105 イザベラ・ハウゼンの回想②
「そんなことよりイザベラお嬢様のお命を助ける方法を考えないと…」
「そうだね、お兄ちゃん。せっかくの同好の士をみすみす死なせるわけにはいかないよ」
サトル君とナナ君が嬉しいことを言ってくれた。
「だから知識チートで私の有用性をアピールしようとしたのだがね。伯爵には話が通じなかったが、結果的にきみたちと出会えたのは幸運だったよ」
私の専門は情報工学だからな。電気もコンピュータも存在しないこの世界では役に立たない。
だから、為政者なら知りたいであろう政治分野の知識を披露したわけだが…。
「イザベラちゃん、もっと身近なものに関する知識チートが良いと思うよ。例えば、私はマヨネーズの製法を伯爵家に伝えたし、お兄ちゃんはリバーシを作ったりしたよ」
「お、おい、ナナ。お嬢様になんて口のきき方をしてるんだよ」
ナナ君の口調をサトル君が焦りながら諫めていた。
「精神年齢はともかく、今の私は13歳だからな。それにもしも命が助かったとしても、平民落ちになるだろう。だから、別にフレンドリーにしゃべってくれて構わないぞ。サトル君、きみもな」
「あ、ありがとうございます。ただ現時点では侯爵令嬢ですからね。俺はこのしゃべり方で通させてもらいます」
真面目君だな。まぁ、好感は持てる。
「それにしてもマヨネーズか。私は料理知識がからっきしでな。屋敷の料理人にも作らせようとしたんだが、無理だったよ。良いなぁ、マヨネーズ」
「もし良かったらポテサラありますけど、食べますか?」
サトル君がどこからか一瞬で取り出した皿の上には懐かしのポテトサラダ(らしきもの)が載っていた。
ツッコミどころとしては、そもそもそれをどこから出した?
てか、食べたい…。
「い、良いのか?もちろん、食べたいが…」
「どうぞどうぞ。はい、スプーン」
金属製のスプーンも同様に、一瞬で目の前に出てきたよ。まさに手品だ。
まぁ、それは後で聞くとして、とりあえずポテサラを堪能しよう。
皿とスプーンを受け取った私は、スプーンですくい取ったそれを口に運んだ。
「う、美味い…。ああ、マヨネーズの風味…。日本人の魂が打ち震えるよ」
これは決して大袈裟な表現じゃない。13年ぶりの味なのだ。
あっという間に食べ尽くし、空になった皿を残念そうに見つめていると、ナナ君が私に言った。
「もし良かったらマヨネーズそのものと、野菜スティックもあるよ」
「く、くれ!」
もはや口調が令嬢じゃなくなってるよ。本来の私はいつも大きな猫をかぶっていて、お淑やかにしゃべっているのだが…。
苦笑しながらナナ君も手品のように一瞬で目の前に取り出した。容器に入ったマヨネーズと、それとは別の容器に入っている野菜を細長く切ったものをね。
私は野菜スティックを一つ手づかみし、マヨネーズをたっぷりと付けて口に入れた。
しゃくっと軽い食感と共にマヨネーズの味が口中に広がっていく。う、美味過ぎる…。
サトル君とナナ君はそんな私を優しい目で見ていたよ。
この兄妹の人柄がよく分かった瞬間だった。ん?兄妹?
転移者と転生者が兄妹って、おかしくないか?
今更ながら気付いた私だった。




