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天命の誘い  作者: 龍那
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第5話 初デートの誘い

「おはー」

 登校中、隼人を見かけたので声を掛けた。

「おはよ。今日は普通って感じだな」

「お前は朝から暑苦しいな」

 隼人の隣には美紀が居た。

「そこで一緒になったからな」

「那岐君、おはよ」

「おはよ」

「昨日は行ったのか?」

 隼人が昨日の事を訊いてきた。

「相変わらずだよ」

 隼人は那美との事を気にしているようだ。

「何の進展も無しか」

「そんな直ぐに進展すると思うか?」

「でも、今の所毎日行ってんだろ?」

「そうだな」

「那岐君、毎日何処に行ってるの?」

 美紀が興味を示した。

「こいつ、多賀に勉強教えてもらってるんだよ」

 隼人がニヤリとして、那美の事を喋り始めようとした。

「あんま大っぴらにしないでくれるか? 多賀が困りそうな気がする」

「今の聞いた? 那岐も1人の男になってきたな」

「全く。ガキじゃねーんだから」

「多賀ちゃん、頭良いよねー。優しいし」

 美紀にとっても那美の印象は良いようだ。

「美紀も知ってるのか」

「女子の間では、あまり知らない人は居ないと思うよ。ほんの一部からは煙たがられてるけど」

「そうなんだ」

 那美は万人受けしそうだと思う。多分、例の1年の時の話が絡んでいるのだろうと那岐は思った。

「つーか、お前ら一緒に帰ってるから、既に軽く噂になってるぞ」

「マジか――」

 那岐はそんな事になっているとは知らなかった。

「逆に、勉強っていう名目がある方が良いんじゃない?」

「はぁ――ま、しょうがないな。これは」

 那岐は開き直る事にした。所詮は噂だ。別にやましい事をしている訳でもないので、隠す必要が無い。

「で、次の手は考えてるのか?」

「なんだよそりゃ」

「勉強見てもらってんだろ? お礼に何か渡すとか、デートに行くとか!」

 隼人は少しテンションが上がってきたのか、語尾が強くなっていた。那岐は図星を突かれ、つい困った表情をしてしまった。

「図星か。残念だが、今俺は多賀の情報は持っていない。というか廃棄したからな。頭に残ってる事は、お前に全部話した。辻とかに訊いてみるのが、一番早いんじゃないのか?」

「とりあえず、辻に聞いてみるつもりだったんだよ」

 那岐は観念して、正直に答えた。

「ほぅ。やるじゃねぇか。こんなに積極的な那岐は初めてだな」

 隼人の顔がニヤついた。

「うるせぇ――勉強見てもらってる礼だからな」

「そういう事にしておこう」

「那岐君。頑張れー」

「くそ――」

 那岐は教室に入り、適当に挨拶をした。珠々葉は那美と戸倉伊雪の3人で談笑中だった。

 戸倉は今度の校外学習の班決めで一緒のメンバーだ。名前は伊雪と書いて、いぶきと読む。背丈は珠々葉と然程変わらない。伊雪はいつも髪を1つに束ねている。

 あまり彼女達の邪魔はしたくないが、先に予約しておこうと那岐は思った。

「辻、ちょっと良いか?」

「お? 珠々葉、那岐君とどっか行くの?」

 伊雪が騒ぎ始めた。

「ちょっと、話があるだけなんだけど」

「いいよー」

「あ、今じゃなくて、昼休みに」

「おっけー。那岐君はいつも学食だっけ?」

「あぁ」

「教室に居てるからね」

「昼終わったら、呼べば良いか?」

「うん」

 那岐は自分の席に座り、スマホを開いた。

 

 横でやり取りを見ていた那美はちょっと気になってしまい、意識がそっちに向いた。

「どったの? 那美、大丈夫?」

 伊雪が心配してくれた。

「何でもない」

 那美は首を横に振った。

「もしかして、アレの日来たの?」

「そうかも」

 那美は前回がいつだったなんて考えず、ごまかそうと思って嘘を吐いた。

 しかし、周期なんて結構ズレが生じる事もあるし、ちょっとした事でも早く来たり、遅く来たりする。こればかりは予測がつかない。那美の場合、そこまで重くないのであまり気にしていなかった。


「悪いな、隼人。今日は先約があるからな」

「行って来い!」

 今日の昼休みは食後のカフェラテを飲んだ後、すぐ教室に向かった。

 教室に戻ると、3人集に直ぐ気付かれた。

「ちょっと借りるな」

 他の2人には悪いが、那岐にとって大事な用事だ。

「借りられて来ます」

 珠々葉は敬礼をし、着いて来た。

「何だ今の」

「別に」

 珠々葉と笑いなら移動した。内緒話でもないので、教室近くの廊下で立ち止まった。

「こんな所でするの?」

「こそこそとする内容でも無いからな」

「話とやらは何だろう」

「那美の事なんだけどさ……」

「やっぱそれか。何? 気になってきたの?」

 珠々葉の目が輝いていた。

「ん、勉強見てもらってるお礼にさ、何かしようかと思って。那美の好みとか分からないから、辻に訊こうと思ったんだよ」

「そっかそっかー成程ね。そうだなーこの時期、毎年映画観に行ってるから、それとかどう? 勿論、それは那岐君の奢りで。時間帯によっては、どっかで食事して、別れ際にプレゼント。これでどうだい?」

「早っ!」

 那岐は提案してくれた速度にビックリした。

「定番は下手に外さないからね」

「映画って――もしかしてあれか? 俺も毎年観に行ってるぞ」

 那岐はタイトルを言おうとしたが、大人の事情でジェスチャーをした。

「それ。丁度良いじゃん」

 こんな形で共通点を発見した。

「で、プレゼントって、何が良いと思う?」

「軽い物で良いんじゃない? 映画代も出すんだし」

「軽い物?」

「消・耗・品。私らが良く行く雑貨屋の文房具を、適当にまとめて買ってあげたら? それなら値段も高くないし、気軽に渡せるし、貰う方も気軽だと思う」

「文房具か。それ良いな」

「場所はね――」

 珠々葉がスマートフォンで教えてくれた。

「ありがと」

「いえいえ」

 これでとりあえず大丈夫だ――。

「ねぇ。ついでにLimのID教えてよ。そしたら、わざわざ呼び出して、話す必要が無くなるでしょ」

「そうだな」

 Limを起動し、IDを交換した。

「もう今日中に誘うの?」

「そうだな」

「頑張れー」

「はいはい」

 那岐は適当に返事をし、教室に入った。

「おかえり~。珠々葉、那岐君と何話してたの?」

「珠々葉のお悩み相談所だよ」

 那岐はそんなやり取りを横目で見ながら席に着いた。

「何それ?」

 伊雪は、那岐と同じ事を思っていたようだ。

「色んな悩み、相談に乗ります!」

「いつの間に、そんなの始めたの?」

「わりと前からやってたよ」

「そうなんだ」

「なので、内容は言えませーん」

 珠々葉は上手く内容を伏せていた。

 那岐は今日も勉強を教えてもらう為、一緒に帰った。

「家でも結構進んで、数学は良い感じだよ」

「良かった。分からない事があったら、何でも聞いてね」

「じゃぁ、英語も良いかな?」

「良いよ」

 部屋に通され、紅茶を飲み、勉強を始めた。

 英語はとりあえず文法を抑える事にした。幾ら単語を理解しても、文法が分からなければ話の内容が分からない事もある。

「じゃぁ、今日はこの辺で終わろうか」

「ふぅ――今日も、ありがとな」

「うん」

 那岐は緊張し始めた。女の子をデートに誘うなんて初めてだ。高鳴る心臓の鼓動を感じているが、勢いで言ってしまえば何とかなるだろう……。そう思って、口を開いた。

「那美、俺と映画行かないか? 今度の休みに。勉強見てもらってるお礼に、俺が出すからさ」

「そんなの――良いのに」

 那美の返事は想定内だった。那岐は更に押す事にした。

「貰いっぱなしってのも何か悪いし、俺の気が済まないんだよ。だから――お願い」

「うん――」

 那岐はホっとした。

「俺、毎年この映画、観に行ってるんだ。それで良い?」

 大人の事情で言えないので、スマートフォンで映画の宣伝ページを見せた。

「良いよ」

「じゃぁ、行こう。土日、どっちの方が良い? 俺は出来たら日曜日が良いんだけど――」

「どっちでも大丈夫」

「じゃ、日曜日に。時間とかは後でLimで送るから」

「うん」

「ありがとな」

「私こそ――ありがと」

 全ての用件が済んだので、那岐は立ち上がった。見送りの為に那美も立ち上がった。いつも通り玄関まで見送ってくれた。

「じゃぁ、また明日な」

「うん。また明日」

 土曜日と言われたら少し大変だったが、余裕を持って準備出来そうだ。日曜日までの予定を、頭の中で組み立てながら、帰宅した。

 家に着いたので、珠々葉にLimを送っておこうと思った。

「おっす。那美とのデートだけど、日曜日に行く事になった」

 すると、すぐ珠々葉から返事が来た。

「上手く誘えたみたいだね。頑張ってね~」

「色々と?」

「そう。色々とね」

「ありがとな。助かった」

「いえいえ、どうしたしまして。では、また明日」

「おやすみ」

 次は日曜日のスケジュールを組む事にした。


 珠々葉は一旦スマートフォンを置いて、那岐の事を考えていた。そこまで顔面偏差値は高くないのだが、人柄は良い方だと感じていた。

 またLimの通知音が鳴った。スマホ画面を見ると、今度は那美からだった。珠々葉はLimのトーク画面を開いた。

「今年の映画だけど、那岐君と行く事になったの」

 那美からのLimは、那岐とのデート決定の報告だった。

「そっか~。那美から誘ったの?」

「違うの。那岐君が、勉強のお礼にって」

「そうかそうか。良かったね。じゃぁ、今年は伊雪と2人で行くよ(>_<)」

「ごめんね、急に」

「謝んないでよ~冗談だよ。那岐君とのデート、楽しんできてね」

「うん。ありがとう」

 珠々葉は「デート」という単語をわざと使ってみたが、那美は否定しなかった。

「じゃぁ、また明日ね」

「珠々葉。お悩み相談所なんだけど、今から私も良い?」

「良いよー」


「よし。こんなもんか」

 日曜日の予定が大体組めた。那岐は那美にLimを送る為、スマートフォンを操作した。

「那美、日曜日なんだけど、朝9時からので大丈夫?」

 暫く経ってから、那美から返事が返って来た。

「うん。大丈夫」

「じゃぁ、8時30分に駅前に」

「分かった」

「また明日な」

「うん。明日なんだけど、午後は用事があるの。だから、勉強は無しでお願い」

「OK! おやすみ」

「おやすみ」


 今日は土曜日だが、うちの学校では授業がある。

 授業を消化し、学食で昼を摂った。

「今日は? 午後丸々あるけど、多賀の家に行くのか?」

 隼人が予定を訊いてきた。

「いや、行かない。午後は用事あるんだと。俺も用事あるし」

「そうか」

 真一は何の事やら、あまり分かっていないようだ。会話に入ってこれていない。

「何? 俺にも教えろよ」

「実は那岐がさ――」

 隼人が事細かく真一に喋り始めた。

 那美と勉強をし始めた事から、毎日行っている事。そしてデートに誘った事まで喋った。

「そんな事になってるのか」

「あぁ。面白くなってきただろ?」

「那岐にも春が来るか」

「お前らで勝手に盛り上がってるみたいだけど、まだ何も始まってないぞ」

「まだ――ねぇ。で、辻に聞いてみたんだろ? 進展したのか?」

「明日、一緒に映画観に行ってくる……」

 那岐は少し答えるか迷ったが、隠す必要が無いので、正直に言った。

「お~やるねぇ。用事ってのは明日の準備か」

 隼人は嬉しそうだった。

「まぁ、そんな所」

「いや~何気に頑張ってるじゃないか。那岐君。お兄さんは嬉しいよ」

「誰がお兄さんだ。誰が。で……真一は良いのかよ」

 真一も那岐と同じで、まだ彼女が居ない。

「俺は良いんだよ。大学の方が見つかりやすい」

「人数多いからなぁ。それに2年終わるまでは、わりと時間あるらしいからな」

 隼人が少し羨ましそうにしていた。隼人はスポーツ推薦で進学する予定なので、遊んでばかり居られない。

「そういう事」

「俺も……今年は無理しなくても良いと思ったんだけどなぁ」

「那岐、チャンスは何度も来ないぞ」

 隼人は那岐の肩に腕を掛けた。

「チャンスをみすみす逃すような奴は、成功しないぜ~」

 真一も後押しをした。

「はいはい。頑張りますよ。じゃぁ、明日の準備があるから帰るな」

「じゃ、月曜日――楽しみにしてる」

 隼人はワクワクしているようだった。

「何を?」

「結果――」

「期待されても困る」

 那岐は少し困った表情をして、学校を後にした。

 珠々葉に教えてもらった店は少々入り辛そうだが、気にしていても仕方が無いのでさっさと入った。完全に場違いな雰囲気だ。他の客は女子ばかりだったので、那岐は直ぐにでも店を出たくなった。

 シャーペンの芯と消しゴムとルーズリーフを手に取った。もう1つ何か無いか辺りを見ると、ふとシャーペンが並んでいるコーナーが目に入り、良いデザインの物を見つけた。綺麗な赤色をして、シンプルなデザインだった。那美に似合いそうな気がしたので、これも手に取りレジに向かった。

 店の紙袋に入れて手渡された。那岐は場違いな雰囲気が嫌で、その場からすぐに消えた。

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