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第24話「夜道」

 

「ふーん、ずいぶん仲良いんだね。どんな関係?」


 双葉は尖った声で訊いてきた。電車内や飲食店で携帯電話での通話が禁止されている理由は、単にうるさいからだけではなく、電話している人の会話の内容が分からずに、周りの人がストレスを感じるからだという。


 あまりピンと来ないかも知れないが、これはアレだ。こっちをチラチラ見ながら内緒話をしている奴らを見ると、俺の悪口言ってんのかなーと気になる現象と同じだ。耳を澄ませてもギリギリ聞こえなくてかなりストレスを感じるから、せめてこっち見んな。悪口なら言ってもいいから。


 そんな話はどうでもいいけど、こいつが不機嫌なのはきっとそういうことだろう。


「ただの友達だよ」


「へぇ、お兄ちゃんに友達ね……で、どんな人なの、アメミヤさんってのは」


「あん? 別に――あれ、俺、飴宮さんって紹介したっけ?」


「話してるのがたまたま聞こえただけ。で、どうなの?」


「どうって言われても……俺と同じ人種だな」


「お兄ちゃんと同じって言うと……キモオタぼっち?」


「飴宮さんはキモくねぇよ」


「……」


 思わず口を突いたつっけんどんな返しに、双葉は黙りこくってしまった。ちょっと言い方キツかったかな。このままずっと口聞いてくれないのかな……今夜は双葉と2人きりだから、かなり気まずいな。どうしよ……。


 ポーカーフェイスを崩さずに内心オロオロしていたら、不意に、双葉は俺の手を無造作に掴んできた。


「……夜、寒い」


 俺と眼を合わせようともせずに、双葉はぶっきらぼうに言った。話の変え方雑だなぁとは思ったが、変わるならそれにこしたことはない。甘んじてこの波に乗ろう。


 冬はとうに過ぎたものの、この季節の夜はまだまだ寒い。俺の手を通して、柔らかくて暖かい双葉の手の感触が伝わってくる。


「そうだな」


 半端に掴んだ手をしっかり握りしめると、双葉は顔をかぁっと紅潮させてうつむいた。おい何だその反応。俺も緊張して手汗分泌しちゃうからやめろ。


「……悪かった。言い方」


「双葉も……ちょっと妬いた」


「ああ……え、妬いた⁉︎」


「えっ……う、嘘、嘘だよ。バカ」


「んなっ⁉︎ お前……せっかく『妹萌え』しかけたってのに嘘かよ……」


「なにそれきっしょ。てか、お兄ちゃんの手ぬるぬるしててキモいんだけど。なに、爬虫類?」


「舌の根も乾かぬうちに言いたい放題だな……俺はレプティリアンじゃねぇよ」


「は……?」


 双葉から、本気のトーンで聞き返された。どうやら彼女、レプティリアンを知らないらしい。兄として正しい知識を教えてあげましょう。


「レプティリアンはな、高度な知能を持ったヒト型爬虫類のことで――」


「はっ、うさんくさ。お兄ちゃんホント好きだよねーそういうの」


「――鱗に覆われた全身に、眼が大きくて口が裂けたトカゲに近い容貌のやつから、人間と見分けが付かないやつまでいるとされていて、人間の脳や血液を啜り主食とする。一定数人間社会に紛れ込んでいて、裏で世界を支配しているらしい――」


「はいはい。ツチノコみたいなもんでしょ。双葉はべ、別にそんなの信じてないから――」


 ふと俺は足を止めた。手を繋いでいる俺が急に止まったから、双葉はガクンと後ろにつんのめる。なにやってんだこいつ、と俺の顔を怪訝そうに見上げる双葉に、俺はニタリと笑いかける。




「――案外、近くにいたりして」




 街灯が照らすだけの暗い路地。夜の街は不気味なまでに静まり返り、生暖かい風が音もなく首筋を撫でる。


「――――きゃああああああああああ!」


 ほんのお返しの俺のからかいに、双葉は絶叫して俺の手を振りほどき、そこから流れるような腹パンを決めて全速力で10メートルほど逃げ去った。バスケ部で鍛えられた瞬発力をフルに使って逃げていてちょっと可愛い。


「……バカお前叫びすぎだって。色々誤解されて通報されたらどうするんだよ」


 痛む腹を押さえながら、俺は双葉に歩み寄った。双葉は怒りに満ちた双眸で俺を睨みつける。


「知らない。ざまぁーみろだ、バカ」


 双葉は悪態をつき、目元を服の袖で拭った。


「悪かったって。泣くなよ」


「なっ、泣いてないし。あと、次変なこと言ったらぶっころすからね」


「おー怖い」


 そんなこんなで、気づけば家に着いていた。結果的に双葉を怒らせてしまった。買っておいたポテチで機嫌が直るといいけど。


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