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第16話「私服」

 

 日曜日。逆から読んでも日曜日。


 普段の俺なら家でまったりスーパーヒーロータイムでも見ている時間だが、今日の俺は飴宮さんとショッピングをすることになっているのだ。


「……」


 人の波に押されるように駅の改札を出た俺は、シャツの袖をまくって腕時計を見た。問題ない。予定通り、待ち合わせの時間より30分早く着いた。俺のような遅刻癖のある人間は、絶対に遅れられない用事がある場合は必要以上に早く行動するきらいがあるのだ。別に浮かれて時間を間違えたわけではない。


 指定された場所は駅から徒歩数分の大型ショッピングモール。なじみのない店だが、休日だからそれなりに混雑しているだろうと予想はつく。ついでに、デートしているクソリア充どもが一定数いるだろうなとも予想がつく……やばい、急に帰りたくなってきた……。


 到着早々帰りたくなってしまったがそうも言っていられない。とりあえずそこらへんのベンチに腰を下ろした。大きな街路樹をぐるっと囲む円形のベンチで、改札を出た人間をチェックできるちょうどいい位置。ふっとひと息つき、街の空気を吸いこむ。木漏れ日が暖かく風は爽やか。五月なかばの、一年で一番心地良い時期。


 このあたりはいわゆる都会だ。やたら高層ビルが建ち並び、頭の悪そうな大学生の群れやスーツ姿の中年男、家族連れからじーさんばーさんまで、多種多様な人間達が道を行き交う。


 ボーッと人間観察をしながら時間を潰していると、突然後ろから肩を叩かれた。


 職務質問でもされるのかなと思いながら振り返ったら、いたのはお巡りさんではなく飴宮さんだった。どうやら彼女もこのベンチで待っていたようだ。


「考えることは、同じですね」


 そう言い微笑む飴宮さんは、白いシャツに淡い色のカーディガンを羽織り、ベージュのチノパンにスニーカーの私服姿。長い前髪に留まるヘアピン。後ろはいつもの一つ結びだ。ファッションに疎い俺が一言で例えるなら、「図書室の先生」コーデ。……なにはともあれ、清楚な感じが飴宮さんに合っている。


「……なんだ、着いてたのか」


 ワンテンポ遅れて返事をする。反応が一瞬遅れたのは、私服飴宮さんが想像以上に可愛いかったせいだ。


「はい……いや、孤羽くん、私服真っ黒ですね……」


 俺の格好を見て飴宮さんは苦笑していた。そう言われて自分の格好を思い出せば、黒無地のシャツに黒いズボン、黒い靴に黒リュック。黒ずくめの男である。


「これはアレだよ。モノトーンコーデってやつ」


「へぇ。詳しいんですね、ファッション」


「いや冗談」


「知ってます。さぁ、行きましょう」


 無駄話は終わりだと言わんばかりに、飴宮さんはすっと立ち上がった。それに合わせて、俺も腰を上げる。目的地に向かって歩き出した。


「テンション高いな」


 歩きながら話しかけると、飴宮さんはピクンと硬直した。まずいこと言っちゃったかしらと思っていると、飴宮さんは壊れたブリキ人形のようにぎこちなく俺の方に顔を向けた。


「えっ、そそそそそう、ですか? ……は、はしゃいでいる私は、嫌ですか?」


「いや。ただ、俺といていつまでそのテンションを保てるかなぁと。もう後戻りはできんぞ、テンションの上げ方を忘れちまったからな……」


「どこの邪眼師ですか……伊達にあの世は見てないので、大丈夫ですよ。ほら、もっと速く歩きましょうよ!」


 遊園地に来た子供のように、飴宮さんは俺の袖をくいと掴んだ。普段ならこんなことまずしないから、思わず飴宮さんの顔を覗いてしまう。すると、飴宮さんは我に返ったように手を放し、えへへと照れ笑いした。この非日常的なシチュエーションが飴宮さんを普段よりハイテンションにしてるんだろう。


「やれやれ、年甲斐もなくはしゃいじゃって」


 ――歩き続けること数分。外の景色を見ることで脳が活性化でもしたのか、ある疑問がふと頭に浮かんだ。


「今気づいたけど、飴宮さんって何分前から待ってたんだ? 俺は遅刻癖のある人間だから余裕を持ってあの時間なんだが……」


「孤羽くんが来るちょっと前くらい、ですよ……10……いや、20分前くらい、ですかね」


「いや早すぎる……」


「い、いいじゃないですか。楽しみだったんですから」


 飴宮さんは、照れ隠しのつもりかプイとそっぽを向いた。俺との外出が楽しみとか、誰かにそんなふうに言われたことは初めてなので、なんだか変な気分になる。


「変に期待するのはやめてくれよ……俺はそんなに面白くないぞ」


「そんなことないですよ……あ、そろそろです」


 飴宮さんは嬉しそうに報告した。俺は息を吐き、何事もなく終わるように、ついでに頼むから知ってる奴にはマジで会いませんように、と密かに祈った。


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