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天命の誘い  作者: 龍那
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第6話 初めてのデート

 那岐は少し早いが、待ち合わせ場所に向かった。

 良い天気だ。外で遊ぶ訳ではないが、どんよりした天気よりは気持ち良い。いつもより速いペースで歩いてしまい、普段より短い時間で駅前に到着した。誰か居るが、目立つ場所なのでその人の近くで待とうと思い、近付きながら腕時計を見て時間を確認した。

「早過ぎたな。20分前か」

「那岐君?」

「ん? あ、那美か。全然気付かなかった」

 さっき遠くから見えた人は、那美だった。

「おはよ」

「おはよ。私服見た事ないから、全然分からなかった。似合ってるじゃん!」

 那美の私服は、上が少しフリルのついた黒で、下は白の長めのスカートだ。化粧も普段より少ししっかりしている。

「あ――ありがと」

 那美が照れた。

「じゃ、行こうぜ」

「うん」

 一緒に歩き出し、ホームに向かった。

「いつもは誰と観に行ってるの?」

「珠々葉と、伊雪で」

「そうなんだ。仲良いんだな」

「高校で友達になって、ずっと同じクラスなんだ」

「へぇ~。俺と隼人もずっと同じクラスだったんだ」

「そうなんだ」

 その後、那美と観に行く映画のキャラクターの好み等を話題にしていた。

 映画館に到着し、チケットを発券する機械の所に一緒に行った。那岐は予約しておいたチケットを2人分取り、機械から離れた。

「はい」

「ありがと。1000円だよね」

「そうだけど、これは俺からのお礼だから、そのまま受け取って」

「うん。ありがと」

「俺こそ、勉強見てもらってありがとな。こういうの、初めて?」

「1回だけあるよ。那岐君は?」

「実は初めて」

「慣れてるように見えるよ」

「そうかな? それに今更格好付けても、しょうがないしな」

「そっか」

 那美が微笑んだ。可愛くてつい、顔が緩んでしまいそうになったので、顔に手を当てた。

「どうしたの?」

 那美が首を傾げ、俺の顔を見た。

「いや――えっと……可愛いなーって思って」

 すると、那美の顔が赤くなった。それを見て、那岐も顔が紅潮した。

「ごめん。自分で言っておいて、滅茶苦茶恥ずかしい」

 那美は首を横に振り、また可愛い笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。

「お、おう――」

 那岐と那美の間には微妙な空気が出来てしまい、互いに口を閉じてしまった。

「あ、パンフレット買うの忘れてた」

 他の人が持っているのを見て、思い出した。

「那美も買う?」

「うん」

 一緒に直ぐ傍の販売スペースに行き、カウンターの人に声を掛けた。2部まとめて買い、袋も貰ってその場から離れた。那岐は1部袋に入れ、横に居た那美に手渡した。

「ありがと。はい」

 那美から小銭を貰い、財布に入れた。

「おう」

 丁度良いタイミングで館内放送が流れたので、入る事にした。

「じゃ、行こうか」

「うん」


 映画が終わったので、ロビーに向かって歩き出した。

「相変わらず、凄かったな――」

「うん」

「何かここ最近、色々な物を破壊してないか?」

「そうだね」

 那美がまた笑った。

「ちょっと、トイレ行ってくる」

「うん。出てきたら、ここで待っててね」

「おう」

 那美は明確には言わなかったが、自分も行くようだ。自分の方が遅い事を想定して、そう言ったのだろう。

 人気の作品が終わった所なので混雑していたが、那美より早く指定した場所に戻ってこれたようだ。少し待つと、那美も出てきた。

「じゃ、行こうか」

「うん」

 丁度お昼の時間帯なので、近場で食べようと考えていた。勿論行く店もほぼ決めている。

「お昼、食べようか。お腹空いた……」

「うん」

「食べたいものあるか? いや、嫌いなもの言ってくれた方が決め易い」

「嫌いなの、無いよ」

「分かった」

 那美は好き嫌いが無いようだ。

 一緒にレストランがあるフロアへ移動した。

「那美は好き嫌い無いんだ?」

「うん。那岐君も無いの?」

「俺も特には無いな。よっぽど変な物じゃなければ」

「変な物って?」

「シュールストレミングとか、長野とかで食べられてる某食材とかは無理だな」

 あまり口にすると、食欲が失せそうなので、あえてぼやかした。

「そういうのは、無理だよね」

 那美は理解したのか、苦笑いしていた。

「食糧が減ってきても、多分無理だよ」

 フロア案内板の所で止まり、少し評判のイタリアン料理店を指した。

「こことか、どう?」

「良いよ」

 那美がOKしてくれたので、イタリアン料理店に向かった。

「イタリアンも好き?」

「うん。時々食べるよ」

「そうなんだ。神社だからさ、どうしても和食のイメージが強いんだけど、そうでも無いんだな」

「今はそこまで気にしない所が多いと思うよ」

「やっぱ、そうか」

 店は案内板のすぐ近くにある。那美とほとんど会話をする事無く着いた。

「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

「はい」

「では、ご案内します」

 店員は横並びに座れるテーブルに案内してくれた。大きな窓が目の前にあり、テーブルが横長になっている。

「こちらにどうぞ。決まりましたら、お呼びになって下さい」

 目星を付けておいた店なので、既に食べる物は決めていた。

 那美は少しメニューとにらめっこしていた。しかし、メニューを開かない那岐に気付いた。

「那岐君は、もう決まってるの?」

「うん。これにしようと思ってる」

 那岐はランチメニューの料理を指した。

「じゃぁ私もそれにする」

 那岐は店員の方を見て、軽く手を挙げた。

「お伺い致します」

「この、セット2つ下さい」

「畏まりました。セット2つですね。ドリンクは、どれになさいますか?」

「アイスカフェラテで」

「ホットティー下さい」

「畏まりました。アイスカフェラテと、ホットティーですね。では、暫くお待ち下さい」

 店員がオーダーをキッチンに通した。

「那美は紅茶好きなんだな」

「うん」

「俺はほぼストレートだな。レモンティーは偶に飲むよ」

「どっちも美味しいよね。ミルクティーは飲まないの?」

「そうだな。ミルクティーは飲んだ事が無いな」

「苦手?」

「お茶に牛乳だから、先入観で避けてるだけだよ」

「そうなんだ。じゃ、今度美味しいの作ってあげる」

「楽しみにしてるよ」

「うん」

「お待たせ致しました。アイスカフェラテとホットティーです」

「どうも」

「ごゆっくり、どうぞ」

 紅茶は小さめのポットに入っているようだ。

「注いでやろうか?」

「自分でする――」

 那美は恥ずかしいのか、自分でティーカップに注いで飲んだ。

 那岐は早速カフェラテに口を付けた。自分の口には苦過ぎたので、シロップを少し投入して丁度良い加減にした。

「来年も楽しみだな」

「そうだね」

「来年も一緒に行けたら良いな」

「私は――神職資格が取れる大学に行くの」

「そっか。神社継ぐんだな」

「うん。だから一緒に行くのは難しいかも」

 那美は少し残念そうな声をしていた。

「那岐君は将来の夢ってあるの?」

「今は特に無いかも。だから後で困らないように大学に行って、卒業する事がとりあえずの目標だな」

「そっか。じゃぁ勉強頑張らないとね」

 笑顔で那美がそう言った。

「う――そうだな。大丈夫かな――」

 那美の言葉が軽く突き刺さった。

「大丈夫だよ。このペースで頑張れば」

「そっか。じゃぁ、これからも宜しく」

「うん」

「ありがとな」

 那岐は、那美がここまで尽くしてくれる理由が良く分からなかった。以前から知っていたとはいえ、那岐と実際こうして喋ったり会ったりするのは今年からだ。

「1つ訊いて良い?」

「何?」

「何でここまで俺の為にしてくれるんだ?」

「えっと――私が、したいから」

 全然理由になっていないが、那岐はそれで納得する事にした。

「そっか。ごめん変な事聞いて」

 那美は首を横に振った。

 那岐は話題を変えようと思い、音楽の趣味を訊いた。音楽も少し共通点があり、カラオケも時々行くようだ。

「お待たせ致しました。パスタランチです」

「ありがとうございます」

「以上ですね。ごゆっくり……」

 那美も一緒に相槌を打った。

「いただきまーす」

「いただきます」

 那岐は先ずサラダから食べてみた。歯ごたえが良く、ドレッシングも丁度良い量だった。温かいスープはシンプルなコンソメスープだった。パスタは僅かに芯が残るか、残らないか絶妙な茹で加減に仕上がっていて、ソースとよく絡んでいた。

「美味しいな」

「うん」

 那美は綺麗に食べていた。

「ご馳走様」

「那岐君、偉いね」

「ん?」

「ちゃんと、頂きますとご馳走様って言う人、なかなか居ないと思うよ」

「そうかな? うち、かなり厳しかったからな。半分癖みたいなもんだよ」

「そうなんだ。ご馳走様でした」

 那美も手を合わせ、食事が終了した。ほぼ同時にまだ残っている飲み物に手を伸ばした。残りを飲み切って、テーブルに置いた。

 那岐は、もっと那美の事を知りたいと思った。

「ねぇ。那美って得意な料理何?」

「実は、まだそんなに出来ないんだ」

 那美は苦笑いをした。

「そうなんだ。俺、勝手に得意なのかと思ってた。ごめん」

「あっ、ううん。謝らなくて良いよ」

 那美は、那岐の失言に対して怒らなかった。

「俺なんか、全然料理した事無いよ。やったら、絶対何かやらかすね。爆発するかも」

「そんな訳無いでしょ……」

 那美の顔が少し笑っていた。

「いや、からっきしダメだからな。揚げ物なんかした日には、家が燃えて無くなるね」

「ふふ――じゃぁ、那岐君は料理禁止だね」

「そうだな」

 あまり長居しても店に迷惑なので、そろそろ出る事にした。

「そろそろ出ようか」

 那岐は立ち上がろうと、椅子を引いた。

 すると那美が「ちょっと待って」と言い、財布を取り出して自分の分を那岐に渡した。

「はい」

「おう」

 那岐は素直に受け取った。

 レジ前で出す出さないの話をして、店員を待たせるのも良くない。レジ前で割り勘にすると、格好がつかない……だから、テーブルで渡してくれたのだろうか。

 那美の行動に感心した。

「お会計、2300円です」

「はい」

「丁度、お預かり致します。ありがとうございました」

 那岐達は店員に「御馳走様でした」と言い、店を出た。

「美味しかったな」

「そうだね」

 那岐はどうするか考えた。当初の予定はもう全て終わってしまった。もっと珠々葉から那美の事を聞いておけば良かったと後悔した。

「まだ、時間ある?」

「あるよ」

「何か買いたいものとか、無いの?」

「今は、特には無いかも」

「そっか。ちょっと歩こうよ。色々とあるよ」

「うん」

 この建物の中は専門店が幾つもある。歩きながら、様々な店を見た。

「服とか、こういう所で買ったりするの?」

「そこまでは、あまりこだわり無いよ」

「そうなんだ。よく似合ってるから、何かこだわってるのかな――って思った」

「ありがと」

 那美は笑顔で答えてくれた。その時、那岐はふと違和感に気付いた。

「そういやさ、髪少し切った?」

「うん。切ったよ」

「ちょっと違ってたから、分かったよ。気付くの遅かったけど」

「良いよ。気付いてくれて、嬉しい」

 そんな那美の台詞に、那岐の心臓が跳ねた。那美は那岐の少し驚いた顔を見て、軽く首を傾げた。

「何でもない。次、行くぞ」

「うん」

 那岐は悟られるのが恥ずかしくなり、顔を背けた。那美の返事には少し笑みが含まれていたような感じがしたが、那岐は気にしないようにした。

 次々と店舗を見ながら駅の方に向かって歩いた。視界に入ったものを話のネタに、いっぱい喋った。気付いたら1時間程歩き回っていた。

「そろそろ帰ろうか」

「うん」

 電車に乗り、最寄り駅に到着した。ここで別れても良いが、那岐はもう少し一緒に居たいと思った。

「家まで送るよ」

「うん。ありがと」

 那岐達は多賀神社の方に向かって歩き始めた。

「デート楽しかったな」

「うん。私も楽しかった」

 あえて主語を変えてみたが、否定されなかった。那岐はその事が少し嬉しかった。

「次は違う所行こうよ」

 那岐は軽い感じで誘ってみた。

 すると、那美が「良いよ」と即答してくれた。

「あ、割と歩いたよな。足、大丈夫か?」

 今更だが、那美の足の事が心配になった。

 つい那美の顔ばかり見ていて、朝気付いていた事を忘れていた。今日の那美の靴は少しかかとが高い靴だ。

「大丈夫だよ。あれ位なら」

「そっか」

 無理してるように見えなかったので、どうやら本当に大丈夫のようだった。

 気付けばもう神社に着いた。

「ここを通ると必ず風が吹くんだよな……」

「それはね、神様も歓迎しているんだよ」

「そうなのか?」

「うん。鳥居を潜って、天気が急に変化したり、風が吹いたりするのは、歓迎されている証拠なんだよ」

「へぇ。知らなかった」

 那美の家の前まで一緒に歩き、玄関前で立ち止まった。

 那岐は、もう少し那美と一緒に居たくなっていた。こんな感情は久しぶりだった。しかし今は自分自身の気持ちの確認より、プレゼントを渡す事が先だ。

「じゃぁ、那岐君――またね」

 那美が振り返り、笑顔で俺の事を見送ってくれた。

「ちょっと待って」

 那美は軽く首を傾げた。

「あの、これ――あげる」

「何?」

「文房具だよ。那美もいっぱい使うだろ?」

「いつも使ってるお店の――ありがとう」

 那岐は那美の笑顔を見て、緊張が解けた。どうやら、気に入ってもらえたようだ。珠々葉には後で礼を伝えよう。

「じゃぁ――また明日な」

「うん」

 那美に笑顔で見送られ、神社を後にした。

 那岐は自分の気持ちに正直になってみようと思った。

 もっと那美の事を知りたいし、もっと一緒に居たい――そう思った。那美――多賀那美子の事が好きなんだと、那岐は確信した。

 那岐は帰宅した後、珠々葉にお礼のLimを送った。

「辻ありがとな。上手くいった」

 珠々葉の返信は早かった。

「いえいえ~。頑張ったのは那岐君でしょ」

「そうかも知れないけど、やっぱり辻に相談して正解だったよ」

「それはどうも」

「じゃぁ、また明日」

「はーい。また明日ね~」


 那岐は那美が髪を切った事に気付いただろうか。服も褒めたんだろうか。男の子は鈍いから、気付かないかも知れない。でも、そこまで教えるのは、ちょっとやりすぎだと思ったので、珠々葉はあえて黙っていた。

 またLimの通知音が鳴った。スマートフォンの画面を見ると、那美からだった。

「那岐君とのデート、上手くいったよ。ありがとう」

「そっか。良かったね」

「うん。良く行くお店の文房具もくれたんだ」

「そうなんだ。那岐君ってセンス良いね」

「うん。髪切ったのも気付いてくれたよ」

「おー……で、服は何て言ってた?」

「似合ってるって言ってくれた」

「そっかー良かったね、那美」

「うん。珠々葉ありがとう」

「いえいえ。可愛い那美の為だもん」

「珠々葉の方が可愛いよ」

 珠々葉は自覚していた。自分はそれなりに顔は整っている方だと――でも、那美の方が男子からの人気は高いようだ。那美はそんな事、全然自覚していないようだ。

「ありがと。じゃ、また明日ね」

「うん。おやすみ」

「おやすみー」

 珠々葉は那美からデートの話を詳しく聞きたかったが、直接訊いてやろうと思った。その方がきっと面白い。照れた那美をいじるのが楽しみだ。

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