第57話「鉄板」
前回までのあらすじ。逸部と映画を観た後入った定食屋に木藻尾がいた。あらすじ終わり。
「ど、どういうことでござるか、孤羽氏⁉︎ なぜ貴様が逸部氏と一緒に定食屋などに……」
「別になんでもいいだろ」
「つれないでござるなぁ。孤羽氏が何も教えないなら、拙者の推測であることないこと勝手に広め回るがよいのか? ねぇ、よいのか?」
「うっっぜえ……いや、『宇宙戦士――」
言いかけたところで、逸部に軽く腹パンされた。なにすんだよ、と視線で訴えると、逸部はブンブンと首を横に振った。自分が特撮オタクであることはバラされたくないらしい。
「『宇宙戦士』? 宇宙戦士メタルブレイバーのことなら昨日から映画がやっていたが、まさか2人で映画を観た後昼食を食べにここに来たというわけではござるまい。逸部氏にそんな趣味があるとは思えないし、孤羽氏がそんなにモテるはずない、デュフ」
俺のたった一言で完璧に推理されてしまった。木藻尾……恐ろしい子。途中何かとても失礼なことを言われた気がしたがまぁそれはいいか。
「いや、これはアレ……メタルブレイバー……役の俳優の大ファンで、逸部が。映画観に行きたいっつってもやっぱヒーローものだしひとりじゃ心細いから、俺に付き合わさせてんだよ。お礼を兼ねて昼飯は逸部がおごってくれるからこの定食屋入ったの。お前が想像してた要素何も入ってなくて残念だったな」
口から出まかせをまくしたてると、逸部は感心したように眼を丸くした。
「孤羽、すごいじゃん……いつもダルそうなのに、意外と頭良いんだ」
「うまい嘘を作るコツは、隠し味に『真実』を少々混ぜることだ……」
「なにそのくさいセリフ。うざ。あと、おごらないからね。どさくさに紛れてセコいよアンタ」
「なんかひどくね?」
窮地を助けてやったのに酷い言われようである。結構気に入ってたフレーズなんだけどな……。
「ふむ……メタルブレイバー役の俳優は、あれ以降鳴かず飛ばずで無名同然なのでござるが……本当に俳優が目的――」
「木藻尾ー」
木藻尾の言葉を遮って、逸部が木藻尾の名を呼んだ。猫に睨まれたネズミのように、木藻尾は恐る恐る逸部の方を向く。背筋が凍るような冷たい声とは裏腹に、逸部の顔には満面の営業スマイルが貼り付いていて余計に怖い。
「この話はもう終わり。もし今日のこと喋ったらアンタの好きな娘、学年中の女子にバラすからね」
逸部はエグいくらい太い釘をトドメにブッ刺した。刺された木藻尾は目を見開き口元を押さえてぶるぶる震える。オーバーリアクションうぜえ。
「……デュフ」
……と思ったら、木藻尾の口元から微かに笑い声のような怪音が漏れ出ているのに気づいた。
「……デュフフ、デュフフフフフフ」
笑い声が大きくなる。身体の震えは恐怖によるものではなく、笑いを堪えていたらしい。ヒーロー映画を観た直後だからか、主人公チームに追い詰められるも逆転の策を隠し持っている悪の幹部の姿が重なる。
「孤羽、あいつこの状況で何で笑ってんの? イカれてんの?」
逸部は容赦ない感想を耳打ちしてきた。もしこいつがヒーローだったら、事あるごとに「何か分からんがくらえッ!」って突っ込んでいって真っ先に返り討ちにされてそう。切り込み隊長というよりはただただ浅慮なタイプ。
「デュフフ、甘いでござる。その鎌掛けはナンセンスでござるよ、逸部氏。拙者、2次元しか愛さないキモオタゆえリアル女子を好きになるなど、1000%、ないでござる」
木藻尾は、逸部相手に堂々と言い放った。こいつ、餅月さんを好きなこと隠して、逸部にブラフかましてやがる……。しかも内容が割とまとも。
だが……と、俺の特撮テンプレ展開予測機能が警鐘を鳴らす。1000%とか断定するのは1000%破滅フラグ……。
「餅月ちゃんでしょ。見てりゃ分かるわ」
「ダ、ダニィ⁉︎」
逸部の一言の前に、木藻尾のささやかな抵抗はアッサリ撃沈した。逸部はへたりと頬杖をついて、大きくため息をついた。
「はぁーあ。アンタにはガッカリだよ、木藻尾。このあたしに逆らおうとするなんて。なーんかショックで口が滑りそうだなー」
「ファッ⁉︎ そ、そんな、よしてくださいよ姐さま、ほんの冗談ですってばデュフフ……」
木藻尾は引きつった愛想笑いを浮かべる。いや姐さまって。絡むの初めてにしては思ったより打ち解けるの早いな。いらん気まずさを味わわなくて済んだわ。
木藻尾視点から見てこの状況を打ち解けていると認識すべきかどうかは知らないし興味が沸かない。とりあえずごまかしきれたということにして、ちょうど運ばれてきたナポリタンに粉チーズを振りかけた。
「うわぁー美味しそ〜」
逸部が物欲しげな顔でこっちを見てくる。
「すーぐそうやって他人のものにたかる。しっしっ」
「いーじゃん! 一口だけ! ね! 後で付け合わせのコーンあげるから!」
「いやハンバーグよこさんかい……いやなに勝手に食ってんだよ。いただきますじゃねえんだよ」
「うめー」
「頭おかしいのかこいつ」
他人のナポリタンを勝手に食べた逸部に困惑しつつ、俺はナポリタンを食べた。美味い。美味すぎて逸部の一口分が失われたことが残念でならない。
「孤羽氏……普通に仲良いではないか」
「全然よくねーよ」
なんか勘違いしてそうな木藻尾に咄嗟に言い返すが、この台詞回しは特撮テンプレ的に見てどうなんだろうと考えかけてやめた。




