122 初めての魔道具製作
やはり最初は『魔道基板』への魔法陣の刻み付けに(できるだけ)失敗したくない…。
…ってことは【光魔法】一択だな。
最初は【ライト】の魔法でランタンみたいな照明器具を作ろうかと考えていたんだけど、ふと思い出したのだ。オーレリーちゃんがオーガロードとの戦闘時に【フラッシュ】を使っていたな、と…。
あの魔法って360度全方位に強烈な閃光を放つもので、パーティーでの戦闘時には声掛けが必須だ。魔獣だけでなく、パーティーメンバー(味方側)の視力が奪われたら大変だからね。
なので、地球におけるカメラのフラッシュみたいに、一方向のみに閃光を放つようにできれば便利じゃないだろうか?
思いついたのは、メガホン型の拡声器みたいな形状だ。円錐状のラッパの根元に銃のようなグリップを付けて、人差し指でスイッチ(引き鉄)を操作する。
ラッパ状に広がった部分から奥へと入った個所から閃光が発せられ、それを向けている対象のみに影響を与える。
あと、『魔石ケース』に魔石をセットしたり、交換したりするのは時間がかかるので(魔石の大きさがまちまちであるため)、自動拳銃の弾倉みたいに『魔石ケース』を内蔵するカートリッジを複数作っておいて、それを簡単に交換できるようにしておこう(銃の弾倉交換みたいな感じ)。
ちなみに、Eランク魔石の魔力量は10~30くらいらしいので魔道武器には使われず、主に民生用の魔道具に利用されている。これは魔石の交換に時間がかかるから(らしい)。
でもカートリッジ方式にしておけば、安いEランク魔石であっても戦闘時に交換しながら使えるようになると思うんだよね。
このアイディアって、ちょっと画期的ではないだろうか?(って、すでに存在しているかもしれないけど…)
なお、仮称『閃光銃』は魔道武器じゃないから、その所持に免許は要らないはずだ。なぜなら【フラッシュ】は攻撃魔法じゃないからね。
こうして製作物とその方針は決まった。
・名称:閃光銃(仮称)
・魔法:【光魔法】の初級魔法である【フラッシュ】を用いる。
・特記事項:魔石の交換を素早く行えるようにカートリッジ方式を採用する。
メガホン部分は鉄板を加工してそれっぽい形を作り、グリップ部分のカートリッジの挿抜に関してもスムーズにできるようにミリ単位で調整した。
なお、薄いとはいえ鉄板の加工は大変だ。特に箱型のものを作ろうとする場合、まずは展開図の形に鉄板を切り出してそれを折り曲げて箱型にしていく。最後に糊しろの部分にピッタリとくっつけたあと、隙間に樹脂っぽい接着剤を浸透させて接合させるのだ。
これは溶接技術がまだ生み出されていないからなんだよね。ただ、強度的にはこれでも問題は無いみたい…。
あとは、引き鉄となる『魔道スイッチ』を取り付けて『ミスリルコード』で配線し、残すは『魔道基板』への刻み付けだけだ。
【細工】スキルの恩恵なのだろう。ここまでは何の問題も無く、約半日で完了した。まぁ、試作品ということで、割とやっつけ仕事だったってことでもある。
さて、最後の作業である『魔道基板』への魔法陣の刻み付け…。ふぅ~、成功率は53%だよ。緊張する。
やり方は【細工】スキルが教えてくれるので、その通りの手順で実行した。
Cランク魔石を【錬金術】で加工した『魔道基板』は、見た目は魔石と同じで球体だ。その中央に亀裂が入った。あ~、失敗したっぽい。
こうなったら、もはや何の役にも立たないのだ(魔力の供給源にも使えない)。なので、捨てるしかない(はぁ、30万ベルが…)。
新たな『魔道基板』を手に取って、もう一度同じ手順を繰り返した。
おっ、今度はうまくいったかな?窓から射しこむ日光にかざしてみると、うっすらと魔法陣みたいな模様が入っていた。
完成した『魔道基板』を筐体に組み込み、配線する。
『魔石ケース』を組み込んだカートリッジにはすでに安いEランク魔石を取り付けているので、それを閃光銃のグリップ部分に挿し込んでしっかりロックされたことを確認した。
さーて、テストしてみますか…。
部屋の中で壁に向かって、閃光銃を構え、引き鉄を引いた。
あれ?何の反応も無い。
うーん、一発でうまくいくなんて、そんなうまい話は無いか…。
『ミスリルコード』による配線に問題はないと思うので、おそらくは本体とカートリッジとの接合部の導通問題だろうな。
検証のために、直接『魔石ケース』を『ミスリルコード』で配線してから、もう一度試してみた。
ピカッ!
うん、フラッシュが焚かれたよ。あ、焚くとは言っても、別にマグネシウムを燃焼させたわけじゃないよ。
地球ではフラッシュは焚くものだからね。どうでも良いけど…。
とにかく、問題なく発動したってことは、やはりカートリッジの接合部の問題ってことだ。
回路を構成するために二つの端子が必要なんだけど、そのどちらか、もしくは両方の接触不良だろう。
工作精度の問題か?
・・・
結局、解決策として思いついたのが、本体側の接合部(端子部分)をバネ式にすることだ。
カートリッジを奥まで押し込んだ際に、バネ付きの接点(もちろん、ミスリル製)としっかり接触するようにしたわけだね。
あと、ロックを解除した瞬間、バネの力でカートリッジが少し押し出されるから、交換も行いやすいという思わぬメリットも生じた。
この改修も問題なく終わり、再度のテストだ。
壁に向かって閃光銃を構えてから、引き鉄を引く俺…。
ピカッ!
よし!成功だな。
別のカートリッジを交換してからの再度のテストも成功し、これで一応の完成となった。
仲間たちに見せたらどういう反応をするだろうか?
そんなに承認欲求は高くないとは思っているけど、やはり自分の作ったものを褒められれば嬉しいからね。
ふふ、楽しみだな。




