106 イザベラ・ハウゼンの回想③
「ああ、俺とナナは義理の兄妹なんですよ。当然、血の繋がりはありません。俺がナナを妹にすることを宣言し、それをナナが受け入れた瞬間、ステータス表示が『ナナ・ツキオカ』に変わりましたよ」
そういうことか。なんとなくナナ君の態度が兄妹というよりも、恋人に対するもののように感じた理由が分かったよ。
あ、サトル君って、『アカベタ』でのナナ君の推しである黒髪の賢者に似てなくもないな。まぁ、あっちは少女漫画風のイケメンだったが…。
「さっき手品のように物を取り出した技は、いったい何だ?隠さなければならないのなら無理にとは言わんが、できれば教えて欲しい」
「あれは【アイテムボックス】というスキルですよ。俺もナナも持っていて、収納庫の中は時間経過無しなので生鮮食料品も入れられます」
「な、何ぃ、チートじゃないか。てか、不公平だよ。私にはそんなスキルは無いぞ」
「イザベラちゃん、私にもチート能力は無かったの。実は、お兄ちゃんから【コーチング】してもらったんだよ。しかもお兄ちゃんからの【コーチング】では、スキルの初期値が二倍になるというチート付きだよ」
ナナ君がドヤ顔になっている。兄のことを誇らしく思っているのがよく分かるな。
「わ、私にも教えてくれたりって、してもらえるものだろうか?何も差し出せるものは無いのだが…。あ、幼いこの身で良ければ差し出せるがな」
「馬鹿なことを言わないでください。見返り無く【コーチング】して差し上げますよ。あ、ただ【アイテムボックス】に関しては二、三日待ってください。ある人に【コーチング】したばかりなので、今はできません。【状態異常耐性】であればすぐに【コーチング】できますが、どうします?」
「無料でやってもらえるのなら、ぜひ頼むよ」
「…終わりましたよ。ご自分のステータスを確認してみてください」
仕事が早いな…。前世での私の仕事仲間だったプログラマ連中にも見習ってもらいたいものだ。
私は自分のステータスを脳内に表示してみた。
・名前:イザベラ・ハウゼン(ハウゼン侯爵家長女)
・種族:人族
・状態:健康
・職業:なし
・スキル:
・耐鑑定 35/100
・状態異常耐性 70/100 ←ここに注目!
・徒手格闘術 32/100
・乗馬術 31/100
・交渉術 41/100
もともとは【状態異常耐性】以外の四つのスキルしか持ってなかったのだ(しかも、ほとんどは【コーチング】直後のほぼ初期値)。
てか、サトル君に【コーチング】してもらった【状態異常耐性】のスキルレベルが高過ぎるよ。なるほど、これがナナ君の言っていたチートってやつか。
「ありがとう。感謝するよ。まぁ馬鹿兄貴の巻き添えで、死んでしまうかもしれない身ではあるがな」
「そう、その件を何とかしないと…」
ナナ君が心配そうに呟いていた。
「一つ提案なんですが、俺の作ったリバーシをイザベラお嬢様の発案によるものってことにしたらどうでしょう?」
「ああ、お兄ちゃん、それってナイスアイディアかも!作ったのは【細工】スキルを持つお兄ちゃんだけど、発案者には日本人なら誰でもなれるものね。新しい文化を生み出した功績で助命されるかもしれないよ」
なるほど。確かに私もリバーシのルールは知っているが、サトル君は本当にそれで良いのだろうか?
「よし、その線で伯爵様と交渉して、王室に連座制度の例外措置として認めてもらおう。あと、できればご家族も一緒に助けてあげたいな。次男と三男以外は…」
サトル君は優しすぎるよ。日本人的といえばそうなんだけど、この世界では少し甘いのではないか?お姉さん、ちょっと心配だよ。




