第67話「2日目」
文化祭は2日目が本当の勝負。日曜日だから、他校の学生や暇つぶしで見にくる家族、校風を視察しに訪れる中学生、服装イキりがちなOBOGなど、1日目の土曜日より目に見えて一般の客が多い。しかもうちはよりにもよって注目を集めやすいメイド喫茶。12時頃にちらっと店先を見たら、行列が行列を呼び、もう大盛況だった。
「ああ……」
俺は厨房のテーブルに突っ伏したまま声を漏らした。嵐のようなラッシュタイムを戦い抜いた厨房班の面々は、そこら辺に捨てられたボロ雑巾のようにぐったりしている。
「一生分働いた……もう死ぬ……」
* * *
『――オーダー追加! ミルクティーとレモンティー各8つ、パンケーキ4つ、オレンジジュース2つ、りんごジュース1つ! クソッ、バンバンオーダー入れやがって……処理が追いつかない!』
昼時のピークタイムは、鳴り止まない通知音と怒号が飛び交いまさに戦場のようだった。昨日とは桁違いの忙しさに、小野も苛立ちを隠せない様子。
『ミルクティーがもうないでござる! 買い出し要請きぼんぬ!』
『あっ、コーヒーも、あと1本だった、はずです……あと、パンケーキの素も、そろそろ』
『もう買い出しには行かせた! 10分以内に物資が来るはず……クソッ、大体なんで僕がこんな役……!』
小野は悪態をつく。店との中継役と厨房班のまとめ役を同時に行って疲れきっている。
『いつまで続くんだよ……もう指が壊死するんだけど』
『もう少しの辛抱、です。ここさえ抜ければ、あとは楽になります……というか、そうだったらいいのにな……』
『ただの願望じゃねーか!』
* * *
「もう働きたくないでござる……」
がっくりとうなだれて真っ白に燃え尽きている木藻尾。小野も、虚空を眺めてうわごとのようにプリキュアの曲を口ずさんでいる。ふたりは廃人マックスハートだ。
「たこ焼き屋の厨房がピンチで水戸部ニキが救援行ったときはもう詰んだと思ったやで……」
猛虎弁で喋るのはROM男こと木村。というかコイツの本名今日知った。
「…………」
粉まみれで満身創痍の水戸部は弱々しく片手を上げてこちらに応える。なまじ料理ができるせいで割を食ったが、お礼に余ったたこ焼きをいっぱいもらっていた。
「飴宮さんもパンケーキの素ひっくり返して俺のスラックスにぶちまけたし……」
「し、失礼、しました……」
粉は全部払ったはずだが、なんかまだいい匂いする。いい匂いだから別にいいけど。
「なんか、バカみたいだな。なんで俺たちあんなに頑張ってたんだろ……」
「それが青春……でござるよ」
「くっせー台詞だな……」
とは言うものの、他にこの状況を説明する上手い言葉が見つからなかった。思わず空気が漏れたような笑い声が出る。中身のない雑談で疲労を紛らわしていると、LINEの着信音が鳴った。すっかり耳にこびりついたオーダーの通知。パブロフの犬のように条件反射で仕事モードに入る。
「!」
立て続けに着信が鳴った。昼のピークはもう過ぎたはずなのに、それを彷彿とさせる注文量だ。なんなんだよ、と時計を見て、この事態に納得する。
「……もう3時か」
「なるほど。おやつの時間、ですね」
「どうりでパンケーキの注文が多いわけだ……」
積み重なるオーダーに、青い顔をして一心不乱にフライパンを振る水戸部に同情した。フライパン借りて飴宮さんにヘルプさせるか……。
「ハッちゃああああああん!」
すると、何やら叫びながらメイド餅月さんがパタパタと家庭科室に転がりこんできた。ちなみにハッちゃんとは飴宮さんのあだ名で、下の名前の「薄荷」からきている。
サプライズメイドにおろおろしている木藻尾には目もくれず、餅月さんは飴宮さんに向き直り息を整える。この忙しいときに何の用だろう。
「ハッちゃん、忙しいところ申し訳ないんだけど……」
飴宮さんに両手を合わせて頭を下げた。
「メイドやってくれない?」
「……へ?」




