第77話「ファッション」
「孤羽。飴宮ちゃんから聞いたよ。アンタ趣味ほしいんだって?」
教室移動のため、ひとりで廊下を歩いていると、暇そうな逸部がだる絡みしてきた。俺なんかに絡んでくるとはよっぽど暇なんだろう。
「ま、そうだけど……なんだよ。文句あんのかよ」
「それなら、メイクとかファッションにこってみるのはどう?」
しりとりの序盤並みのスピードでそんな言葉が返ってきた。もっと考えて喋ってくれ。女友達との会話のテンプレートをそのまま流用するんじゃないよ。
「悪いな……俺、こう見えて男なんだ。今まで知らなかったかもしれないけど」
諭すように逸部に言い聞かせると、「知ってるわ!」とナイスツッコミが返ってきて、軽く肩をこづかれる。
「メンズメイクとかファッションとか、最近はいろいろあるの! あとは、髪いじってみるとか? そんな伸び放題のうっとおしい髪より、もっと今風の感じにしたらいいんじゃないの。その……か、顔はそんなに悪くないんだし」
「やだよ面倒くさい」
適当にあしらうと、どこからか現れた餅月さんが「孤羽くん趣味ほしいんだって?」と会話に混ざってきた。なんで俺のトップシークレットは色んな方向に流出してんだよ。恥ずいわ。
「趣味がほしいなら、ギターとか楽器初めてみたら? バンド組みたくなったらいつでも軽音部で待ってるよ」
「今から入部したら浮きまくるだろ……あれ、餅月さん軽音部なんだっけ」
「友達に勧められてね。ちなみにボーカル&キーボード担当だぜっ」
「すげー! さくら超カッコいいじゃん! えーいいなぁー! あたしもなんかやりたいな……ボーカル&タンバリンかな。カラオケ行きまくってるし」
「リズム隊だね。あとはギターがいるとバンドが完成するんだけど……」
意味ありげに言葉を切ると、餅月さんは期待のこもった目で俺をちらちらと見てくる。その視線に何かを察した逸部も、同じような視線を向けてくる。
「……なにを期待してるんだよ」
困惑気味に質問すると、逸部は大きくため息をついた。
「いやいや。この流れは孤羽が『じゃあ俺、ギター初めてみようかな……』って言ってバンド結成のパターンでしょ。ノリ悪いなーほんと」
「青春ドラマの観すぎだ……人生そう上手くいってたまるかよ」
そんなすんなりいかないんだよ。メンバーひとり集めるのにアニメ1話分くらい使うぞ。
「えーと、趣味だっけ。なんだろな……」
脱線しかけた話を餅月さんが軌道修正する。うーんうーんとうなりながら腕を組んで考えてくれる。
「孤羽くんは、芸術系の趣味が合うと思うんだけど……なんだろう、やっぱり楽器がいいと思うけどなぁ。ハーモニカとか吹けたらカッコよくない?」
「それもそうだけど、ちょっとハードル高いな……続くか自信ないわ」
「芸術系なら、それこそあたしが最初に言ったファッション的なやつを」
「それはなんか違う気がする」
「文句ばっかり言うなやー」
「俺にも選ぶ権利くらいある」
「まぁまぁ……でも、いいんじゃない、ファッション。意外とハマるかもよ」
荒っぽくなった空気を餅月さんがなだめてくれる。こんな無意味なやり取りにすら気をつかわせてしまい、なんだか申し訳なく思えてきた。
「いや、俺引きこもりだから……私服にこだわっても着る機会がないんだよな……」
「「あぁ……」」
ちょっと哀れみの視線を向けられ、ふたり同時に納得されてしまった。すごい説得力。いいのかこれ。




