第5話
感情移入出来ない?気合いでなんとかしろよ。
深夜4時頃、コウタは急に目が覚めた。たまにあるアレだ。急に目が覚めたものの、なかなか寝付けない。これもたまにあるヤツだ。折角の休日に朝からゲームというのもアレなので、コウタは少し、夜明けの町を散歩することにした。
外に出てみると、そこには、普段見えない町の顔があった。朝が苦手なコウタは、とてもテンションが上がった。いつもは人通りが多く常に騒がしい、この道も、今は誰もいない。どうしてこんなにもテンションが上がるのだろうか。そう思いながらコウタは小一時間ほど歩き、いつも行く公園で一息ついていた。この公園も今は、「いつもの」公園ではない。いつもは人が多いが、今見えるものといえば、酔いつぶれたおっさんがベンチに座っているくらいだ。朝散歩も中々良いなぁ~
、と思っていると、
「おにーさん」
と声をかけられた。可愛らしい声に振り返ると、1人の女性が立っていた。年はカナタと同じくらいだろうか。女性と言うより少女っぽい雰囲気、そして、なんと言ってもめっちゃ美少女だった。
タイプでは無いけど。
「おにーさんなにしてるの?」
「え、あーえっと、散歩っす。」
「ふーん、散歩ねぇ。こんな時間に?いつもは見たこと無いのに。」
「ま、まぁ目が覚めたものだからちょっと気晴らしにと思って...」
この人は一体何が言いたいのだろうか。
「アタシ早起きだから、毎日この時間になると散歩しに来るんだよね。ほんで毎朝この公園に休みにくんの。」
へぇ
「おにーさん、正直に言っちゃいなよ。ほんとはアタシに会いに来たんでしょ?」
は?
なんだろう、こういう人ってホントにいるんだなって思った。女嫌いとか関係なく嫌いだ。確かに自分の可愛さを完全に理解し、使いこなしている。だから嫌い。俺ってそんなチョロそうなヤツに見えるのかな...俺も1人の男、きっぱりと断ろう。
「いや違います。ただ散歩しににただけです。」
「ふーん...」
彼女は動揺するどころか、少しニヤついているように見えた。
「あ、そう。ならいいわ。じゃ、これ」
そういって渡されたのは、1枚の紙切れ。これはこの人の電話番号だろうか。数字が羅列していた。
「それ、アタシの電話番号だから。また気になったら電話してきて。じゃあね」
彼女は颯爽と去っていた
帰り道、コウタは、こりゃモテ期の到来かな?などと思ってニヤニヤしていた。小学生の通学時間帯と重なっていたら、おそらく通報されていただろう。家に着くと疲れていたのか、意外とすぐに眠りに付けた。
目が覚めると、午前11時だった。やべ寝過ぎたかな、と思いながら服に着替える。そんなことをしていると、スマホが鳴った。
「もしもし?」
「よぉコウタ、久しぶり。」
「たっくん!」
電話の相手は、高校の時の仲良し四人組の1人、緑川タクミだった。彼も東京に住んでいるが、コウタの家からはかなり遠い。
「どしたん?」
「いやさ、なんか前に、全然知らないおじさんにお前のこと聞かれてさ、お前がなんかやらかしたのかと思ってさ。」
「いや、多分俺なんもしてない。」
「あ、そう?だったらいいんだけど。あ、そうそうお前彼女出来たんだって?アスカから聞いたよ。」
「いや~聞かれちゃいましたかァ~実は俺もついに彼女デビューしました~!」
「ふーん...」
コウタのテンションとは裏腹に、タクミは少し声のトーンが下がっていた。
「え、なんでテンション下がってんの?」
「お前大丈夫なん?高校から、女付き合い苦手だったじゃん。」
「大丈夫!何とか克服したみたい。あれ?高校からだっけ?てっきり俺昔からだと思ってたけど。」
「やっぱお前、忘れてんだな...」
「え?なんて?」
「いやなんでもない。お前が幸せなら俺も掘り返すつもりもない。また進展あったら教えてくれよな。」
「お、おう」
「あ、そういやさ。たっくんと俺らって仲良し四人組だったじゃん。あっくんと俺らとあと誰だっけ?」
「いやお前、それは~...アイツだろ?....やべ覚えてねえかも。」
「お前も?あっくんも覚えてなかったんだよね、また今日卒アル見てみるわ。」
「俺も見るわ。」
「OKありがと。」
「おう」
なんだかモヤモヤする電話だった。
一体たっくんは何を心配していたんだろう。俺の女嫌いって昔からじゃなかったか?そもそもなんで俺が覚えてないんだ?かといってたっくんが言う高校からっていうのも、なんの違和感もなく聞こえてしまった。思い出そうとしても何も出てこない。あと4人目が誰も思い出せないのは何故だ?俺も卒アル見てみよ。そう思い、棚に手を伸ばしたとき、チャイムが鳴った。
「はーい」
ドアを開けるとカナタがいた。
「しょうね...コ、コウタ君...」
「あ、カナタちゃんどしたの?」
「今、ここの前通ったから、それで私達連絡先知らないでしょ?交換しといた方がいいと思って...」
「OK、スマホ取ってくるわ。」
「あ、あともう1つ大切な用事があって...」
「ん?何?」
「こ、今度さ。一緒に遊園地とか行かない?」
まさかの誘いだった。マリさんに何か教えてもらったのだろうか。口調も大分変わっている。そんなことはどうでもいい。どうであれコウタの返事の選択肢は
「是非!!!」
のみだった。
結局その日、コウタは卒アルを見るのを忘れた。
「もしもし?タクミ?」
「おう、アスカか?今日コウタと電話したんだけどさ」
「どうだった?」
「やっぱり忘れてる。」
「やっぱりか」
「まぁ忘れてるなら掘り返すつもりもないんだけどな。」
「まぁな。」
「でもホントに忘れられるもんなのかな。心に封じ込めるとか、そんなこと完全に出来るわけないと思うんだが。」
「それはコウタにしかわかんねぇよ。俺たちは見守ることしか出来ん。」
「まぁそうだな。あ、そうそう。俺たちって仲の良い四人組だったじゃん。そのことなんだけど..」
「あと1人がわかんねぇんだろ?」
「よく分かったな。」
「俺とコウタもその話題になったんだわ。ちょうど今卒アル見てるとこ。」
「どう?」
「それが...全然分からねぇんだわ。」
「そんなことある?俺にも写真送ってくれよ。卒アル探すのめんどいし。」
「おう。」
「んー...やべぇ全然わかんねぇ。」
「だろ?」
「そんなことあるかなぁ。もう年かも」
「何いってんだよ。俺らまだ25だぞ。」
「いやでもフツーありえんて。」
「第三者の手によって記憶を消されたとか!?」
「確かにありえる。なわけねぇだろSFかよ。」
「だよなぁ..うっわコイツの名前懐かし」
「変わった読みしてるよなぁ。たまに学年に数人いるヤツ。」
「それな。この子の名字なんて読むんだろ。」
「だれだれ?」
「ほら~この右から4番目の女の子。」
「うわ~珍しい名字してんなぁ...そもそもこんな子いたっけ?」
「全然覚えてねぇ笑」
「やっぱ俺たち年なのかなぁ...」
後ろから足音がついてくる。怖い。最近世間を騒がせている通り魔だったらどうしよう。そう思った束の間、息使いが聞こえるほどにまで距離を詰められていた。あまりの恐怖に走り出す。すると追うように、後ろの足音も走りだす。ヤバイ。
もうすぐ追い付かれる。そう思ったとき、誰かがその足音を吹き飛ばした。
「逃げて!!」
その声を聞いて、少女は走りだし、その場にはシーナと、1人の男だけが残った。
「お嬢ちゃん、なんで邪魔するの?」
彼の目に怒りの炎が宿る。手元の刃物がギラリと光る。
「お前みたいなヤツがいるから、ヤツらがいなくなんないのよ。」
「はぁ?何ぶつぶつ言ってるの?殺すよ?」
「何も言ってなくてもどうせ殺すでしょ。それに殺されるのはお前の方だ。」
「は?」
カナタが腕を伸ばす。その瞬間男の体が宙を待った。鈍い音を立てて、男が落ちる。血が流れ出るのを横目にカナタは去った。
「カナタ!!」
「サツキ...」
「あんた、またやったんでしょう?」
「大丈夫、浄化はしといたし、殺してもいない。」
「そういう問題じゃないの。あなたがそうやって大胆に動けば動くほど、あなたも危険に晒されるのよ?」
「何を保護者面してんだよ。私の面倒は私が見る。どうせ一回死んでんだ。もう失うものは何もねぇよ。」
「ほんとかしら?あなたコウタ君に何か思い入れがあるんじゃないの?」
「...」
「だんまりってわけね。いいわ。今日は許してあげる。でも次はないわよ?それと、コウタ君のこと、早めに決断なさい。彼が向こう側についたら、おそらく私達に勝ち目はないわ。」
「ああ...」
「あと、あんた、記憶は消したの?」
「あ、忘れてた。」
「もう、そういうところよ。後は私が処理しておくから。もう金輪際やるんじゃないわよ。」
「うっ、わかったよ。」
「あと、冷蔵庫に色々入っているから。自分で温めて食べなさい。もう皆食べたんだからね。」
「あ、ああ。」
サツキってやっぱ私のお母さんなのかな?そんなことを思いつつ、カナタは帰路についたのだった。
特になし