119 ルナーク商会
今回の依頼に関する結末は以下の通り。
・『オーガ討伐依頼』という依頼は無かったことにして、あらためてBランク依頼の『オーガロード討伐依頼』が発注されていたことにする。
・俺たち『暁の銀翼』がその『オーガロード討伐依頼』を受注したことにして、その達成手続きを行う(本来、ランク的に受注できないけどね)。
・当初の報酬は70万ベルだったが、100万ベルに変更する。
・オーガロードの素材は総額200万ベルで買い取る(細かい明細書もあったけど、ここでは省略)。
・目撃証言をしたFランク冒険者に再度聞き取り調査を行うと共に、南の森の調査依頼をCランク依頼として掲示板に貼り出す。
・その調査は森の入口から半径500メートルの半円内(約40万平米…東京ドーム8個分)を徒歩で調べ、魔獣の気配を探るものとする。
あ、東京ドームってのは俺が勝手に書いたものだからね(この世界に東京ドームは存在しない)。
あの森の中を歩き回るのはかなり大変そうだな。俺たちは受注したくないな。てか、受注することはできないけどね。
なぜって、『監査の独立性』が担保できなくなるから…。俺たちとは無関係の第三者が調査しないと、調査の信頼性が損なわれるってわけだ。
まぁ、いずれにせよ、今回の報酬は総額300万ベルということになったよ。
「それでは報酬を分配します。一人当たり60万ベルだね」
俺は大金貨を6枚ずつ、全員に渡していった。ちなみに、一般人の三か月分の収入だよ。
「ふわぁ、一日で60万ベルって、今までのことを考えたら夢のようです」
オーレリーちゃんがめっちゃ感激していた。でも、自分の命を懸けているわけだから、このくらいの報酬は当然だと思うよ。今回は特に危なかったし…。
・・・
こうして、俺たちがギルドの依頼をこなしている間にも、ハウゼン侯爵家の事件は決着を見たらしい。
公式な裁判が開かれ、次男と三男は即日で公開処刑された。死刑がなかなか執行されない日本とは大違いだな。
同時に新たな商会が立ち上げられ、工場となる敷地や建物の確保、職人集めなどが精力的に進められたとのこと。そう、リバーシの大量生産体制を整えるわけだね。
なお、商会の名称を『ハウゼン商会』にするんだとばかり思っていたら、どうやら違うようだ。『ルナーク商会』というのがその名前だ。
ん?『ルナーク』?なんか聞き覚えのある名前…。どこかで誰かが言っていたような?
そして、一か月後…。
俺たち『暁の銀翼』は王都の一等地に新規オープンするリバーシ販売店の落成式に護衛として立ち会っていた。冒険者ギルドに護衛の指名依頼が出されたのだ。
まぁ、護衛依頼とは言っても、ただそこにいるだけって感じのご祝儀みたいな依頼だけどね(依頼料は10万ベル)。
なお、開店日は明日なので、今日の出席者は関係者のみだ。
商会長のガイウス・ハウゼン、副商会長のイザベラ・ハウゼン、出資者の一人としてアインホールド伯爵様、一応、元ハウゼン侯爵夫妻も呼んでいる。
そして何より、王室から第三王子であるソリスティア・エーベルスタ様が出席されていたよ。歳はイザベラ嬢と同じくらいかな?
もしもハウゼン侯爵家が断絶しなければ、イザベラ嬢がこの王子の婚約者になっていたかもしれないって話をアインホールド伯爵様からこっそりと教えてもらった。
あとは職人たちの取りまとめをする筆頭職人さんや販売店の店員さんたちも出席しているため、護衛の俺たちも含めると総勢20人くらいになる。
まぁ、あくまでも新店舗の落成式だからね。そこまで大々的なものじゃない。
「この佳き日に落成式を迎えられたこと、皆様のご尽力あってのことと感謝申し上げます」
商会長ガイウス・ハウゼンのスピーチから始まった落成式は、第三王子や伯爵様のスピーチも挟みながら恙なく進んでいった。
店の前は大通りなんだけど、一時的に通行止めにして馬車が侵入できないようにして、ホコ天(歩行者天国)状態にしている。さすがは王族が出席しているだけのことはあるね。
式次第が完了したあとは、道路上にテーブルを並べての立食パーティーだ。
俺たちも護衛として周囲に目を光らせているんだけど、飲み物を片手に持つことで出席者に威圧感を与えないように配慮している(服装も一般人っぽい…って、いつものことか…)。
立食パーティーが始まってしばらくすると、イザベラ嬢が俺のほうへと近付いてきた。
「サトル君、いやツキオカ殿と呼ぶべきか。きみとナナ君には本当に感謝しているよ。ここまで来れたのは、きみたちのおかげだ」
「いえ、大したことはしてませんよ。それよりも、なぜハウゼン商会と名付けなかったんですか?」
「ははは、いや処刑された兄たちの家名を付けるのは、少し縁起が悪いからな。それに『ルナーク』という名前は、黒髪の賢者『サティ・ルナーク』から取ったんだよ」
俺の隣にいたナナがこの発言に突っ込んだ。
「やっぱりね。でも、イザベラちゃんのことだから『サジタリウス商会』にするんじゃないかと思ってたよ。黒髪の賢者は別に推しじゃないよね?」
「いやいや、脳筋の名前よりは賢者のほうが良いじゃないか。繁盛しそうだしな」
あー、乙女ゲームの話か…。会話に入っていけねぇ…。
ふとアンナさんのほうを見ると、第三王子が顔を赤くしながら、アンナさんに向かって一生懸命に何か話しかけていた。少年が美人のお姉さんに憧れる図…って感じで微笑ましい。
サリーとオーレリーちゃんは二人連れ立ってテーブルを回りながら食べるのに忙しいようだ。いや、仕事してくれ…。
なお、暴漢が現れたり、酒癖の悪い酔っ払いが暴れたりといったイベントは発生しなかった。平和のうちに護衛依頼を終えることができて良かったよ。




