100 魔道武器
ところ変わって現在俺たちは魔道具店に来ている。
結局、鍛冶屋で買い物をしたのは俺だけで、サリーやナナは今使っている武器で十分だって言ってたよ。まぁ、ナナのショートソードは親父さんの形見だしな。
余談だけど、サリーの武器は体格に見合わないロングソードだ。かなり重いその武器を軽々と振り回せるのは、きっと獣人族特有の膂力の強さゆえだろう。
なお、魔道具とは魔石をエネルギー源として、誰でも魔法を発動できるようになる便利な道具のことだ。
ほとんどは民生品なんだけど、攻撃魔法を発動できる武器としての魔道具も存在する。
民生品のラインナップはこんな感じ。
・着火用の火を生み出すライターのようなやつ…【火魔法】初級の【スモールファイア】を魔道具化
・水を生み出す水道の蛇口みたいなやつ…【水魔法】初級の【ウォーターストリーム】を魔道具化
・微風を生み出す扇風機みたいなやつ…【風魔法】初級の【ブリーズ】を魔道具化
・明かりを灯すランタンみたいなやつ…【光魔法】初級の【ライト】を魔道具化
・細かい氷を生み出す製氷機みたいなやつ…【水魔法】中級の【クラッシュアイス】を魔道具化
価格的には上の四つが50万~100万ベルってところで、最後の一つが200万ベルだった。さすがに中級魔法を魔道具化したものは高いみたいだ。
で、武器のほうは以下の通り。
・火の矢を射出するやつ…【火魔法】初級の【ファイアアロー】を魔道具化
・細い水流を射出するやつ…【水魔法】初級の【ウォーターカッター】を魔道具化
・かまいたちのように風で切り裂くやつ…【風魔法】初級の【ウインドカッター】を魔道具化
・石礫を射出するやつ…【土魔法】初級の【ストーンバレット】を魔道具化
どれもライフル銃のような形状をしていて、引き鉄を引くと先端付近から射出されるらしい。
魔法を発動する場合は脳内に照準が出るけど、魔道具の場合はそれが出ない。なので、照準位置は固定されているみたいなんだよな。
だからこそ照星(銃身の先端部分にある突起)と照門(顔のすぐ近くにある射撃照準装置)を一致させて照準をつける必要があるわけだね。ライフル銃のような細長い形状になっているのはそのためなのだろう。
こんな便利なものがあるのに冒険者で使っている人をあまり見たことが無い。なぜだ?
「武器としての魔道具、通称『魔道武器』はその所持に免許が必要なのです。免許を取得するための試験は難しく、武器の管理費用もかかる上、武器自体の価格もかなりの高額です。ですから、所持しているのはほとんどが貴族の方々ばかりですね」
ここの魔道具店の店主が教えてくれた。
興味があったので詳しく聞いてみると、『魔道武器』所持免許の試験は王都でのみ実施され、合格率は全受験者の10%くらい。
住居内にしっかりと固定された『魔道武器』用のロッカー(鍵付き)が必要で、宿屋暮らしの冒険者は論外だ。
価格は『魔道武器』によって微妙に変わるものの、平均して一台当たり300万ベルくらいだそうだ。
うーん、日本での銃砲所持許可や狩猟免許みたいなものか…。
サリーに遠隔攻撃手段として持たせてやりたかったんだけど、どうやら難しそうだな。
「魔道具を作るのに必要なスキルは何なんでしょうか?」
「はい。魔法スキルは必須です。そのほかに【細工】スキルのスキルレベルがかなり高い値でなければなりません。ですから魔術師様が副業として作成されているのが現状でして、それが魔道具の価格の高さに繋がっております。できれば大量生産体制を確立して、もっとお安くお客様方にご提供できれば良いのですが…」
これについても詳しく聞いてみると、次の通りだった。
・【○○魔法】のスキルレベルが30以上で、かつ【細工】のスキルレベルが50以上あれば、【○○魔法】の初級魔法を魔道具として作成できる。
・【○○魔法】60以上かつ【細工】80以上で中級魔法を、【○○魔法】90以上かつ【細工】110以上で上級魔法を魔道具化できる。
・【細工】のスキルレベル上限はほとんどの人が100であるため、上級魔法の魔道具はほとんど存在しない。
数少ない魔術師がわざわざ【細工】スキルを取得して、そのスキルレベル上げを頑張った結果がこれらの魔道具ってわけだ。
そりゃ値段も高くなるよな。
しかも、ほとんどの魔術師は単一の属性だし…。
ん?だったら俺が【細工】を覚えた場合、全ての属性の魔道具を作れることになるよね。
もしかしたら【複合魔法】を魔道具化することもできたりして…(例えば、お湯を生み出す魔道具とか)。
さらには、『魔道武器』すらこっそりと作れるんじゃないか?…って、武器の密造なんて、まさに悪人の発想だよ(笑)




