第六十一話 プラチナナイト後日談
「アーノルド、今日から実家に戻るんだって?」
「そうなんだ。父上が火急の用事があるって。前期末の試験も終わったし、もうすぐ夏休みだから問題ないと思う。錬金工房は……夏休み中は営業時間も延ばせるから、何日かの臨時休業は勘弁してくれってことで」
「アーノルドのお父様、なんの用事なのかしら? 私は呼ばれていないから行くわけにいかないしね。たまには実家に戻ろうかしら?」
「それがいいと思うよ」
プラチナナイトとの死闘から、一ヵ月ほどの時間が経った。
七の月は前期末で、すでに試験も終わった。
筆記も知力が高いのでトップクラスであり、実技はすでに錬金工房をやっているので商品を提出していい評価を貰った。
俺は一年生の首席だそうだ。
ローザこと裕子姉ちゃんは次席。
元々知力の基礎値が100で、プラチナナイトとの戦いの時にレベルを五十以上も上げたから、学校の筆記試験は余裕だったそうだ。
元々裕子姉ちゃんって、学業が優秀でいい大学の推薦も貰っていたからなぁ……。
筆記は俺よりもいいみたい。
というか、首席だそうだ。
そして、シリルが三席、アンナさんが四席、エステルさんが五席となっている。
一年生のトップ5が全員同じ錬金工房に所属しているとは……。
バラけさせろとか言われないのかな?
シルビア先生はなにも言っていないけど。
「この前の事件のことじゃないの?」
「もう終わったことじゃん」
「報酬の話じゃない?」
報酬ねぇ……。
別に俺は、プラチナナイトを倒していないからなぁ……。
足止めはしたので、プラチナナイトはプラチナの塊みたいなものなので、これと魔石の売却益があの場にいたみんなで頭割りになっただけだ。
レミーとリルルは、何もしていないからと固辞しようとしたけど、二人が冒険者たちを呼ばなければ俺たちは殺されていたかもしれない。
役割は関係ないと言って、報酬を渡していた。
シャドウクエストにおいてプラチナは高価な金属だから、その塊であるプラチナナイトは高額となった。
他のモンスターと違ってアイテムがドロップするわけではなく、動かなくなった傷だらけのプラチナ製全身鎧が残り、超のつく高品質の魔石のみがドロップした。
プラチナ製の全身鎧は傷だらけだけど、鋳溶かせばいくらでも再利用できる。
そのまま修理すると、サイズの関係で着れる人が限られてしまうけど。
そこがゲームとの差かな?
「アーノルド様に、あのプラチナ鎧を修理してほしいとか、そんな依頼でしょうか?」
「違うと思うな」
俺は、リルルの考えに否定的な見解を示した。
それなら父経由ではなく、俺に直接頼めばいい話だからだ。
それにプラチナって、実はあまり武具の材料としては役に立たないのだ。
「駄目なの?」
「高価ではあるよ」
実際、プラチナ製のアクセサリーは王都でもよく売られているが、冒険者用の装備としてはほとんど存在しなかった。
「どうして?」
「金と同じで、高額で資産価値があるけど、武具の素材としては中途半端だから」
オリハルコン、ミスリルに及ぶわけがなく、とにかく費用対効果が極端に悪い金属なのだ。
ただの貴金属とも言える。
「さらに重たい。とても重たい。金と同じで、装備品の材料に向かない」
重たいと行動に制限が出るからなぁ……。
プラチナナイトは例外だけど。
「でも、プラチナナイトは四天王の次席じゃない」
「それは、プラチナナイトがプラチナだから強かったってわけじゃないからだと思う。金属鎧という無機物から生命が生まれたからこそ、奴は強かったわけで……」
そこをみんな勘違いしているのだけど、もし鋼の鎧にプラチナナイトが生を宿したとしても、同じくらい強かったはずだ。
プラチナはあまり関係ないのだ。
せいぜい、命名理由になったくらい?
「プラチナの塊だから、資産価値はあるのさ」
人数割りでも、報酬はかなり美味しかったからなぁ……。
魔石も高品質で高かったし。
「金持ちがアクセサリーにするなら、重たくないし、資産価値もあるし、悪くないと思うよ」
実際、あのプラチナの鎧はすぐに金持ち相手の商人に売れてしまったと聞いた。
アクセサリーに加工すれば、十分採算が取れると思ったのであろう。
「じゃあ、その件は関係ないわね」
「もしかして、旦那様はホッフェンハイム子爵家の家督をアーノルド様に?」
「ビックス、それもないよ」
もし将来早期に家督の継承があったとしても、最低でも学園を卒業したあとだと思う。
それに、今の俺が父の仕事を引き継ぐわけにいかないのだ。
『そんな暇があったら錬金しろ!』と言われるのが、今の俺なのだから。
多分父は、大分年を取らないとお役御免とはいかないだろうな。
「そんなわけで行ってくるよ」
「俺は当然同行します」
「私もです」
「では、私はこの家と錬金工房の掃除でもしましょうか」
「私は帰省するわ」
俺は、ビックスとリルルを護衛として引き連れ、王都郊外にあるホッフェンハイム子爵家の屋敷へと向かうのであった。