第4話
女子の皆さんごめんなさい。
女子力...女子力?女子力ってなんだ?ガールズパワー?戦闘力みたいなもんか?いや違うか。
可愛さ?可愛さ指数的な?多分そうだ、そうに違いない。
そう思ったコウタは、カナタをブティックに連れていった。東京でも比較的有名な洒落た店だ。
「ほう、服か。」
「そうそう、女子力ってのは服で決まるんだよ。」
「ふーん...」
張り切って連れてきたコウタだったが、いまいちどんな服を着てもパッとしない。コウタは気付いた。カナタは顔がまぁまぁ可愛いのだ。これはまずいと思い、さっさと店から出た。ますます女子力が分からなくなった。頭が真っ白になった。これが顔に出ていたのだろう。
「どうした?顔色が悪いぞ?具合でも悪いか?」
あぁ...終わった..もう正直に言おう...
「じ、実は俺..」
と言おうとした時だった。
「お!コウタじゃん!」
聞き慣れた声に振り返ると、そこにはコウタの同級生、赤坂アスカがいた。コウタと同じ、卒業した後、東京に来た数少ない友人の1人だ。
「あっくん!と...えーと」
あっくんの隣には、1人の女性がいた。いかにも女子力が高そうだ。
「紹介するよ。俺の彼女のマリだ。」
「よろしく~」
「あ、よろしく..」
「お前の友人か。私は彼の彼女、カナタだ。よろしく頼む。」
「よろしくね~」
一風変わった挨拶のせいで、少し気まずくなった空気の中、なんの戸惑いもなく挨拶を返してくれたマリさんには感謝しかない。
すると、何を思い付いたのかコウタはアスカに耳打ちをした。
「なぁあっくん」
「な、なんだよ急に」
「1つお願いがあるんだけど聞いてくんね?」
「お、おう」
「実はカナタちゃんなんだけど、俺に女子力を教えてくれとか言うんだよ。お前の彼女に頼めないかな?」
「うーむ、まぁ旧友の頼みだ。1つの俺がお願いしてやろう。」
「すまん!」
コウタは友達って...いいな と思った。
「ふーん...女子力ねぇ..」
マリは熟考していたが
「よし分かった。確かにカナタちゃん、女子力無さそうだし、教えてあげるわ。いつにする?」
と快諾してくれた。
「わ、私はいつでも構わんぞ。」
若干へこみながらカナタは言った。
時は変わって、カナタとマリは喫茶店に来ていた。男は来るなとコウタとアスカには言っておいたので女子2人きりだ。
「それじゃ早速勉強開始ね。カナタちゃんも女子力教えてほしいって言うくらいなんだから、多少自分で調べたりしたでしょ?どんな風に思った?」
「そうだな。私が調べた限りでは、女子力というのは女性としての生き方を向上をさせたり、女性であることを自身のアイデンティティーとし、それを示すために使う概念的な力を、女子力と言うらしい。また女子力の定義というのは...」
「あーもう大丈夫!これはカナタちゃん重症だね~まずは喋り方とか口調とか覚えていこっか。
大丈夫、カナタちゃん可愛いから多少欠けてても平気だよ~」
あ、はい....
複雑な気持ちになりながら女子力講座はスタートした。
一方その頃、男子2人は散歩しつつ、思い出話に花を咲かせていた。
「いや~まさかコウタに彼女ができるなんてな~」
「マジそれな~人生なに起こるか分からないもんだな~」
「そういやお前なんか急に女付き合い苦手になったよな~昔は俺たち4人でよく遊んでたじゃん。」
「あ~懐かしいなァ、俺とお前と、たっくんとー、えーと...あれ?あと1人誰だっけ?」
「おいおいマジかよ..あれ?俺も思い出せねぇ」
「女子だったのは覚えてんだけど、顔も名前も出てこねぇ。」
「あれ?女子だっけ?」
「あっくんの方が覚えてねぇじゃん笑」
「また暇なとき卒アルでも見てみっか。」
「そうだな。」
そんな他愛もない話をしていると、急に1人の男性から声をかけられた。
「そこの君」
「はい?」
振り返るとそこには、身なりはボロボロだが不思議と威厳があり、髭の濃い中年男性が立っていた。
「君、清白コウタ君だね?」
「あ、はいそうすけど」
最近俺が知らない人が、俺の名前知ってるなぁ。
なんか個人情報でも漏れてんのか?
「君こんな女性に見覚えはないかね?」
そういって渡された写真にはカナタがいた。
「この女性を知っていたら色々聞きたいことがあるんだ。」
「あ、これお前の彼女じゃん」
男性の目が怪しく光る。
「ほう、君の彼女だったのか。」
「い、一応」
「それなら都合がいい。彼女の住所を教えてほしい。」
「ど、どうしてですか?」
さすがに見ず知らずの人に住所を教えるのは失礼だと思った
「彼女は私の従兄弟なんだ。すこし親族のことでお話があってね。」
怪しい、怪しすぎる。かといって、これで本当に親族だったらヤバいので、教えることにした。
ってあれ?俺、彼女の住所知らねぇ!?
とんでもない事に気付き絶望していると、
「どうしたのかね?顔色が悪いぞ」
と言われた。
コウタは恥ずかしがりながら
「じ、実は彼女の住所知らないんすよね~...」
男性は少し戸惑っていたが
「そうか、それなら仕方がない。それならまた後日に会えないかな。これが私の連絡先だ。」
そういって渡された紙きれには、おそらく彼の電話番号であろう数字が並んでいた。
「住所がわかったら、なるべく早く連絡をくれ。頼んだよ。」
そういって去っていく男の背中を見ながら、コウタはまた1つ、あることに気付いていた。
あれ?俺カナタちゃんの電話番号知らなくね?
その頃、マリによる女子力講座は終盤にさしかかっていた。
「なるほど、女子力というのは自然と身に付いていくものなのか。」
「そ、最初は意識すんのに疲れるかもだけど、しばらくしたらすぐ慣れるよ。私が教えられるのはこんくらいかな~」
「分かったありがとう。今日のことを参考に頑張ろうと思う。」
「そんな堅苦しくなくていいよ~ほら、もっと軽くふんわりと。」
「きょ、今日はありがとね。ほんとに助かったわ。」
「うーん、初々しいけどそれがまた可愛いって感じ☆またなんか困ったら言ってね。マリ先生がなんでも教えたげるから。」
そういって喫茶店を出たカナタに、1人の女性と小学生くらいの男の子が話しかけていた。
「カナタお姉ちゃんなに話してたの。」
「ユウ、サツキ..何しに来たんだよ。」
「あらあら、せっかく彼氏が出来たことを祝いにきたのに、随分冷たいのね。」
「べ、別にいいじゃねぇか。」
「せっかく女子力を教えてもらったのに、その口じゃダメね。」
「お前ら何処から見てたんだよ。それにお前らのために女子力教えてもらったんじゃないもーん。」
「私たちの前ですら女子力を出せないのに、コウタ君の前で出来るわけがないでしょう?なんなら私が女子力教えてあげてもいいのよ?」
「うるせーぞサツキ。ユウもいるんだしこんな話はとっとと止めにしようぜ。」
「それはそうとカナタ。コウタ君、どうなの?」
「それはまだこれから考えてく。今決めるのは早すぎる。」
「そう。なるべく急ぐのよ。アイツの行動が最近大きくなってきている。私たちも十分危険なのよ。」
「ああ、分かってる..」
「カナタお姉ちゃん彼氏できたの」
「ユウにはまだまだ早い話よ。ほらさっさとお家に帰りましょう。」
「私はコンビニ寄ってから帰る。」
「早く帰るのよ。いつ狙われてもおかしくないんだから。」
「分かってるって。」
自室に帰り、カナタはアルバムを開いていた。
「コウタ君...」
懐かしげに声を漏らす。
写真には4人の男女が写っていた。