常識を知らないので、雑談の中で変なことを言ってしまいそうだからね。
街門での審査も問題なく終わり、そのまま冒険者ギルド『エベロン支部』へ向かった俺たち…。
馬車を馬丁に預けてから、全員揃ってギルドの建物内に入った。
ちなみに、目的地も同じ(依頼達成報告の窓口)なので、一緒に同じ窓口に並んだよ(タロン君たちを先に並ばせてあげた)。
まだ夕方の込み合う時間帯ではないので、すぐに『フセ村青年団』の順番がやってきた。
依頼書と薬草の束をカバンから取り出して、窓口に提出しているリーダーのタロン君。
すぐ後ろに並んでいる俺たちにも、対応している受付嬢さんの声が聞こえてきた。
「この依頼書はダイアウルフ3体の討伐依頼ですよ。解体済みであれば魔石と肉を提出してください。解体がまだであれば、まずは解体所のほうへ持ち込みをお願いします」
は?薬草採取依頼じゃなかったの?




