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115 保護者面談

 俺たち三人が冒険者ギルドへ戻ると、すでにアンナさんとナナが待っていた。

「お兄ちゃん、どうだった?」

 俺はステータスを記載したノートをナナに見せてあげた。

「こんな感じになったよ。まぁまぁ良いと思うけどな」

「おお、良いね。てか、お兄ちゃん、【光魔法+】の魔装具(マジックアクセサリ)を早いとこ作れるようになってよ。どうせお店には売ってなかったんでしょ?」

「そうなんだよなぁ。ただ、【細工】のスキルレベルが80以上になるには、まだまだ時間がかかりそうだけどね」

 【光魔法】のスキルレベルはすでに80以上なので、あとは【細工】が80以上になれば、【光魔法+】の魔装具(マジックアクセサリ)を作れるようになるんだよね。

 あと、【鑑定+】【耐鑑定+】【アイテムボックス+】【状態異常耐性+】【魔法抵抗+】【徒手格闘術+】の六種類も作れるはずだけど…。


「お、いたいた、サトル君。ギルドの受付に伝言を頼もうと思ってたんだが、ちょうど会えて良かった。オーレリーの報酬の件を調査して、ロータス子爵様から金を分捕ってきたよ」

 話しかけてきたのはAランク冒険者のマクベス氏だった。というか、仕事が早いな。比喩表現じゃなく『昨日の今日』だよ。

「ギルド側に俺たちが受けた依頼とその報酬額に関しての記録が残っていたからな。それを集計して計算したよ。説明したいのだが、時間あるかい?」

「もちろん大丈夫です。お手数をおかけして申し訳ありません」

 俺たち5人とマクベス氏の合わせて6人はギルド内にある飲食スペースに移動し、そこで詳しく説明してもらった。その内容が以下の通り。


・オーレリーちゃんが加入した後に受注した依頼は47件で、そのほとんどがCランクの依頼だった。

・依頼料及び魔獣素材の売却益は、総額で3,480万ベルだった。

・上記の1割からすでにオーレリーちゃんに手渡し済みの分を引いて、それを支払うことになる。

・しかし、面倒なので子爵様には348万ベルを請求したところ、迷惑料込みで400万ベルを支払ってくれた。


「これがその白金貨4枚だ。オーレリー、きみの正当な取り分として受け取ってくれたまえ」

「は、白金貨ですか?ふわぁ、初めて見ました。マクベス様、本当にありがとうございました。こんなことになるなんて、今でも信じられません」

「良かったね、オーレリーちゃん。親父さんもきっと喜ぶよ」

「はい、ありがとうございます。スラム街での生活だったら5年間は余裕で生きていけますよ」

 アンナさんに聞いたんだけど、王都での一般人の生活費は年2~300万ベルくらいらしい。

 スラム街なら年80万ベルで生活できるってことか。家賃や食費が安いんだろうな、きっと。


 ちなみに、このあとマクベス氏やカミーラさんのことも聞いてみたんだけど、新たに結成したパーティー名は『炎の蜂(フレイムビー)』で、ギルドの掲示板に【解体】スキルを持っているポーター(荷運び人)を募集する紙を貼り出したそうだ。

 ああ、狩った魔獣の運搬は【アイテムボックス】が無い場合、大変だもんね。なお、今まではマクベス氏とオーレリーちゃんが手分けして解体して、ゲイル君を除く三人で魔獣素材を運んでいたそうだ。…って、ゲイル君、何もしてねぇ。

 余談だけど、槍使いと火の魔術師のコンビってのが良く分かる、良いパーティー名だと思う(ちょっと中二病っぽいけど…)。


 このあと、マクベス氏と別れた俺たちはオーレリーちゃんを含む5人でスラム街へと向かった。

 幌馬車をゆっくり走らせていると、ちょうど路地裏から大柄な男が出てきたところだった。背中には大きな(かご)を背負っていて、右手にはゴミ拾い用のトングを握っている。

「お父さん!」

 オーレリーちゃんが声をかけると、男がこちらを振り向いた。うん、見覚えのある男だ。

「オーレリー、どうした?こんな真っ昼間に…」

「親父さん、俺を覚えているかい?以前、この近くで会ったよな」

 俺を見た男の顔に(おび)えの色が走った。

「け、警吏(けいり)の旦那…。お、俺は誓って娘に手を上げたりしてませんぜ。どうか信じてくだせぇ」

 オーレリーちゃんの父親は、俺のことを未だに警吏の人間だと(勝手に)勘違いしているのだ。いや、そうなるように仕向けたんだけどね。


「とりあえず近くの広場に向かおう。親父さんも馬車に乗ってくれ」

 オーレリーちゃんの話では自宅は狭いうえ、馬車も入っていけないような場所にあるらしい。

 なので、以前オーレリーちゃんから事情を聞いた広場に向かうことにした。そこなら馬車を停めても迷惑にならないからね。


 広場についた俺たちだけど、幌馬車の中に俺とナナ、親父さんとオーレリーちゃんだけを残し、アンナさんとサリーには周辺の警戒に当たってもらうことにした。

 なにしろ、大金を扱うからね。警戒は必要だ。

「さて、実を言うと俺は警吏の人間じゃない。冒険者のサトルという者だ。親父さんにはオーレリーちゃんの事情を説明しておいたほうが良いと思ってね」

「は、はぁ。事情とは?」

 俺は親父さんに、これまでのオーレリーちゃんの収入が不当に低かった理由とパーティーの移籍について説明した。

 ナナも適宜補足してくれたよ。


「お父さん、サトル様が私の借金をゼロにしてくれたの。だからほら、これが本来の報酬として返金されてきたんだよ」

 オーレリーちゃんが親父さんに白金貨4枚を手渡した。

「こ、こいつぁ、白金貨じゃねぇか。それが4枚も?」

「親父さん、俺はオーレリーちゃんに言ったんだ。全額を渡すことは無いってね。でも彼女は『全部お父さんに渡すの』と言って聞かないんだよ。果たして、あんたは娘の信託に(こた)えることができるのかな?」

「お、オーレリー…。よし、決めた。この金には手をつけねぇ。お前の結婚資金として大事に取っておくぜ」

「ううん、お父さんの自由に使って良いんだよ。商売の元手にしても良いし…。私はこれからも冒険者で稼いでいけるんだから心配しないで」

 商売の元手ってのは良いかもな。それだけの商才があるかどうかは知らないけど…。


 なお今後、オーレリーちゃんが俺たちと寝食を共にするってことも親父さんに了承してもらった。

 スラム街からの通勤は大変だし、俺たちのパーティー『暁の銀翼』がこれからもずっと王都にいるとは限らないからね。

 オーレリーちゃんをスラムに送ってきたのは、その件を俺から親父さんに伝えるためでもあったのだ。

「サトル様、どうか娘をよろしくお(たの)申しやす。旦那のお人柄はこの短い時間でよく分かりやしたし、腕っぷしの強さは前に身に染みておりやす。娘を託すのにこれ以上のお人は無いと思っておりやす。あ、ただし、この子に手を出すのなら、責任だけは取ってくだせぇ」

「いやいや、手なんか出さないし、他の男どもからもしっかりと守っていくことを誓うよ」

 (あせ)って早口で否定する俺をジト目で見ているナナ…。なぜジト目?げ、()せぬ。


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