第63話「-2」
「――私たちのクラスが催す『メイド&執事喫茶』は文化祭当日、接客班と厨房班に分かれますが……」
2学期が始まって最初の総合学習の時間。教卓に手をつく餅月さんは、文化祭当日の役割分担会議の司会進行役を務めていた。その傍らに立っている数人の学芸実行委員。ざわざわと色めき立つクラスの連中。
「……」
目の前で繰り広げられている青春チックなやり取りを、俺はどこか他人事みたいに眺めていた。
「ま……厨房一択だな」
「ですね……メイド服で人前に立つのは、恥ずかしい、です……」
俺の呟きに隣の席の飴宮さんが答えた。夏休み中にプールや夏祭りに一緒に行ったりしたが、いざ学校が始まると、俺たちの距離感は夏休み前に戻っていた。あれは暑さで気がふれたひと夏の過ちということで。体育祭直前はクラスが団結するけど、体育祭後は熱が冷めてみんなバラバラになる現象と似たようなものだ。いや違うか。
「あーあ……始まっちまったよ、地獄の狂宴が」
「はは……でも、今年は――」
「シフトはなるべく早めに入れてもらって、終わったら速攻帰って本屋巡りだな。これから文化祭準備とかやらされるんだろうなー……はぁ、クソダルい」
「……」
鬱々としたため息を吐くと、飴宮さんは少しムッとした表情で口をつぐんだ。
「……もっと、素直に楽しみましょうよ。孤羽くんと迎える文化祭……私は楽しみ、ですよ」
「そうか……そうだよな、飴宮さんは昔陽キャだったらしいし、文化祭とか『みんなで一緒に頑張る』行事で憂鬱になる俺の気持ちなんて分からないよな。同じぼっちでも根っこが違うからな……」
刺のある物言いをすると、飴宮さんは悲しそうに俯いた。
「そ、そんな言い方、することないじゃない、ですか……私はただ、孤羽くんと一緒なら、文化祭も楽しめそうだな、と思っただけ、なのに……」
飴宮さんを傷つけてしまった。俺という奴は飴宮さんになんてことを言ってしまったんだ。
「……悪い。俺文化祭嫌いだから、飴宮さんが文化祭楽しみって言ったのがよく分からなかったんだ」
「いえ、別にいいんですけど……今年は、せっかく私がいるのに、文化祭ダルいとか、寂しいこと言わないでください……私だって、孤羽くんの友達なのに、自信、なくしちゃいます……」
俯いた飴宮さんは、上目遣いでちらりと俺を見た。なんだよその捨てられた子犬みたいな眼は……。
「わかった、わーかったよ、もうダルいなんて言わない。飴宮さんと一緒なら、まぁ……そこそこは楽しめる、だろうし?」
そっぽを向いて約束すると、飴宮さんはニコリと微笑んだ。
「では、来週の文化祭準備から、頑張りましょう、ね。ふふ」
やれやれ……毎回こうなるんだ。飴宮さんの悲しげな眼には逆らえた試しがない。
短くなった言い訳をさせてもらうと、本来は2人の文化祭に対する温度差から喧嘩に発展して絶交エンドの予定で書き進めていましたが、昨日になってそれは悲しすぎる! と思い直し急遽路線変更した結果なのです。




