012 尋問
「それではそろそろ出発しましょうか」
マックス隊長がエイミーお嬢様にお伺いを立てていた。
俺は差し出がましいとは思ったが、それにストップをかけた。
「この男を尋問してからにしましょう。気になることがあります」
「しかしこのままでは夜になってしまいますが…」
侍女のアンナさんが反対意見、というか懸念を述べたところで、エイミーお嬢様が俺に質問してきた。
「気になることとはなんでしょうか?もし差し支えなければお教えいただけますか?」
「はい、この男だけは単なる盗賊とは思えないのですよ。こいつの背後関係だけはデルトに着くまでに調べておくべきかと…」
これを聞いたゴランという男が目を見開いて俺を見た。…が、工作員として訓練されているのか知らんけど、そっと視線をそらしたよ。
「お嬢様どうされますか?」
マックス隊長からの問い掛けにエイミーお嬢様が答えた。
「ツキオカ様のお言葉です。私たちには見えない何かがきっとあるに違いありません。ここは尋問すべきかと考えます」
「承知しました。おい、お前の名前と目的を答えろ」
マックス隊長がゴランに対して尋問を始めたので、俺も横から口を挟んだ。
「職業と依頼者の名前も教えてください」
これを聞いた全員が驚愕の表情になった。しかし、ゴランという男は平然とした態度を崩さなかった。よっぽど自分の『耐鑑定』に自信があるのだろう。
マックス隊長が俺に聞いてきた。
「ツキオカ様、こいつは誰かに依頼されて我らを襲撃したと?」
「職業が『デルト役場職員』なので、そう考えるのが妥当かと…」
これにはさすがにゴラン本人も驚いたようだ。おそらく『鑑定』されたことが分かったのだろう。俺のことを殺しそうな目つきで睨んできた。怖っ!
「うーむ、それが本当なら、いえ本当なのでしょうけど由々しき事態です。おい、誰に頼まれた?目的は何だ?」
…っと突然ゴランという男が呻き声を発して、前のめりに倒れた。
『鑑定』してみると『状態』が【毒】になっていた。口中に隠していた毒をあおったのか?
俺はすかさず『光魔法』の中から【グレーターキュア】を選択し発動した。柔らかな光がゴランという男に降りそそぐ。
「ツキオカ様?」
エイミーお嬢様の無言の問い掛けに俺は平然と答えた。
「毒をあおって死ぬつもりだったようですが、簡単には死なせませんよ。依頼者とその目的を吐くまではね」
「くっ、死ねなかったか。だが俺は決して口を割らないからな」
うーん、自殺しようとするくらいだから、たとえ拷問しても無駄かもしれない…。精神に直接作用するような魔法は無いのか?
あ、『闇魔法』の【ウィークネス・オブ・マインド】をかけてみたらどうだろう?
いや、この男の『魔法抵抗』が47で、俺の『闇魔法』のスキルレベルが30だから無理かもな。で、一応は試してみたんだが、やはりダメだった。心神耗弱状態にはできなかったよ。
こうなれば専門の拷問官(いるのかどうか知らないが)に任せるしかない。
時間も無いし、この場での尋問は残念ながらここまでだな。
結局、エイミーお嬢様とマックス隊長にこいつの『鑑定』結果を詳しく教えただけで、デルトへの旅路を再開することになった。
街に到着してから襲われる可能性も出てきたし、もし領主が黒幕だったら死地に赴くことになると思うのだが、果たして大丈夫なのだろうか?
領都のお屋敷へ引き返すという選択肢もあると思うが…。てか、俺としてはどっちでも良いんだけどな(街へ行きたいだけなので)。




