第六十七話 セーラ来襲?
「お義兄様は凄いです! 私と同じ年なのに、こんなに大きな錬金工房を経営しているのですから」
「もっと大きな錬金工房は沢山あるよ。さあ、案内しよう」
俺たちはマカー大陸へ出かける準備をしつつも、今日は義理の妹セーラが遊びに来ていた。
彼女にマカー大陸行きを教えるわけにいかないので、今日は作業を中断し、普通に錬金物を作っている。
もっとも作っているのは、マカー大陸で使うであろう傷薬、毒消し草、魔力回復ポーションばかりだけど。
うちの錬金工房では主力商品なので、セーラも怪しまなかったようだ。
消耗品でもあるので、いくら作っても余ることはないからだ。
作業をシリルたちに任せ、俺とその婚約者であるローザがセーラを案内する。
三人とも十歳なのに、この緊迫した人間関係。
なにも知らないシリルたちは、集中して傷薬を作り続けている。
マカー大陸でこれらの品が不足しないように。
「……」
「(どうかしたの? 裕子姉ちゃん。セーラはいい子だと思うよ)」
例のゲームを何周もプレイした裕子姉ちゃんだからであろうが、どのエンディングでもローザが没落してしまう事実に対し、警戒感を強めているのであろう。
俺からすると、たとえゲームの世界と状況が似ているとしても、行動次第で結果が変わると思うので、裕子姉ちゃんは今のうちにセーラと仲良くすればいいと思っている。
別にセーラが、顔を合わすのも嫌な女ってわけでもないのだから。
「アーノルド様、昼食にしましょう」
色々と工房の中をセーラに案内していると、レミーが昼食の準備が終わったと言ってきた。
シリルたちも作業を中止し、みんなで昼食をとる。
「レミーの料理は美味しいな」
「お褒めいただき光栄です」
忙しい時は錬金で料理を作ってしまうこともあるけど、今日はセーラもいるのでレミーが調理してくれた。
ビックスとリルルも、同じテーブルで昼食をとり始める。
「お義兄様は、みんなでお食事をとるんですね」
普通の貴族は、家臣、使用人と一緒に食事をとることはない。
多分、セーラの家でもそうだったはずだ。
だがここは錬金工房である。
作業効率が最優先なので、いちいち俺とローザだけ別に食事をとる手間が惜しかっただけだ。
ローザは裕子姉ちゃんなので、貴族の教えに忠実に従わなければという義務感も薄かった。
中身が現代人なので、実家の目がなければそういうことに拘らなかったのだ。
「セーラは気になるのかな?」
「いいえ、とてもいいことだと思います」
「いいこと?」
「はい。私は亡くなったお父様と二人暮らしだったので……。しかも、お父様はいつもお仕事で他国に行っていて、私はほとんど一人で食事をとっていました」
セーラの実の父親であるラーベ子爵は、たまに休暇で屋敷に戻る時以外は、マカー大陸で暮らしていた。
一人の時が多かった彼女は、父親がいなければずっと一人で食事をとっていたのか。
「今は、お義父様とお義母様がいるので寂しくないですけど、こうして大勢の人と食事をとるのは楽しいですね」
「それはよろしゅうございましたな」
ビックスを始め、みんなはセーラの飾らない人柄に好感を持ったようだ。
俺もいい子だと思うんだけどなぁ……。
「ローザ様も親しみやすそうで、お義兄様とお似合いだと思います」
父と母から聞いたのであろう。
俺とローザが婚約者同士なのを知っていた。
お似合いだと言ってくれているので、セーラは順調に他の男子ルートに進むはずだ。
俺はない。
元々俺はゲームでは好感度報告キャラなので、セーラは攻略できないと見ていいだろう。
「セーラはそう思うのね」
「はい。お二人はとてもお似合いですよ。私もお義姉さんができて嬉しいです」
「それはよかったわ」
セーラの発言に嘘はないだろう。
この年齢でそこまで偽れたら、彼女は本当の悪党というわけで、これまたゲームが違ってしまう。
やはりセーラの相手はゲームと同じく、王子様、大貴族、大商人の息子というわけだ。
是非、それらのイケメンたちと仲良くなってくれ。
「そう、お似合いなのね」
裕子姉ちゃん、さっきまでセーラに警戒心ビンビンだったくせに……。
まあいいけど……。
とにかくセーラはいい子だと判明したので、あとはマカー大陸へ出かける準備をしなければな。
俺と裕子姉ちゃんはいいけど、他のみんなには厳しい試練が残っているのだから。