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107 連座回避作戦

 俺はベルを鳴らしてお屋敷のメイドさんをこの部屋に呼び出した。イザベラお嬢様とナナの三人で話す際、人払いをしてたからね。

 やってきたメイドさんにアインホールド伯爵様を呼んできてもらうようにお願いした。


 しばらくして、伯爵様とアンナさん、それにサリーが一緒にこの部屋へと戻ってきた。

「話し合いは終わったのかね?君たちならば、イザベラ嬢を助ける方法を見つけられたのではないかと思ったのだが…」

 おぉ、伯爵様もイザベラお嬢様の命を救いたかったんだね。伯爵様の愛娘(まなむすめ)(エイミーお嬢様のことだ)と同い年で、まだ子供なんだから当然か。


「はい、お嬢様にはこのゲームの発案者になっていただきます。文化的貢献によって、刑の軽減または免除をお願いできるのではないかと…」

 俺はそう言いながらリバーシを取り出してテーブル上に置いた。

「ほう。この国では魔将戦棋(ましょうせんぎ)というゲームが貴族の間で(たしな)みとなっているのだが、似たようなゲームかね?」

 いや、魔将戦棋(ましょうせんぎ)というゲーム自体を初めて聞いたのですが…。


 この屋敷にも魔将戦棋(ましょうせんぎ)のゲーム盤と駒があったので、実物を見ながら伯爵様にルールを教えていただいた。

 簡単に言えば将棋やチェスに似ていたよ。ただし、ゲームの駒は王様、騎士、雑兵、魔術師の四種類で、騎士には耐久度が存在する。雑兵の攻撃一回程度では騎士は死なないのだ。あと、魔術師はその場を動かずに射線の通っている射程内の敵を倒せる。防御力は皆無だけどね。

 トータルの印象としては、紙ベースの戦術級ボードゲーム(シミュレーションゲーム)に近い。

 だからこそ、このゲームには裁定者(つまり審判)と記録員(騎士ごとの耐久度の残りを記録しておかないといけないのだ)が必要らしい。

 まぁ、コンピュータゲームだったら簡単に実現できるだろうけど、このゲームの場合は全て人力(手動)で解決しないといけないってことだな。

 あと、魔術師の魔法は抵抗(レジスト)される場合もあり、裁定者が振るサイコロの目で成功と失敗が判定されるってルールもあったよ。

 要するに超複雑で、二人だけでお手軽に楽しめるってゲームではない。面白そうではあるけどね。


「このゲームは『リバーシ』という名前で、魔将戦棋(ましょうせんぎ)のような複雑さは全くありません。とても単純なルールで、誰でもお手軽に遊べます。なればこそ、平民の間でも流行(はや)ること間違いなしです」

 俺とイザベラお嬢様が対戦している様子を伯爵様に実際に見せてあげた。てか、お嬢様も結構強いな。

 なんとか僅差で俺が勝ったけど、ほぼ同じくらいの力量じゃないかと思ったよ。


「うーん、面白いな。確かに単純ではあるが奥が深い。僕も一勝負お願いしても良いかな?」

「あ、でしたらナナと戦ってみてください。ここにいる誰よりも強いので…」

 で、二人の試合を観戦してたんだけど、なんだか終盤の攻防がすごくて、どちらが優勢なのかすらよく分からん。

 終わってみれば、めちゃくちゃ僅差でナナが勝利していた。

 伯爵様ってこのゲーム、初見だよね?

 なんでそんなに強いのさ。ナナと互角だよ。

 てか、ナナさん、手加減なしですか…。いや、まさか接戦になるように調整したのか?


「うん、これは面白い。平民だけじゃなく貴族の間でも流行(はや)るだろうな。特に裁定者や記録員が()らないというのが大きいよ」

 ああ、良かった。一応、伯爵様には好評だったみたい。

 そもそもの考案者は日本人の誰かであって(たしか長谷川さんだったっけ?)、俺でもイザベラお嬢様でもないんだけど、この世界の人にも受け入れられたってのが他人事(ひとごと)ながら嬉しいよ。


「それで伯爵様にお願いなんですが、イザベラお嬢様だけでなく、侯爵夫妻やご長男の方についても助命をお願いできませんか?家族全員が死罪で、お嬢様だけが生き残るというのが不憫でなりません」

「うーん、イザベラ嬢だけなら問題ないと思うのだが、家族全員となると少し難しいだろうな。王室と交渉してはみるが…」

「交渉の切り札として、三属性(トリプル)の魔術師である私がこの国に敵対する可能性が生じる…と、おっしゃっていただいても構いません」

「あぁ、それはかなり強い手札になるな。しかし、そこまで侯爵家に肩入れする理由は何かね?」

「いえ、ただ連座という制度に反発しているだけです。ニッポンには存在しない制度ですから…」

「そうか…。しかし、貴族という生き物はそこまでして縛っておかないと、悪を成す者ばかりになってしまうのだよ。腐敗しない権力など存在しないからね」

 うわぁ、含蓄(がんちく)あるお言葉だ。確かに、連座制は王制国家にとっての必要悪と言えるのかもしれない…。

 なのに悪事に走ったこの家の次男と三男は、馬鹿としか言いようがないけどな。


 イザベラお嬢様が伯爵様に懇願していた。

「アインホールド伯爵様。無能な父母はともかく、嫡男である兄は身内の贔屓目(ひいきめ)を抜きにしても優秀な人材です。どうか特別のご高配(こうはい)(たまわ)らんことを()してお願い申し上げます。また、無能ではあっても、私にとってはかけがえのない父と母です。どうか両名についてもよろしくお願い申し上げます」

 無能無能、言い過ぎだろ。てか、そんなに無能なのか?

 あと、俺たち三人で話していた時と口調が変わり過ぎ…。これが猫をかぶっているってやつなのか。


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