表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/373

117 対オーガロード戦

 俺たちの幌馬車は街道をのんびりと進み、小一時間ほどで南の森の入口に到着した。

 王都のこんな近くにも魔獣が生息しているってのが、この世界の怖さだよな。まぁ、だからこそ冒険者稼業が成り立つんだけど…。

「ねぇねぇお兄ちゃん、この馬車本体って【アイテムボックス】に入れられないの?馬たちは無理だとしても…」

 …って、ナナが無茶なことを言ってるよ。


 この馬車って、結構でかいぞ。何となく入りそうな気もするけどね。一応、試してみるか…。

 馬二頭を馬車から(はず)して、手綱(たづな)を森の入口にある木にくくりつけたあと、馬車本体の収納を試してみた。…って、あれ?入ったよ。

「ふふ、やっぱりね。私には無理だけど、お兄ちゃんだったら入れられると思ったんだよ。さすがは【アイテムボックス】の達人(マスター)だよね」

 アンナさんもサリーもオーレリーちゃんも目を丸くして驚いていた。てか、俺自身も驚いているよ。


「さぁ、それじゃ探索に行こうよ」

 ナナの言葉に我に返った全員(俺も含む)…。

 もちろん、馬たちのために飼葉や水を準備して、繋いだ木のそばに置いといてあげた。戻ってくるのが遅くなるかもしれないからね。

「サリー、君の【索敵】に期待しているからね。陣形は先頭にサリー、すぐ後ろにナナ、そしてアンナさん、オーレリーちゃんときて、殿(しんがり)を俺が(つと)めるよ」

 斥候役のサリーが先頭なのは当然として、物理的戦闘力の低いアンナさんとオーレリーちゃんを中央に配した陣形だ。

 単縦陣になるのは、森の中の細い道(かろうじて、獣道みたいな感じの細い道があったのだ)なので仕方ない。当然だが、側面警戒だけは(おこた)らないようにしよう。


 一時間に一度10分くらいの休憩を入れつつ、森の中を奥へ奥へと進み続けること約3時間。そろそろ昼食の時間かな?というタイミングでサリーが警告を発した。

「前方に魔獣の気配があるよ。目的のオーガかどうかは分からないけど…」

 それにしても、この世界の魔獣の生態って謎だよな。

 動物のように雌雄で繁殖しているのかと思いきや、そうじゃないってのが通説らしい。

 魔獣学者(いわ)く、瘴気の淀みから自然に現れるとのこと。動物は人間を恐れて近付かないのに、魔獣が積極的に人間を襲ってくるのはそれが瘴気生まれゆえの本能ってことだから…だそうだ。

 ん?だとしたらアークデーモンのメフィストフェレス氏が俺の眷属になったのって、超珍しいってことになるよな。まぁ、出会った当初は皆殺しにされそうになったけど…。


 ちなみに、こういった知識はここに来るまでの道中でアンナさんやナナから教えてもらった。

 まぁとにかく、とりあえずはサリーの【索敵】に引っ掛かった対象への警戒だな。

 見通しの悪い森の中を進んでいくと少しだけ開けた場所に出たので、そこで待ち伏せをすることにした。先ほどの魔獣の生態が本当なら、向こうから勝手に襲撃してくるはずだからね。

 単縦陣では同時攻撃がしづらいため、横陣に展開したいのだ。


 こちらの思惑としては、対象(オーガかどうかは不明)が木々の間から姿を現した瞬間、アンナさんとナナの【水魔法】、俺の【風魔法】で一斉に攻撃する。

 サリーはロングソードを構えてタンク(盾役)としての役割を(にな)うことになる。小柄なサリーが盾役ってのも申し訳ないんだけど、うちのパーティーにはこの子しか適任者がいないのだ(俺がやっても良いんだけど、最大火力の持ち主で回復もできる俺が最前線に出るのはダメだと、俺以外の全員から言われてしまったからね)。

 あと、オーレリーちゃんは回復役として、主にサリーのバックアップを担当する。


「来るよ!」

 木の枝が折れる音、足音と共に定期的に襲い来る地響き、木々の隙間からは巨体が見え隠れしている。

 そして、ついにこの場に現れたのは、体長およそ2メートル半から3メートルくらい?まさに筋肉の塊って印象の大鬼だった。これは怖い…。

 あれ?オーガってこんなにでかかったの?聞いていた話と違う…。俺は即座に【鑑定】を実行してみた。


・種別:オーガロード

・種族:鬼族

・スキル:

 ・耐鑑定       63/100

 ・状態異常耐性    89/150

 ・魔法抵抗      56/100

 ・徒手格闘術    101/180


 ちょっ、オーガじゃねぇ!

 オーガはCランク魔獣と言われているけど、オーガロードはその上位種でBランクだ(って、以前ナナが言っていた)。

 【状態異常耐性】によって毒矢なんかは()きにくいってことだし、この【魔法抵抗】のスキルレベルでは初級魔法が96%抵抗(レジスト)されてしまう。なにより【徒手格闘術】の高さはかなりの脅威だ。

 だが、絶望的な状況ってわけじゃない。

 俺の中級魔法やアンナさんの【複合魔法】(中級魔法相当)だったら、確実にダメージを与えられるからね。


 俺が【鑑定】している間、アンナさんとナナが【水魔法】の初級【ウォーターカッター】を発動した。…が、当然どちらの攻撃も抵抗(レジスト)されてしまったよ。

 まさか抵抗(レジスト)されるとは思わなかったのだろう。アンナさんとナナが驚きの表情になっていた。なぜって、オーガは【魔法抵抗】スキルを持たないはずだから…。

 俺は大声で叫んだ。

「敵はオーガロードだ!中級魔法以上じゃないと攻撃は通らない!」

 ナナがショートソードを抜いて、サリーの横に立った。即座に自分のできることをやろうとする姿勢は素晴らしい。

 アンナさんは【複合魔法】(【ファイアアロー】と【ウォーターカッター】の同時発動)を準備しているのか、真剣な表情でオーガロードを見つめていた。


 オーガロードが最も近くにいるサリーに襲いかかろうとした瞬間、オーレリーちゃんが叫んだ。

「フラッシュ行きます!」

 俺たちはすぐに自分の目を細めると共に、目線をオーガロードの足元へと少し下げた。

 すぐにオーレリーちゃんの【光魔法】の初級【フラッシュ】が発動し、それによる強烈な閃光が出現、オーガロードの前進が止まった。

 奴の視力を一時的に奪ったわけだ。ナイスだよ、オーレリーちゃん。


 俺は【水魔法】の中級【アイススピア】を発動した。もはや俺の十八番(おはこ)と言っても良いくらい、使い慣れた魔法だ(とは言っても、発動成功確率は54%なんだけど…)。

 まだ視力が戻らないオーガロードは直径5cmの氷柱(つらら)を避けることもできず、巨体の胸部にそれが深々と突き刺さったよ。…が、まだ絶命には至っていない。

 そこにアンナさんの【複合魔法】による沸騰水流が飛翔していき、オーガロードの腹部に吸い込まれていった。

 両手で腹を押さえて膝をついたオーガロードは、苦悶の表情を浮かべていた。内臓を熱湯で煮られているわけだからね。

 そして奴は前屈みの体勢になって、その頭部がかなり下がった。ちょうど俺たちの身長と同じくらいの高さだ。


 この機を逃さず、サリーが正眼に構えていたロングソードを突きの形にしてから一足飛びに接近し、オーガロードの眉間付近に突き刺したよ。

 この(とど)めの一撃で、さすがのオーガロードも絶命したようだ。


 ふぅ~、いきなり想定以上の敵と戦うことになったのに、全員がパニックにならずに落ち着いて戦えたってのがすごいと思うよ。

 あと、それぞれの連携も良かった。

 特にオーレリーちゃんの【フラッシュ】がベストなタイミングだったね。

「皆、お疲れ様。オーレリーちゃん、Aランクパーティーに所属していたときと比べてどうだった?やはり『勇者の斬撃』のほうが安心感があったかな?」

「いえ、以前にもオーガロードの討伐は経験しましたが、こんなに早く終わらなかったです。私が【フラッシュ】で目潰しして、マクベス様が槍で少しずつダメージを与えていく感じで、討伐完了までかなり時間がかかりましたね」


 ナナがドヤ顔でオーレリーちゃんに言った。

「お兄ちゃんは単独でAランク魔獣を倒せるくらいの実力があるからね。Bランクのオーガロードくらい大したことないんだよ」

「え?Aランクを単独でぇ?あれ?サトル様の冒険者ランクは、たしかFランクですよね?」

「冒険者になった時期がお兄ちゃんも私もオーレリーちゃんと同じくらいなんだよ。だからだね。あー、それにしても私だけ活躍できてない…。早く中級魔法が使えるようになりたいよ」

 いやいや、ナナはちゃんと状況に応じて、適切に動けていると思うよ。魔法が通用しないと分かれば、即座に盾役になろうとしていたからね。


「サトル、サトル。私の最後の一撃、どうだった?ねぇ、褒めて、褒めて」

 サリーがウザい感じになってるよ。いや、たしかにナイスな(とど)めだったけどね。

「サリーも当然素晴らしかったんだけど、ここにいる全員が殊勲賞だよ。もちろん、ナナもね」

 俺の言葉に女性陣全員が顔を(ほころ)ばせた。

 そう、これがパーティー全員の結束が高まった瞬間だったと思う(あくまでも俺の主観だけど…)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ