第八十三話 レベル上げ
「そっ! そんなっす! こんなバカな話がっす!」
「妾の体が消えていく……ぎゃぁーーー!」
「強力無比な聖魔法に、治癒魔法、回復アイテムのコンボ攻撃で、ララーゾンビ子爵夫人が消滅してしまうとは!」
「まさかこんなところで、この俺が! おのれぇーーー!」
「サイボーン伯爵!」
一体なんなんすか?
こいつらは。
俺様たち魔王軍のテリトリーに侵入し、多くのモンスターたちを狩っている冒険者パーティの発見に成功して、そいつらに攻撃を開始したというのに……
どうして俺様たちほどの強者が……理不尽っすよ!
俺様たちはこれまで四天王にはなれなかったっすけど、それに準ずる存在として人間抹殺に活躍してきたというのにっす。
それが、ガキばかりのパーティにここまで一方的にやられてしまうなんて……。
黒鳶男爵、ララーゾンビ子爵夫人、サイボーン伯爵と次々と討たれてしまい、残りは俺様だけになってしまったっす!
だけど、俺様は諦めないっす!
逆に言えば、もう俺様しか味方がいないのだから、功績はすべて俺様のものっす。
「俺様は、他の三人と違うっすよ!」
「「「「「「「『ウィークン』」」」」」」」
「体から力がぁ……」
「いくぞ! 猿の親玉!」
「がはっ! その剣は……オリハルコン製の剣……」
一体なんなんすか?
こいつらは……。
このままでは、オイラは……。
ビックスによる一撃を食らって、魔猿ウィッキー子爵とやらは大ダメージを受けていた。
さすがは、オリハルコン製の剣である。
勿論ビックスの剣術も優れており、だから相手が幹部クラスでも一撃で大ダメージを与えられるのだから。
「オードリー殿!」
「はい! 『火炎柱』!」
「なんだ! その魔法の威力は! 暗黒魔導師様よりも……あっーーー!」
さすがの威力だな。
オードリーが覚えたばかりの上級火魔法で、魔猿ウィッキー子爵を容赦なく焼き払っていく。
すでに虫の息である彼に、それを防ぐ手立ては存在しなかった。
「もう駄目っす……俺様がこうも一方的に……。暗黒魔導師様にほうこ……俺様はもう駄目っ……す……」
「『魔猿の毛皮』ゲットだぜ!」
火魔法で燃えてしまったのでは?
現代日本人ならそう思う人も多いはずだが、ここはゲームっぽい要素もある世界。
モンスターを倒すと消滅してしまい、そのあとに素材やアイテムをドロップするので、モンスターの倒し方に気を配る必要はなかった。
ただ全力で倒せばいいのだ。
「猿だから、猿の毛皮なのね。貴重な素材なのかしら?」
魔猿の毛皮を拾った裕子姉ちゃんが、その品質を確かめていた。
まさか幹部クラスに奇襲を受けるとは思わなかったが、四天王でなければ今の俺たちならそう問題ない。
返り討ちにしつつ、すぐに移動して暗黒魔導師の目を眩ませることの方が重要だ。
オードリーのレベル上げもあるので、今はあえて自ら幹部クラスのモンスターと戦うことはない。
「すみません、ボクのレベルが低くて……」
「いや、逆に大歓迎だ」
「そうなんですか? ボク、レベル10しかなかったし……」
「むしろその方が強くなるから」
ステータスの基礎値を基準に、修正ステータスの上昇値が決まるのだ。
先に基礎値を上げ、そのあとレベルアップさせた方がいいに決まっている。
正直なところ、レベル100とかでなくてよかったくらいだ。
それに、雑魚モンスター狩りで経験値をどんどん貯めているので、オードリーのレベルは順調に上がっていた。
「アーノルド様、この『サイの角』はどうしますか?」
「それ、一応魔法薬の材料なんだよ」
「きっと、もの凄い魔法薬が作れるんですね。いかにもボスで強そうなモンスターだったので」
「『精力剤』の材料だけど……」
「はあ……」
俺の答えを聞いたビックスが、微妙な表情を浮かべていた。
どうして、十八禁でもないRPGの世界で精力剤が作れるんだろう?
それはきっと、シャドウクエストだからであろう。
言うまでもないが、この精力剤でHPが回復することもなく、ただの換金アイテムであった。
現実世界だと、貴族や金持ちのおっさんに売るとありがたがられるのかな?
今は必要ないので、収納カバンに仕舞うしかなかった。
他のモンスターたちのドロップアイテムも似たようなものだ。
四天王ならともかく、他のボスモンスターがゲーム攻略に必要だったり、あると役に立つアイテムをドロップしない。
でも、ゲームクリアーのために倒さないといけない。
そういう面倒臭さが、シャドウクエストというゲームの性質であった。
「『鳶の羽』はどうなのですか? アーノルド様」
「帽子の飾りに使える。魔導師の帽子のね」
「私は装備できませんね。私はメイドなので」
その魔導師の帽子だが、中盤では役に立つ程度の防御力しかなかった。
すでに霊糸を材料にした帽子があるし、リルルはレースのカチューシャを装備しているので、これも換金アイテムでしかないな。
ゲーム知識を利用して先に強い武具を手に入れているので、余計に使わないアイテムが増えていたのだ。
現実世界ではいくらお金があっても困ることはないので、これも収納カバンに仕舞っておこう。
「最後の『腐った貴婦人』みたいなのは、これを落としたわ」
裕子姉ちゃんが俺に差し出したのは、『ゾンビの骨』であった。
ただの骨のようにも見える……しか見えないとも言うか……一見なんの役にも立たなそうなドロップアイテムだけど、実はとても役に立つ。
が、今は使わないので、これも収納カバンに仕舞っておこう。
「一刻も早くここから離れるんだ」
現在、レベル上げのために魔王軍の勢力圏を縦断している状態だ。
一箇所に留まり過ぎれば、今度は俺たちがモンスターから袋叩きにされてしまう。
ヒットアンドウェイを繰り返し、一匹でも多くのモンスターを倒していく。
これこそが、最良の方法なのだから。
「もう少ししたら、作戦方針は変わるけど」
「新しい作戦をやるの?」
「基本的には変わらないけど、今はこのままオードリーのレベルを150以上にする」
そうすれば、新しい作戦で主力となれるはずだ。
今はモンスターを経験値にする作業に集中しようと思う。
RPGのレベル上げとは、とにかく根気がいる作業なのだから。




