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第85話「友達」

最近更新が不定期になってしまい申し訳ないです。

 

「な、ななななななななななんで⁉︎ なんでいるの⁉︎」


 見るからに動揺を隠せない飴宮さん。そんな彼女に、飴宮さんのお母さんはとぼけたような顔を向けた。


「あら、授業参観に親が来ちゃいけないの?」


「そうじゃないでしょ! ……こほん、いや、そうじゃなくて、なんで、こ、孤羽くんと一緒に」


「やっぱりあなたが孤羽くんなのね。いつも娘がお世話になっております」


「人の話を……」


「でも、なんだか恥ずかしいわ。あなたが孤羽くんだとは思わなかったから、まさか当の本人にあんなことやこんなことまで話しちゃったなんて」


「ちょ、ちょっと、あんなことやこんなことって何? っていうか、日常的に私を世間話のネタに使うのやめてよ……」


 傍若無人なお母さんに振り回されっぱなしの飴宮さん。普段の学校生活の中で見せる落ち着いた雰囲気は微塵もない。母と娘という特別な関係性がそうさせているんだろうが、案外、家でもこんな感じなのかもしれない。


「まさか飴宮さんのお母さんだったとは……」


「Hahaha、それはお互いさまよ。ワタシは日本とアメリカのハーフだから、この子はクォーターになるのかな」


「クォーター⁉︎ うわすげえめっちゃ憧れる」


「髪と眼の色は遺伝しなかったけど、鼻筋はすっと通ってて可愛い顔してるでしょ」


「え、あ、はぁ、まぁ、その」


「や、やめてって! もう……」


「――なにしてんだ?」


 すると、どこからともなく狼月がふらりと現れた。着崩した制服に、鋭い目つき。感情の読み取れない低い声。初対面だとだいぶ怖いが、この男実はただのぼっちなのである。


「あの人、飴宮さんのお母さんらしい」


「誰のお義母さんだって?」


「あ?」


 無意味なやりとりをしていると、飴宮さんのお母さんは狼月の方を振り向いた。


「あら、あなたもお友達かしら」


 飴宮さん母の何気ない一言に、俺ってお友達でいいのかな? と狼月に視線で一瞬だけ問われた。こういう、外見には現れないこいつの悪い奴じゃないオーラを飴宮さん母が感じ取ったんだとすれば、ものすごい嗅覚だ。


「……狼月す」


「ウルフマン!」


「おぉ……そんなあだ名つけられたの初めてすわ」


「も……もうやめて! 迷惑してるから! 絡んでこないで! もう帰って!」


 羞恥で顔どころか耳まで真っ赤にして母の服を引っ張る飴宮さん。言葉を崩してすらすらと喋っている飴宮さんを見るのは初めてなので、なんだか新鮮だ。


「……なんかこうして見ると、飴宮さんも普通の人なんだな」


 狼月は月並みな感想を口にした。


飴宮あーちゃんと孤羽じゃん。その人誰?」


 すると、今度はどこからか逸部が現れて、俺に質問してきた。


「飴宮さんのお母さんだって」


「え、マジ⁉︎ あーちゃんのママ、金髪外国人なの⁉︎ かっこよ!」


 逸部はついさっきの俺みたいに母娘の顔を見比べて、飛び出すようにお母さんの前に踊り出た。


「ども、あたし、あーちゃんの友達の逸部です! Nice to meet you☆」


「あらまぁ、元気な子ね。Nice to meet to you,too☆」


 逸部の発音レベルを軽く超えるネイティブ挨拶を返してきた。ノリが良い。


「ハッちゃんのお母さんですか? 初めまして。餅月さくらです! つい先日も、一緒に初詣行きました!」


 すると、餅月さんまでもが現れた。


「あらそうなの? 娘がいつもお世話になっております」


「とても仲良くさせてもらってます!」


「えーすごい、飴宮先輩のお母さんってすごい可愛い人なんだー」


 気づけばまたひとり、飴宮さんの輪の中に入っていた。誰かと思えば、文化祭の厨房で一度見た、飴宮さんの後輩の図書委員の女子だった。英会話室のあるこの階は1年生の階だった。


「ファッ? 孤羽氏、これはなんの祭りでござるか?」


「別になんでもねえよ」


 そんなこんなで、木藻男軍団が何かの祭りだと勘違いするくらいには人だかりができていた。これだけ女子が集まると世間話ガールズトークが始まるのはもはや確定演出みたいなもので、お母さんを交えてわいわいと談笑していた。飴宮さんのお母さんには、人を引きつける何か不思議な力があった。


「さて、もう帰るわ」


 だから、話の流れで彼女があっさりとそう言ったとき、俺は驚かずにはいられなかった。


「は? いや、帰るって、まだ授業見てないすけど……」


「薄荷が、たくさんの楽しいお友達に恵まれてることがわかれば、それで十分よ」


 飴宮さんのお母さんは、一堂に会した俺たちの顔をじっと見回した。


「ありがとう。娘をよろしくね」


 そう言い残し、飴宮さんのお母さんは本当に帰っていった。




 * * *




「……すみませんでした、過保護な母で」


 残りわずかな休み時間、飴宮さんは開口一番謝ってきた。


「それだけ大事にされてるってことだろ」


「それが余計なお世話なんですよ……私のことで、あれこれ心配されて、自分のことみたいに悩んで、うっとおしいったらありゃしない……悩んだり、辛かったりするのは、私だけでいいから……お母さんにまで、同じ思いは……」


 飴宮さんは昔いじめが原因で不登校になり、復帰してもなかなか周囲になじめずにずっとひとりぼっちだったらしい。お母さんに自分のせいで気苦労をかけたくない、と思うのはもっともだが、あの人からすれば、自分が悩んでいたことを娘が気にして悩んでいるのは本意ではないだろう。


「自分のことのように悩んでたからこそ、さっきも、飴宮さんが楽しそうなのを知って、心から喜んでた。自分の感情に心から共感してくれる人なんて、そういないぜ」


「……分かってますよ、そんなことは」


 飴宮さんは薄く微笑んだ。外野の俺が言うまでもないことだったらしい。お母さんには幾度となく助けられてきたのだろう。そんな横顔を眺めながら脳裏に浮かぶのは、たくさんの友達に囲まれて楽しそうだった飴宮さんとお母さんの、とてもよく似た笑顔なのだった。


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