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118 ギルド職員に相談

「えっと、解体は?」

 オーレリーちゃんの質問を耳にして、はっと気付いた。俺以外の全員って、解体経験があるのでは?

 いや、サリーは経験が無いかもしれないな(【解体】スキル持ちのハルクさんが同じパーティーにいたので…)。

 少なくともオーレリーちゃんは、以前所属していたパーティーでは率先して解体していたらしいけど…。


 でも、俺は解体なんてやりたくない…。

「丸ごと【アイテムボックス】に収納して、ギルドで解体してもらうから大丈夫だよ」

 うん、この辺一帯が血生臭くなるし、それが正解だろう。血の臭いで別の魔獣が近寄ってくる可能性もあるしね。


「それじゃ、私が収納しておくね」

 ナナがオーガロードの死体を自分の【アイテムボックス】に入れてくれた。時間経過無しなのは俺かナナの【アイテムボックス】だけだからね(現時点では…)。

 あと、ポーター(荷運び人)として役に立つことで、戦闘であまり役立てなかったことをナナが気に病むことも無くなるだろう。


 このあと、放置している馬たちが心配なので、昼食は携帯食料を歩きながら食べることで済ませ、急ぎ足で街道まで戻った俺たちだった。

 周辺警戒がそれほど必要ない分、早めに戻ることができたよ。サリーの【索敵】が威力を発揮していたのは言うまでもないが…。

 馬たちはのんびりと森の入口付近に(たたず)んでいた。んで、俺たちが姿を見せると、嬉しそうに(いなな)いてくれたよ。

 俺は幌馬車を【アイテムボックス】から注意深く取り出した。ドスンと勢いよく落とすと車軸が折れるかもしれないから、そっとね。


 馬たちを幌馬車に連結しながら、ふと気付いたって感じでアンナさんが発言した。

「サトルさん。これは懸念ではありますが、先ほどの魔獣が依頼書とは別の対象だったということはありませんよね?」

 あ…。

 確かに、オーガの討伐依頼だったのに、倒したのはオーガロードだ。てっきり、そもそもの依頼がオーガロードのことをオーガと間違っていたと勝手に解釈していたよ。

 もしかしたら依頼書の討伐対象は、オーガロードとは別のオーガという可能性もあるのか…。

「とりあえず、今日はギルドにオーガロードを持ち込んで、それで依頼達成になるかどうかを聞いてみましょう。期限は三日間なので、(あせ)って今日中に達成する必要もありませんし…」

「分かりました。サトルさんの判断にお任せします」

 さすがはアンナさんだ。いや、俺が気付けなかったこと自体がリーダーとして問題なのかもしれない…。


 ・・・


 王都の南門に戻ったのが午後3時くらいだった。門の出入りには検査が必要なので、長い行列ができている。

 しばらく待ってから俺たちの順番がやってきたので、全員がそれぞれ自分の冒険者カードを提示した。当然、何も問題は生じず、王都の街門の中に入った俺たちは、すぐにその足で冒険者ギルド『エベロン支部』へと向かったよ。

 ギルドの依頼達成報告窓口には全員で並んで、順番が来るのを待つ俺たち…。


「次の方どうぞ」

 受付嬢さんの言葉に従い、俺は依頼書と冒険者カードを提示しつつ、こう言った。

「Dランクパーティー『暁の銀翼』です。この依頼書のオーガ討伐依頼に関しまして、ちょっとご相談があります」

「はい、込み入ったお話であれば、別室でお伺いしますが…」

 俺たちの後ろにも多くの冒険者が並んでいるし、この場で時間をかけると皆に迷惑だな。

「それでは別室でお願い致します」

「承知しました。あ、主任、ちょっと良いですか?こちらの冒険者パーティーの方たちのお話を応接室で聞いてあげて欲しいのですが…」

 受付嬢さんが後ろを向いて、40歳前後の男性に話しかけていた。


「君たち、僕についてきてくれ。別室で話を聞くよ」

 人当たりの良さそうな気さくな感じの人だった。主任さんの先導で案内された部屋はおそらく応接室で、ゆったりと座れるソファが置かれていた。

「そこに腰かけてくれたまえ。で、話とは何かな?」

「はい。こちらの依頼書を受注し、今日現地へ行ってみました。ただ、オーガの姿は見当たらなかったのです。森の入口から奥地のほうへと、3時間程度は徒歩で進みましたが…」

「ふむ。一応、期限である三日間は探してみてくれないかな。それでも見つからなければ、別の場所に移動した可能性も考えられるね。その場合は依頼の成功にはならないが、失敗扱いにもしないよ」

 …ってことは、報酬無しってことか…。三日間も森を歩き回って報酬無しになるのは、ちょっと辛いな。


「実はオーガは見つからなかったのですが、オーガロードを発見しました。これがその【鑑定】結果です」

 俺はオーガロードのステータスを記入した紙を主任さんに見せてあげた。もちろん、この国の言葉(エーベルスタ語)で書いているよ。

「何?Cランク依頼だったのに、実際はBランク魔獣が出現したのか?君たち、大丈夫だったのか?いや待て、君たちの冒険者ランクは?」

「はい。Dランク1名、Eランク1名、Fランク3名です。全員無傷ですので、ご安心ください」

「そ、そうか…。よく逃げられたな。なんにせよ怪我が無くて良かったよ」

 一介の冒険者の身を心配してくれるなんて、結構良い人だな。


 俺は目の前に座る主任さんの目を見ながら言った。

「いえ、逃げたわけじゃありません。討伐してきました。ご相談したいこととは、オーガロードの討伐をもって、この依頼を達成したとみなせるのか…ということなのです。本当はオーガロードだったのに、オーガと勘違いして依頼が出されたのか?それとも、オーガロードとは別個体としてのオーガが存在していて、そちらを討伐しないと達成にはならないのかってことですね」

「なるほど。これは難しい問題だな。前者だったらギルド側の調査が不十分であったことを責められるべきだし、後者だったら目撃証言を精査して、別個体の存在を証明する義務がギルド側に生じるね。え?討伐した?まじか?」

「はい、本当です」

 Bランク魔獣をDランクパーティーが倒したことが信じられないって顔をしているよ。しかもFランクが三人もいるしね。


「うーん、いずれにせよ、オーガロードを討伐したというのなら、それをもってこの依頼の達成は成功としよう。これは僕の責任において確約するよ。あ、魔石と、あと爪や牙の採取はしたのかね?」

 おぉ、良かった。話の分かる主任さんだな。

「解体せずに丸ごと死体を持ち帰ってますから、あとで解体所のほうに納品しますよ」

「丸ごとって、まじか?」

「まじです」

 主任さんの目が輝いている気がする。何か欲しい素材でもあるのかな?


「解体所へ行こう。で、死体は馬車のほうに積んでいるのかね?」

「いえ、この子の【アイテムボックス】に収納していますので、解体所ですぐに出せますよ」

 隣に座っているナナの肩に手を置きながら俺がそう言うと、主任さんは目を丸くしていた。やはり【アイテムボックス】は希少なスキルみたいだな。

 ちなみに、ソファの中央に俺、その両隣にナナとオーレリーちゃん、ソファの後ろにアンナさんとサリーが立っているという位置取りだ。


 で、このあと主任さんに引率されて解体所へと向かった俺たち…。

 なお、解体料金を無料にしてくれると言ってくれたのは嬉しい誤算だった。もちろん、採取できた魔獣素材の分の報酬は依頼料とは別途受け取れるよ。

 そして、解体と素材の査定を待つ間、依頼達成の手続きを進めることになった。

 うん、達成扱いになって本当に良かったよ。いるかいないか分からないオーガを探して、三日間も森の中を歩き回りたくないからね。


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