第四十六話 五の月の始まり
「入学からちょうど一か月が経ちました。今のA組はこの二十八名ということになりました。今年は優秀な生徒さんが多くてよかったです。入学人数の少なさがあり、先生はちょっとヒヤヒヤしていたのですが……」
一ヵ月間にも及ぶ最初の課題が終わり、五の月の初日である今日。
教室には、久しぶりにA組の全員が揃っていた……あれ?
「そのままシルビア先生の発言を信じるのは愚かね。もしくはちょっと間抜け? アーノルド君もそう思うでしょう?」
「クラスの三分の一くらい、B組とC組の人たちですよね?」
「さすがはアーノルド君。わかっていたか」
「そのくらいは……」
アンナさんのお眼鏡にかなってよかった。
四の月の初日、A組の生徒数は二十三名だった。
それが今は、二十八名に増えている。
さらに、元からいるAクラスの生徒は、およそ三分の二にまで減っていた。
つまり、A組からB組、C組に脱落した生徒たちもいるというわけだ。
「クラス替えがない理由はこれってわけ」
なるほど、定期的に成績順でクラスの入れ替えがあるのか。
いくら入学試験で成績がよくても、この一か月の課題でいい成績を出せず、B組やC組に脱落していく者たちがいる。
逆に、最初はB組・C組でも、努力次第で上のクラスに上がれる。
新しいA組の三分の一が、B組・C組からの成り上がり組と考えると、この学校は厳しいところもあるが、ちゃんと努力をして結果を出した人を評価するというわけだ。
「各クラスに定員はないからね」
「そういえば、増えていますよね」
「相対評価じゃなく、絶対評価なのよ」
今回の課題でいえば、傷薬(小)の錬金成功率が五割を超えれば、全員がA組に入れるということらしい。
そしてこれからも、定期的にクラスの入れ替え試験・課題があるのだと、アンナさんが教えてくれた。
「一年生は、入学直後の傷薬(小)の課題。あとは、七の月の終わりにある前期期末試験。次に、二の月の終わりにある後期期末試験でクラスの入れ替えがあるわ。二年生以降は、前後期の期末試験の二回だけだけど」
その他にも、なにか著しい成果を上げた者。
新しい錬金レシピを開発したとからしいけど、例外でクラスの移動はあるそうだ。
滅多にない事例であり、もしあっても大半の特例者は元々A組の人間で、クラスの変更はなかったというオチがつくらしいけど。
「アンナさん、詳しいですね」
アンナさんが教えてくれた情報だが、今シルビア先生が同じ内容を説明しているからな。
どうやって知ったのか気になるところだ。
「女性には、色々と秘密があるのよ」
「ローザもですか?」
「女性は全員が例外なくよ」
確かに、裕子姉ちゃんには秘密が多いよな。
俺もだけど。
「(それにしても、アンナさんが積極的に話しかけてくるなんて。もしかしたら来ちゃったのかな?)」
なにが来たのかといえば、それは俺のモテ期だ。
元々俺は、将来恋愛シミュレーションゲームに出てくるイケメンなので、いつかこの時が来ると思っていたのだ。
見た目ばかりで中身がアレだとモテなさそうなので、ちゃんと勉学から、貴族としてのマナー、錬金、鍛錬もちゃんとこなしている。
この世界は遊びも少なく暇なので、余計に頑張った面も否定しないけど。
それでも、見た目も中身もイケメンな俺なので、きっと在学中は綺麗どころに囲まれてリア充ハーレムライフを送れるはず。
「(楽しみだなぁ)」
などと思っている間に、シルビア先生の学校生活に必要な基礎情報の伝達が終わり、次の講義までの休み時間になった。
きっと、俺に多くの女子たちが声をかけてくるはずだ。
そのはずだったんだけど……。
「シリル君、私、頑張って同じクラスに上がってきたから」
「今度一緒に、素材を採りに行こう」
「私も!」
「今度、シリル君の家に遊びに行ってもいいかな?」
「……」
なぜかこのクラスの女子たちは、誰もかれもシリルにばかり声をかけていた。
俺の席が女子に囲まれることもなく、シリルばかり女子にモテモテなんて……。
「(こんな理不尽なこと。許されるわけがない!)」
「(許されるんじゃないかな?)」
唯一、俺の隣の席になった裕子姉ちゃんのみが俺の傍にいた。
いや、俺が求めているのは、他のもっと育った美少女たちなんだ!
「(あんたねぇ……自分の見た目について考えが及ばないの? 今のアーノルドは十歳なのよ)」
「(そうだった!)」
そういえば、今の俺は十歳になったばかりの子供だった。
そうでなくても錬金学校の入学年齢は高く、十五歳のシリルでも相当若い方なのだ。
アンナさんとエステルさんは十八歳で、彼女たちよりも年齢が高い女子生徒も多かった。
「(十歳の弘樹に興味持つような女性たちに囲まれて、本当に嬉しいの?)」
「(いえ……暫くは錬金に没頭します)」
かといって、リルルのような年齢の女の子にも興味を持てず……それでも俺よりも二つ上なのだが……俺は暫く錬金に没頭することを決意するのであった。
一応、裕子姉ちゃんが婚約者だからってのもあるのか。
いや、きっと学生時代中に甘酸っぱい初恋イベントとかあるはずだ!
とにかくそれを見逃さないようにしないと!