103 リバーシ
「お兄ちゃん、【細工】スキルを取得して嬉しいのは分かるんだけど、二日も部屋に引きこもり状態って、どうなのかな。いったい何をやってるの?」
朝食の席でナナからお小言を喰らった俺だった。
あとで皆を驚かせるために、部屋で作業中は鍵をかけて立ち入りを許さないようにしていたのだ。
「完成したから、このあと皆に見せるよ。楽しみにしていてくれ」
朝食後、俺の部屋に集合したパーティーメンバー(アンナさん、サリー、ナナ)に完成したリバーシを披露した。
「あ、リバーシじゃん。うーん、お兄ちゃんもついに二番煎じ、いえ、もはや何番煎じになるのか分からないけど、ワンパターン化の波に乗っかったってことか」
「いやいや、ちょっと待て。俺のは動いている馬車の中でも遊べるように磁力を使ってるんだぞ。ほらっ」
俺は盤面の中央に四枚の駒を白と黒が二枚ずつになるように置いたあと、盤を振ってみて駒が落ちないことを見せてやった。
「おぉ、それはすごいじゃん。馬車で移動中に遊べるのって画期的かも…」
アンナさんが首を傾げながら質問してきた。
「遊ぶってことは、それはニッポンの遊び道具なんですか?なぜナナさんがそれを知っているのかは謎ですが、私にも遊び方を教えていただきたいです」
「もちろん、今からルールを説明します。アンナさんもサリーもすぐに覚えることができますよ。とりあえずナナと試合してみますので、その途中途中で説明していきますね」
「お兄ちゃん、負けないよ」
「ふ、兄の威厳にかけて俺も負けられないな」
顔を見合わせて不敵に笑うナナと俺だった。
「なるほど。簡単なルールにもかかわらず、とても奥深いゲームですね。ぜひ次は私と試合してください」
そうアンナさんに言われたのは、妹のナナにぼろ負けした俺だった。あれ?おかしいな。俺もそこそこの腕はあると自負していたのだが…。
「お兄ちゃんは角にこだわり過ぎだよ。もっと大局を見ないと…」
くっ…、偉そうに…。
「自分の駒の色が最後に多いほうが勝ちなんだね。すごい面白そう。アンナさんの次は私だからね」
サリーもやる気満々だな。
まぁ、好評なようで良かったよ。作った甲斐があったってものだ。
このあと、アンナさんと俺、サリーとナナ、サリーと俺、アンナさんとサリーなど様々な組み合わせで戦ってみた。
そして、どうやら現時点の強さランキングは【ナナ > アンナさん > 俺 > サリー】ってところだ。…って、初心者のアンナさんがすでに俺より強い…だと?
いや、俺が弱いのか?
もちろん、アンナさんと俺の初戦は俺の勝利だったよ(2戦目以降は勝てなくなったけど…)。
ハイスペック侍女(いや、元・侍女だな)のアンナさんは、将来的にはナナよりも強くなりそうだよ。
ちなみに、この世界にリバーシが誕生した瞬間、ハウゼン侯爵家のご令嬢であるイザベラお嬢様の運命が好転することになったのだが、それに気付いたのは少し後のことだった。
・・・
場面はハウゼン侯爵家のお屋敷に移り、俺たち四人の目の前にはアインホールド伯爵様とイザベラ嬢が座っている。
「君たちをここに呼んだのは、この子の言葉が僕には理解できないからなんだ。あ、もちろん外国語をしゃべっているとかじゃないよ。知らない単語もあることはあるのだが、なにより内容が理解できないんだよ。ほとほと困り果ててね。もしかしたら、ツキオカ殿なら対処できるのではないかと思って、ここへ来てもらったんだ」
「ツキオカですって?まさか日本人なの?」
「ほら、このようにニホンという単語が頻繁に出てくるんだよ。君の故郷はニッポンだったよね。語感が似ているから、もしかしたらと思ってね」
あぁ、ナナと同じか…。この子も日本からの転生者だろうな。
ナナが無言で俺の顔を見つめていたよ。
「伯爵様、ニホンはニッポンの別の呼び方です。この子と二人きり、いえ妹のナナも含めて三人だけで話したいのですが、ご配慮願えますか?」
「おぉ、やはりそうだったか。君に来てもらって良かったよ。それじゃ、アンナ君とサリー嬢は僕と一緒にお茶でもするかい?この部屋はツキオカ殿が使ってくれたまえ」
伯爵様はアンナさんとサリーを連れて別の部屋へと移っていった。
さて、イザベラ嬢から詳しい話を聞かせてもらおうかな。
第2章のタイトルを『侯爵令嬢を助ける』に変更しました(もともとのタイトル『スラムの住民を助ける』は第3章に回します)。
なぜって、ちっとも王都にたどり着かないから…(笑)
やはりプロット無しに書いていると、スピーディーな展開とはほど遠くなりますね。
まぁ、キーワードに『日常』や『ほのぼの』を入れているから、グダグダな展開でも大丈夫かな?
あれ?『ほのぼの』?…あまり『ほのぼの』系ではないような気が…。




