第6話
この辺でバトル系に変わってきます
コウタはワクワクが止まらない。何故なら今日はデートだからだ。これはもう完全にデートであろう。相変わらず昨晩は寝れず、若干寝不足のまま待ち合わせ場所の駅で待っていた。少し早く来すぎただろうか、などと思っていると、すぐにカナタがやってきた。
「お、おまたせ~」
「大丈夫~僕も今来たばっかだし。」
「よかった~。そいじゃ行こっか。」
電車がやってくる。ディズニーでも行くのだろうか。とにかく楽しみだ。
しかし、カナタは中々降りようとしない。あれ?ディズニーじゃないの?そう心の中では思いつつ、黙っていた。そういえば「遊園地に行こう」と言われただけで、何処の遊園地、とまでは言ってなかった。盲点だった、というかテンション上がって全然気付かなかった。我ながらバカだ。そんなことを思ってる間に電車はどんどん駅を通りすぎていく。ホントにどこ行くんだろう...
しばらく電車に揺られていると、カナタが乗り換えようと言ってきた。もうとっくに東京は出ている。
「おっ、次の駅で乗り換えだよ。準備して。」
「う、うん。ところでさ、何処の遊園地行くの?」
「ふふ、ナイショ~」
「え~なんでよ~」
マジでなんでよ。かといって、このまま問い詰めるのもアレなので、とりあえず遊園地に着くまで待つことにした。
その頃
「...というわけだ。彼はまだどちらでもない人間だ。この女に気を付ければ君に危害は及ばない。私の部下ではとても手に負えそうでは無いのでね。」
「ふーん..で、報酬は?」
「それは彼をこの場に連れてきてからだ。」
「じゃ、お断りだね。」
「なんだと?」
「わりぃね。あたしゃアンタらみたいに、過激な思想は持ち合わせちゃいねぇんだわ。アンタらのために働くだなんて、とてもじゃないけど、ごめんだね。あたしはこう見えて善人なんだ。ま、報酬を今、この場で渡せば考えないこともないけどぉ~?」
「くっ..ならこれでどうだ。」
厚さ数センチほどの札束を出す。
「うーん、もう一声!」
「チッ...」
男がもうひとつ札束を出した。
「まいどあり~♪」
そういうと、女は颯爽と去っていった。
「ホントにあんなヤツでいいんですか?」
「仕方がないだろう。それに彼女の怨気は実に素晴らしい。まるで心の底から沸きだしてきているように見える。」
「へぇ~」
「ふふふ、儲けた儲けた。それに、この男の子、実にチョロそうじゃないか。この女も大したこと無さそうだし、できる限り殺しておくか。」
彼女は懐から、ナイフを取り出すと、刃に付いた血を拭った。
どのくらい寝ただろうか。コウタはカナタに起こされてやっと目が覚めた。昨日寝てないツケが回ってきたようだ。コウタは電車を出ると、駅名を見て驚いた。
「え?ここって...」
「ふふふ、驚いたでしょ?」
そう、ここはコウタの故郷だったのだ。
「え、でもなんで知ってんの?」
「あ、えーとそれは...そ、そう!コウタ君に驚いてほしくて、アスカ君とかに聞いたんだ。」
「ふーん。」
若干違和感を感じたが、自分のためにやってくれたことなのだから、何も言わなかった。
コウタの故郷には大きな遊園地がある。おそらく今日はそこへ行くんだろう。
「うわぁ~懐かしいなぁここ。」
懐かしい景色にコウタは感動していた。
「てかまだあったんだ、ここ。もう無くなったかと思ってた。」
「無くなるわけないでしょ?こんなに人いるし、そもそもここ出来たの、コウタ君が生まれた後じゃん。まだまだ新しい方だよ。」
「確かにそうだったかも。ってか詳しいね。」
「ま、まぁ事前リサーチは完璧ですから。」
「それにしても懐かしいなぁ。小学生の時とか、よく行ってたなぁ。高校は勉強忙しくてあんま行かなかったっけ。」
「ねぇ、コウタ君。あれで写真撮らない?」
「あ、うん。」
よくあるインスタ映えスポットだ。
「誰かに撮ってもらおうよ。」
「そうだね。」
通行人に声をかけると、その人は快く承認してくれた。
「ねぇ、どんなポーズする?」
「えー、カナタちゃん決めて良いよ。」
「んーじゃあね..」
するとカナタは正面に向かって、告白するようなポーズを決めた。
「フッ、何そのポーズ笑」
「んー、プロポーズ、かな。」
「全然面白くない笑笑」
2人は記念写真を撮った後、いろいろなアトラクションを楽しんだ。
しばらくして、コウタ達は、カフェテリアにいた。
「ふぅ~疲れたね~。」
「そうだね~お腹すいたぁ。」
「そろそろ夜ご飯、食べる?」
「さんせーい。」
「あ、その前に私、トイ..お手洗い行ってくるね。」
「はーい。」
少し女子力の事を気にしすぎてないか?とコウタは思ったが、カナタも努力してるので何も言わなかった。
カナタが帰るのを待っていると、突然、目の前に女性が立ちはだかった。じっとこちらを見つめている。
「...あのー、なんか僕に用すか?」
聡明そうな女性はニヤリと微笑むと、口を開いた。
「君は以前、1人の中年男性に声をかけられたことがあるだろう。」
「あ、はい。」
「あたしはその男の用で君に会いに来たんだが、そのときに、何か頼み事をされたんではないか?」
「あーそういえば..」
すっかり忘れていた。彼女の住所はまだ分からないが、電話番号は教えてもらった。
「すいません、すっかり忘れてました...」
「困るね~、こちとら大事な用が彼女にあるんだ。今日は一日中彼女といるんだ。何気なく聞くチャンスが幾つかあっただろう。」
「はい、すみません...」
「まぁ過ぎたことは仕方ないさ。それの代わり、と言っては何だが、今度は君に用があってね。急なんだが、今から来てもらえないだろうか。大切な用があるんだ。」
「え?今からですか?」
「そう、今から。」
「いやぁ~それはちょっと...明日じゃダメですかね?」
「君はそれでも大人なのかな?人の頼み事を、受けたにも関わらず、それを忘れ、挙げ句の果てに、こちらのた~いせつな要望は聞けないときた。どうせ、あたしが言うまで、頼み事も思い出さなかったろうに、随分とそれは勝手が良過ぎるんじゃないか?」
「...ハイ」
「君は今デートをしてるのかもしれない。だがこちらにはデートよりも大切な用があるんだ。たかがデートの1つや2つ途中退場したぐらいで、壊れるような恋仲では無いだろう。浮気をするわけでもないのだから、誠心誠意彼女に「これは私の責任です。許してください。」と謝罪すれば許してくれるだろう。それで壊れるような恋仲ならば実にうすっぺらいものだと思わないかな?」
「ハイ...」
ぐうの音もでなかった。
あとで謝ろう。そう思って諦めかけたその時、カナタが帰ってきた。
「あれ?コウタ君なにしてんの?」
「あ、いや、これはその~」
「おや、これはこれは...」
女性はおもむろにポケットに手を突っ込むと、カナタに近づき、突然恐ろしい早さで、彼女の懐に飛び込んだ。しかし、カナタは何事もないかのように、こちらに来ると、さっさとコウタの腕を引いてその場を去った。
しばらく女性はその場に立っていたが突然、何かに押さえつけられていた力が無くなったかのように、ポケットから手と、ナイフが飛び出した。
「思った以上に厄介な神通力だな...これは少し面倒かもしれない。」
女性はナイフを拾い上げると、どこかに去った。
カナタとコウタは、ベンチで休んでいた。
「ごめんね、助けてくれてありがとう。」
「いや、いいの。それに...」
「ん?」
「いや、今言うことじゃ無いわ。」
「そ、そう」
「それにあの人がまだここにいたらめんどくさそうだから、今日はもう遊園地を出ましょ。」
「分かった。」
何だか気まずくなってしまった。
そのあと早めの夕食を食べて、もう家に帰ることになった。
電車に揺られている。どちらも喋らない。もうすぐ東京に着くというとき、カナタが口を開いた。
「コウタ君、今日はごめんね。私があの遊園地に行ったから..」
「いや、大丈夫!全然気にしてないよ。それにあれは僕の責任だから。」
「いや、あれは私の責任なの。だから私がもう少し気を付けるべきだった。トイ..お手洗いなんて行ってたから...」
「いやだから全然大丈夫だって。それにカナタちゃん、無理して女子力とか意識しなくていいと思うよ。」
「で、でも」
「僕は前のカナタちゃんも好きだったよ。」
「え」
なんか雰囲気が良くなった気がしたが、電車のアナウンスでかき消された。
「つっ、着いたよ!コウタ君行こ!」
「お、おー!」
顔を紅潮させるカナタは何処か懐かしく、とても可愛らしかった。
帰り道、カナタと別れ、1人で歩いているときだった。
「おにーさん」
何処か聞いたことがあるような声に振り替えると、以前会った少女がいた。
「アタシのこと覚えてる?」
「ああ、あのときの..」
あのときの変な人、とはいえない。
「よかった~忘れられたかと思ったぁ私も帰り道こっちだからついていっていい?」
「別にいいっすよ。」
「やった」
やっぱり苦手だな~この人。と思って帰っていると、突然少女が、悲しげに話をしだした。
「アタシね、今日彼氏にフラれたんだ。長いこと付き合ったのに。」
「は、はぁ」
こんな可愛い人を振る人もいるんだなぁ
「男ってホント酷い。アタシも信じてたのに」
ポロポロと涙を流しながら急に喋り出したので、コウタは焦った。
「え、え」
「おにーさんもそう思わない?」
「う、うん」
僕も男だけど
「ま、まぁお姉さん綺麗だし、きっとすぐに新しい人が見つかりますよ。」
「こんな見ず知らずのアタシを慰めてくれるなんて」
「え?」
突然、少女が抱きついてきた。
「優しいんだね、清白コウタ君。」
え?なんで僕の名前知ってんの?
その刹那、少女の体が突然上に舞い上がった。
「え?」
理解が追い付かない。少女は高く舞い上がったのにも関わらず、すんなり着地すると、横を向きキッと、睨みつけた。
「邪魔すんなよ。」
視線の先にはカナタが立っていた。
「それは私が責任を持つって言ったでしょ?勝手なことすんなよ。邪魔してんのはミカ、貴方の方でしょ?」
「お前遅いんだよ。いつまで待たせる気だ。こっちだって、危険と隣り合わせで間ってるんだから、さっさとしろ。」
「それは...」
「そうよ。」
ミカと呼ばれる女性の奥から、もう一人女性が出てきた。
「サツキ...」
「さすがに待たせ過ぎね。彼にも悪いけど、こっちにも重要な仕事というものがあるの。それとも彼をこのまま死なせてしまうつもり?どちらもなんの利益も得られないわ。」
「くっ...」
「おにーさんには悪いけど、もうそろそろ話すときがきたんだよ。」
「...分かったよ。」
そう言うと、何も理解してないようなアホ面をしているコウタに
「今から私の家に招待する。ついてきて。」
そういうと、さっさと去っていった。
「ごめんなさいね?コウタ君。これも世界のためなの。」
「そうそう、おにーさんは世界を救うヒーローだから。」
「は、はぁ」
何を言っているか分からなかったが、とりあえずついていくことにした。
その頃
「奴らの弱点が、分かりましたよ。」
「ほう、是非聞かせてもらおう。」
「はい。それでは...」
「あたしにも聞かせてもらおうか。」
「貴様、少年はどうした?」
「あー、少し女の方をバカにしてたみたいだ。残念だが今は手元にいないよ。」
「貴様...」
「おーっと勘違いしないでくれよ?あたしはまだ諦めた訳じゃない。次行くときに確実に仕事を果たせるように、作戦を練るだけさ。」
「ふん、ほざけ。貴様のようなヤツらはもう五万と見てきた。お前にはもう、何も言うことは無い。」
「ふーん、そっちがその気ならそれでいいさ。あたしはあたしのやり方で彼を救うさ。」
「好きにするがいい。だが我々の邪魔をするのならどうなるかは保証せんぞ。」
「何とでも言いなよ。あたしはあんたらみたいな悪党には負けやしないさ。」
そういうと彼女はさっさと出ていった。
「父さん、母さん...」
ナイフを握る手が強くなる。
「あたしが...必ず終わらせる...」
夜空に、星が輝いていた。
さようなら