第五十三話 仕事がデキる奴はモテるらしい
「ここでは、『置換』も行っているのですか?」
「錬金されたチタンとアルミを鍛冶屋に渡して一から武具を作っていたら、まず間に合わないのでね。王城にある予備の武具をすべてチタンとアルミに『置換』して、それを船で送り出す。サイズ合わせなどは現地でやってもらう計画だ」
「そこまで情勢がひっ迫しているのですか?」
「困ったことにね」
「わかりました」
俺は仕事をやりにきたのだ。
報酬が出来高払いな以上、すぐに錬金に取り掛かった方がいいだろう。
「では、早速始めます」
クズ鉱石他すべての材料を調合し、次々と錬金していく。
もう何度もやっている錬金なので失敗はなかった。
品質も、AとSが半々ってところかな。
「次に……」
錬金したチタンとアルミを用いて、武具を次々と『置換』していく。
これも失敗なしで、次々と武具がチタンとアルミ製になっていった。
「こらぁ! 見とれている場合か! 前線では一個でも多くの武具を必要としているんだぞ!」
多くの錬金術師たちが、俺の作業を見ていて手が止まっていたようで、錬金学校を訪れていた老錬金術師の一人が大声で注意していた。
「うわっ!」
「しまった!」
錬金で集中力を欠けば、このように煙が出て失敗し、材料がゴミとなってしまう。
注意されて驚いた錬金術師たちの多くが、材料をゴミにしてしまった。
「時間と魔力を無駄にしおって!」
アルミとチタンは原料がクズ鉱石なので、材料を無駄にしたと怒られなかったが、時間と魔力をロスしたのは確かである。
この一秒を争う状況において、集中力を欠いたのだ。
若い錬金術師たちは叱られて当然であった。
本来彼らは、まだ学生である俺よりもちゃんと仕事をしなければいけない立場なのだから。
「とにかく一個でも多く! 一秒でも早くだ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
そのあとは、真面目に錬金を繰り返していて、成功率も悪くなかった。
なんでも、有名な錬金工房の経営者や従業員たちばかりで、俺と同じくこの仕事のために集められたようだ。
「ふう……終わった」
すでに日は暮れていたが、必要な量のチタンとアルミ製の武具が完成していた。
俺は大分沢山仕事をしたので、かなりの額が貰えるはず。
「成果は銀行に振り込んでおく。これが明細書だな」
「おおっ!」
出来高払いの名に恥じず、支払い明細にはかなりの額が記載されていた。
なにか美味しいものでも食べに行こうかな?
「アーノルド君が一番多く仕事をこなし、品質もトップだった。このくらいは相場だよ」
そう錬金術師から説明を受ける横で、多くの兵士たちが輸送準備のため、チタンとアルミ製の武具を運び出していた。
一秒でも早く、錬金が終わった武具をマカー大陸に運び出したいようだ。
「さて、アーノルド君」
「なんでしょうか?」
「うちの家に夕食に来ないかね?」
夕食のお誘いか……。
相手は、レブラント校長とも親しいかなり偉い錬金術師だ。
俺も将来錬金術で生きていく予定な以上、こういうお誘いは断らない方がいいのであろうか?
一人悩んでいると……。
「ボックス、抜け駆けは卑怯だぞ! アーノルド君、是非うちに夕食を食べに来てくれ。うちの娘は可愛いぞ」
「ダッソン! お前こそ抜け駆けを! うちの姪は正妻がローザ様でも問題なく、側室としてアーノルド君を支えてくれるはずだ」
「お前こそ! 私の工房にアルバイトに来ないか?」
「なら、俺の工房に!」
「……」
張り切って仕事をしたら、一緒に仕事をした錬金術師たちから色々と勧誘を受けてしまった。
でも、俺はまだ十歳なのだ。
側室の押しつけはやめてほしいと思う。
そんなこと勝手に決められるわけがないのが、今の俺の立場なのだから。
「その手のお話は、父かデラージュ公爵様にお願いします。それでは失礼します」
元庶民を、そういうことに巻き込まないでくれ。
そのあと、どうにか逃げ出すことに成功する俺であった。