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第八話 社交界デビュー

 女性向け恋愛シミュレーション『ドキッ! 君の瞳に乾杯しつつ、ツマミにスルメとかは止めてよね!』の世界と、俺がハマっていたRPGゲーム、『シャドウクエスト』が混じったような世界で、アーノルド・エルキュール・ラ・ホッフェンハイムに憑依してから五年。


 元の世界には戻れないままだが、俺は無事に八歳の誕生日を迎えた。

 貴族には必要な勉学、礼儀作法、剣術、乗馬などの鍛錬を行い、空いた時間に外に出てプリン退治と隠れ能力値のタネ採集に勤しむ。


 五年間真面目に努力をした結果、ステータスはかなり上昇していた。


アーノルド・エルキュール・ラ・ホッフェンハイム(8)

レベル1


力  18

体力 55

速度 13

器用 14

知力 29

運  100


経験値(貯)48699


特技:鑑定、純化、初級剣技


 やはり、『鑑定』で隠れ能力値のタネが見つけられるのが大きい。

 必ず運を上げ続けていたので、ついに運の基礎値がカンストした。

 この世界の人たちの、運の平均基礎値は10くらい。

 20を超えてるとかなりの幸運の持ち主という扱いだから、俺は超幸運の持ち主というわけだ。

 この世界では、個人の運の総量はこの数値に比例する。

 だから、今の俺に不運な出来事というのは少なかった。


 他のステータス値も、成人で平均10くらいだ。

 あとはレベルアップで補正が入るけど、修正値は本人ですらわからないので実際の強さには多少の誤差がある。

 

 運が上がると能力値のタネが見つけやすい。

 とは言っても、誰が見てもわかる認識できるタネは普通の人間なら一生に一度も拝めない代物だ。

 俺でも、二回しか見つけることができなかった。

 運の数値がマックスの俺でもそうなのだから、よほど見つけにくいレアアイテムなのだ。

 隠れ能力値のタネの方は他の能力値に数値上昇を割り振れるほど見つかっているが、これは『鑑定』のおかげであろう。

 隠れ能力値のタネは、厄介なことに本人がそうだと認識し、どの能力値を上げるかを意識しないと効果が出ない。

 種子や小麦に混じっていたのを知らないで食べてしまった人は多いと思う。 


 体力は、体力上昇青汁と成長による能力値の増加もある。

 他の能力値も、見つけた隠れ能力値のタネと、成長による数字の変化があった。


 色々と調べたけど、基礎能力値は15を超えると優秀な扱いで、20を超えると一流の扱いになる。

 その基準でいうと、今の俺は八歳児にしては驚異的な優秀さだと思う。


「アーノルドお坊ちゃま、今日はお気に入りのものが見つかりましたか?」


 三歳の頃から参加している週に一度町で行われる市で、俺は商品の骨董品を次々と鑑定していく。

 売価と価値にギャップがある品を購入して利ザヤを稼ぐ。

 毎回必ず掘り出し物が見つかるというわけでもなかったが、毎回顔を出すので店主たちとは顔馴染みになっていた。


「今回はこれだね」


生活用具:古いラセリア地方で生産された手鏡

製作者:ボット

価値:3000000シグ


 なかなかにいい掘り出し物を見つけた。

 古い、その生産地ではすでに製造されていない手鏡か。

 無駄な装飾がないため、普通の古い手鏡と混同されているのであろう。


「30000シグですね」


「25000シグなら買うよ」


「アーノルドお坊ちゃまには勝てませんなぁ。それでいいですよ」


 またも掘り出し物をゲットできた。

 本当に『鑑定』様々だな。


 今の俺の部屋は、こうやって入手した美術品や骨董品で溢れかえっている。

 手持ちの資金が増えているのは、父から貰ったお小遣いとこうやって購入した骨董品の一部を転売して増やしたからであった。


「ただ今戻りました」


「おかえり、アーノルド。お前は本当に市が好きだね」


 そりゃあ大好きさ。

 隠れ能力値のタネが見つかることもあるし、たまに珍しいお菓子や料理を売る屋台も出るし、なにより金稼ぎの手段なのだから。


「話は変わるが、実は来週、デラージュ公爵家のご令嬢が誕生パーティーを開くのだ」


 デラージュ公爵は、現在のホルト王国国王の弟にして王国宰相の地位にあり、王位継承権が四位という絵に描いたような大物貴族だ。

 祖先が庶子の王子であったうちとは大違いである。

 国王の同腹の弟が生まれ、男子がいなかったデラージュ公爵家に婿入りしている。

 ちなみにどうして俺がデラージュ公爵家のことを知っているのかといえば、レミーの教育の賜物である。


「デラージュ公爵家の三女であるローザ様が、この度八歳のお誕生日を迎えられた。お披露目も兼ねてパーティーを大々的に行うそうだ」


 なるほど、公爵家ともなれば三女でも大々的にお披露目をするのだな。

 ああそうか、将来はどこかの貴族家に嫁に出すから当然か。

 

「(それにしても、ローザ様ねえ……)」


 五年ぶりに思い出した。

 このローザってお嬢様は、裕子姉ちゃんがやっていたゲームで主人公を苛める悪役の名じゃなかったか?

 没落貴族の娘である主人公を、取り巻きたちと共に、貧乏人とバカにしたり苛める役どころだ。

 最後は自分も狙っていた攻略キャラを主人公に奪われて悔しがり、数年後に父親が汚職で実兄である国王の怒りに触れて改易され、自分が平民に落ちるという悲惨な結末を迎えるそうだが。


 俺は実際にプレイしたことがないので、これは裕子姉ちゃんの話から得た情報だ。

 いかにこのローザという女が酷いか、事ある毎に教えてくれたからよく覚えていたのだ。


「(あんまり関わりたくねぇ……)」


 いくら俺がそう思っても、父がローザ嬢の誕生パーティーの話をした以上、ホッフェンハイム子爵家の跡取りである俺は出席しないといけないのか。


「これは、お前のお披露目もあるからな」


 俺ももう八歳なので、他の貴族の子弟たちと交友関係を結ばないといけないわけだ。

 所謂、社交界デビューというやつか。

 今まで、同年代の子供たちとほとんど接していなかったから忘れてた。

 レミーから、その辺の礼儀作法やマナーは教わっていたけど。


「勿論私からもローザ様にプレゼントを贈るが、アーノルドもなにか準備しておいてくれ」


「僕が個人的にですか?」


「ローザ様のお父君は、陛下の実弟にして宰相でもある公爵閣下だからな。この国の貴族としては、それなりに気を使わねばならぬのだよ。プレゼントについてはレミーに聞いてくれ。適切なアドバイスが貰えるはずだ」


「わかりました」


 どうせ自分で考えてもろくなアイデアが出ないだろうし、面倒なのでさっさとプレゼントを選んでしまおうと、俺はレミーの下に急いだ。


「ローザ様へのプレゼントですか。それも、アーノルドお坊ちゃまが私的にですね」


 表向きの事情はそんな感じだ。

 現実は、ただ力のある公爵様のご令嬢に媚びているだけとも言えた。

 子爵もかなり偉いとは思うのだが、王弟にして宰相にして公爵様には勝てないというわけだ。


「相場とか、どんな物がいいかとかわからないんだ」


 前世でも彼女なんていた試しがなかったし、女性に物を贈るなんて母の日くらいだった。

 貴族の八歳のご令嬢に贈る品の基準がわからない。

 あと、裕子姉ちゃんにもか……。

 誕生日プレゼントとか、毎年あげていたからなぁ……。

 ただ、裕子姉ちゃんが好むような品(ちょっと特殊なファン層が好む薄い本とか、ゲーム)はこの世界に売られていないし、間違っても貴族の御令嬢にプレゼントするような品ではないので参考にはならなかった。

 なにより売っていないだろうし。


「そうですねぇ……メインのプレゼントは旦那様が準備いたします。相場は十万シグ前後でしょうか」


 公爵とはいえ、三女の誕生日プレゼントに十万円。

 貴族ってのは、交際費が半端じゃないな……。


「今回は、社交界デビューを兼ねてですからね。普段は内輪で誕生日を祝って終わりですよ」


 今回は特別というわけか。


「ちなみに、僕の相場は?」


「二万シグ前後ですね」


 二万か……。

 小遣いだけだと厳しかったな。

 『鑑定』を使って金を稼いでおいてよかった。


「それ以上でも、それ以下でもいけません。ローザ様の社交界デビューを兼ねてのパーティーなので、王族や爵位の高い貴族家の方々も多数ご出席なさるでしょう。彼らは高価なプレゼントを準備するでしょうが……」


「彼らよりも高価な品を、子爵の跡取り程度が持参したらまずいよね」


「そういうことです」


 序列を理解できない、空気を読めない奴という評価になってしまうわけだ。

 俺は安く済むのはいいけど、逆に高額のプレゼントを用意する高貴な方々は大変だなと思う。


「最低でも男爵家の跡取りでないと呼ばれないため、アーノルドお坊ちゃまはそれよりは高価な品を準備しないといけません」


 この辺の細かなルールは正式に決まっているわけではないが、長年の慣習で大体決まっているそうだ。

 それらの情報を貴族の子弟にレクチャーするのも、上級メイドの役割であった。

 上級メイドとは、こんなことにも配慮しなければいけないのか。


「二万シグかぁ……」


 俺の部屋にところ狭しと飾られている骨董品や美術品の中で、使えそうな物はないかと探してみる。

 だが、『鑑定』で見つけた掘り出し物なのであまり安い品はない。

 価格と利ザヤの低い商品はすでに転売して金に換えてしまっているので、手頃な品はなかった。


「アーノルドお坊ちゃま、古い品は若いお嬢様に贈るのに不向きな品が多いです」


「流行もあるか」


「はい。若い方には新しい品の方がよろしいかと思います」


「そうだよねぇ」


 トラッシュの町の店では、王都育ちのお嬢様が納得するレベルの品を探すのは難しい。

 前日に、王都のお店で購入するしかないな。


「アーノルドお坊ちゃまがそう仰ると思い、旦那様に許可を取っておきました。旦那様はお忙しいので、当日デラージュ公爵邸に向かうそうです」


 ここからでも王都の城壁が見えるので、馬を飛ばせば数時間で到着できるそうだ。


「初めての王都か。楽しみだな」


 この世界に飛ばされて五年、町といえばトラッシュの町だけだったので、王都観光がとても楽しみだ。

 公爵令嬢のお誕生日は、ご褒美のための試練だと思うことにしよう。

 どうせ向こうは、いち子爵の跡取りに時間をかけて対応なんてしないさ。

 社交辞令的に、一回だけ挨拶して終わりであろう。 


「それでは、早速準備を始めますので」


 俺付きのレミーも同行するので、その準備をするために俺の部屋を出た。

 それにしても王都か。

 早く行ってみたいものである。

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