見えない君のみたいもの
本が欲しいと少女は言う。
『こいつ現世のものじゃないな』
本能が告げている。
自分が酒に酔って倒れ込むように寝入ったため気づかなかった違和感。
人の家に何故いるのか。
何故深夜に自分たち親子に頼みごとをするのか。
何故電灯が付かないのか。
何故あるはずのないインドの本が戸棚の上などにあることになっているのか。
自分たち親子が住んでいると認識していた家の構造が、何故か自分たちの住処と明らかに違うのに違和感なく探し物ができるのか。
自分はLEDライトを探すことにする。
どんなに暗くともどこか明るい都会においては、キューブ型で折り畳みが可能、しかも軽くて何度も使えるこのソーラーランタンは日常的に使用できるものなのでこの夢の中でも意識の中に入れることができたらしい。
妖物の類は文明の光を嫌うのか、周囲で光が点かないことがある。
面倒くさいことに本を読むにしても本を探すことにしても視覚が必要なのは彼女とて変わらないらしい。
都会の妖物は結構現代っ子らしい。普段どうやって本を読んでいるのか。ケータイ小説とか読むのだろうか。スマートフォンなんて光っているけど例外的に読めるのか。
LEDランタンは酔っ払い状態で思考が制限され、妖物の前で内心少しビビッている自分でも脳裏に描ける程度には『普通』の品だが、自分が所属する『地域』で普段使いする人間はあまりいない。
武術家の一本歯下駄みたいなもの。もっと一般的なものとしてはやま登りする人のショーワグローブテムレスシリーズみたいなものだ。
そういえばテムレスは田中陽希も使っているし、ソーラーランタンはやま用具店では専用コーナーがあるな。思いの外一般的だし、そのうちこの夢の空間では使用出来なくなるかもしれない。
それを取りに部屋に行くと少女に返答して目覚めた。
とりあえず夢ではあったらしい。
さて、夢の中でおふくろは一緒に探すとか抜かしていた。
そういえば自分も約束している。妖物に約束すんな。
LEDランタンを夢の中に持ち込めるかは定かではないが、自分たちはこれから中途半端な暗闇でしか存在できないが故に本は読めないわ、自分の巣で探し物もできないポンコツ妖物、ついでに一応美少女を助けなければならないらしい。
とりあえず助けようとする態度が大事なので今から二日酔い防止に水をたくさん飲んで寝る。
寝小便でもしなければ少女を助けられるし、寝小便してもおふくろは助かる筈だ。