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第四十一話 レベリングについて 

「来る日も来る日も、ゴミばかり『還元』させられるな」


「傷薬(小)の錬金なら、新入生に任せる必要もないからでしょう。そんなに難しくないし、評価は上がるからいいじゃない」


「ゴミの『還元』は、さほど魔力を使わないからいいか。あっ、またヒール草だ」


「私は……当たり! 鋼の塊よ!」





 錬金学校に入学してから半月が経った。

 俺たちは、ひたすら錬金を続けていた。


 放課後まで錬金し、二日に一度は夜中にレイス退治を行って経験値と霊糸を稼ぐ。

 レベルを上げれば魔力も上がるので、錬金の回数を増やすのにレベルアップは必要だ。

 レベルアップ時の魔力上昇率は知力の値と比例するので、知力をカンストさせた俺はその恩恵を受けている。


 裕子姉ちゃんはまだ運が100にならないので、経験値を貯めてその時に備えていた。

 レベル1のままなので、どうしても冒険者である姉の手伝いでレベルを上げていたシリルに勝てず、昼すぎに昼寝をしていた。

 魔力は寝れば徐々に回復するので、昼食後の昼寝で少し魔力を回復。

 午後からの自主練習に備えていたわけだ。


「またかよ! ローザはついてやがるな」


「へへん、私は運がいいからね」


 現時点で、裕子姉ちゃんの運の基礎値は93だ。

 平均が10で、20を超えると幸運体質だと言われるから、どれだけ数値が高いかの証拠であった。

 俺は100まで苦労して上げたけど。


「でも、ローザは魔力が低すぎ!」


「うるさいわね! 色々と事情があるのよ!」


 裕子姉ちゃんは、運の基礎値を100にするまでレベルを上げない予定だ。

 負けず嫌いなところがあるので、俺と同じく運の基礎値を100にしたいのであろう。

 従って今もレベル1であり、その分魔力が低かった。

 知力の基礎値が100あるので校内では魔力が多いほうだけど、やっぱりレベルを上げていないのが響いているようだ。

 俺やシリルに比べると、一日に錬金できる回数に制限があるのだ。


「お前、知力は高そうだがな……」


 カンストしているが、やはりレベルが上がらないとこれ以上魔力は増えない。

 ただ、他人にステータスを教える人は少ないので、裕子姉ちゃんはシリルに対しなにも言わなかった。


「いいじゃないの。そのうち、バンバン錬金するわよ」

 

 もう少しで運の基礎値がカンストするから、そうしたら貯まっている経験値で一気にレベルアップするつもりなのであろう。

 などと話をしていたら……。


「当たり! 銀の塊だ!」


「お前ら、異常にツイてるな。貴族の家に生まれた時点で運はいいけどな」


 これは本当であった。

 シャドウクエストで貴族の仲間がいるのだが、こいつは運の基礎値が高い。

 他のステータス値もそうだが、貴族は家を繁栄させるため優秀な貴族の子女と婚姻を繰り返し、ステータスの平均値が高くなるのだ。

 初期で、20を超える基礎ステータス値を持っている人の九割は貴族である。 

 平民で20を超える数値を持つ者は珍しかった。

 優秀な者同士で婚姻を行って優秀なステータスを持つ子供を作り、貴族としての優位を保っているわけだ。

 これも、シャドウクエストの裏設定に存在する。

 

 俺は貴族の生まれなので、成長すれば元々のステータス値は悪くないはずである。

 すでに基礎ステータス値をカンストさせてしまったので、あまり意味のない話ではあったが。


 もう一つ、貴族は金を使って隠れていない能力値のタネを入手するケースが多い。

 これで基礎ステータス値を上げておくと、子供にも数値の高さが遺伝しやすくなるわけだ。


「言うほど貴族も楽じゃないけどね。つき合いとか面倒だし」


「なるほど、隣の芝生は青いってか」


「シリルも優秀な錬金術師になったら、奥さんが貴族の娘になる可能性は高いよ。断りづらいし」


 シリルは優秀だから、その血を家系に入れたい貴族も多いはずだ。

 この世界にはステータスがあるから、余計に政略結婚が多い。

 ステータスが優秀そうだから、この人と結婚しなさいと言う親も凄いと思うけど。


「俺、そういうご令嬢は堅苦しいから嫌だな」


「嫌でも、どうにもならない時には諦めるしかないよ」


「そういえば、お前らも婚約者同士だものな」


「うん」


「そうなのよ」


 俺としてはまだ釈然としないものがあるのだが、別に裕子姉ちゃんが嫌いというわけではない。

 というか、見た目はローザなのか。

 今は金髪小学生といった感じだが、なにもトラブルでもなければ将来は美人になると思う。

 現時点では髪型も変な縦ロールではないし、性格も気さくでローザのように意地悪でもない。


 裕子姉ちゃんは、俺に勉強を教えてくれたし……スパルタだったけど……、母親がいない日は食事を作ってくれたり……健康のためと称して和食と野菜料理が多かったけど……ダイエットだと思う……、ゲームも貸してくれたし……逆ハー系恋愛シミュレーションゲームが多かったけど……。

 とにかく、姉のような立場で俺と接してきたのだ。


 なので、いまいち恋愛感情が湧かなかった。

 もしかすると、俺も見た目はアーノルドというイケメンなので、どこかに運命の人がとか思ってしまうのだ。

 これを人は、ゲーム脳とか物語脳というのかもしれない。


「十歳で婚約者ありとか凄いな」


「シリルも、モテるんじゃないの?」


 購買のデボラさんにロックオンされているからな。

 これは、本人に教えてあげた方がいいのだろうか?


「さあな? まだ入学したばかりで、あと二週間はこの教室で三人きりだ。他のクラスメイトたちと接する機会も少なくてよくわからん」


 そういえば他のクラスメイトたちは、傷薬を五割以上の確率で錬金できるようになったのであろうか?

 この学校は個人成績が詳細に記録され、それを元にカリキュラムも決まる。

 素材が学校持ちなのだから、失敗が多い生徒はなかなか高度な錬金へと進めない。

 レシピを見てその通りに作っても、普通の人はほぼ失敗し、錬金の才能があっても成績に差が出る。

 錬金の特技があったり、俺のように裏技を使うとほぼ100パーセント成功なんて化け物も出るわけだけど、そんな人は滅多にいないのだから。


 錬金で成功が多ければ、学校はその錬金物の売却で利益が出る。

 それで生徒に錬金させる素材を購入しているので、成績がいい生徒が優遇されて当然だ。

 高度な錬金にも次々挑戦させてもらえるし、逆に成績が悪い生徒は傷薬(小)から先に進まないわけだ。


「俺、レベルを上げたいんだよな」


 錬金の成功率を上げる方法の一つに、レベルを上げるというものがあった。

 レベルが上がれば基礎値と成長率を元にステータスに補正が入るので、錬金の精度が上がったり、今まで錬金できなかったものが錬金できるようになる。

 シリルは、高度な錬金に挑戦するためステータスを上げておきたいのであろう。


「アーノルドは、レベルいくつだ?」


「56だね」


「お前、なんでそんなにレベルが高いんだよ?」


「夜に経験値稼ぎをやっているから」


 ステータスの基礎値や特技を他人に聞くと失礼にあたるが、なぜかレベルは気軽に公表する者が多かった。

 レベルが高いイコール、実力があるという風に見られるからだ。

 貴族家の跡取りは、必ず初陣でモンスターを討伐しないといけない。

 武芸が苦手な者も、親がプロの冒険者たちを雇ってレベリングを行わせるのが常識であった。

 錬金の他にも、レベルに依存している生産職や特殊技能が存在している。

 彼らの中には戦闘が苦手な者も多く、レベリングに忌避感はない。

 錬金学校でも、体育の授業扱いでプロの冒険者が同行するモンスター退治の授業があった。

 レベルが上がって知力と器用が上がれば、錬金の精度も上がるからだ。

 むしろ優れた冒険者たちからすれば、生産職とのレベリングは効率がいい金稼ぎなのでとても歓迎されていた。

 錬金術師と知己になれば、あとで色々と特典もあったりしたからだ。


「お前、レベルだけならもう初級卒業じゃないか」


 基礎ステータス値をカンストさせてからレベルアップさせたので、実力なら上級に至っているはずだ。

 それでも、まだ魔王配下の幹部たちには届かない。

 シャドウクエストでは、レベルが最高999まである。

 とにかくレベル上げが苦痛で、ステータスの基礎値に手をつけながらレベルを上げても、レベルが800を超えないと魔王に歯が立たなかった。

 基礎値に手を出さずにレベルだけをあげると、レベルが999になっても勝てないので、ただの時間の無駄になってしまう。


 結局レベル1の状態で基礎ステータスをカンストさせてからレベルを上げれば最強という結論が出たが、ゲームだとレベル1の状態で基礎ステータスをカンストさせるのがもっと面倒という笑えない結果になっている。


 俺も、五年以上もステータス上げに没頭した。

 もし『鑑定』がなければ、今もレベル1であった自信がある。

 そのくらい、シャドウクエストではキャラを成長させるのが難しいわけだ。


「ローザは?」


「私はレベル1」


「お前、本当にお嬢様だな」


 女性は、冒険者でもないとあまりレベルを上げたりしない。

 特に貴族の令嬢は、レベルが高いと反抗的な女になるという偏見があり、上げてもレベル10くらいまでの人が多かった。

 か弱い深窓の令嬢という感じであろうか?

 庶民は外で邪魔なプリンくらいは潰すし、レベルが上がると疲れにくくなったり、病気にかかりにくくなったりする。

 空いている時間に、プリンを潰してレベルを上げる人が多かった。

 比較的裕福な庶民のために、レベリングツアーのようなものもあるのだ。

 庶民向けのレベリングの仕事は、中堅クラスの冒険者には割りのいいアルバイトであった。


「シリルは?」


「これでも78あるんだぜ。姉貴がちょっと有名な冒険者だから、たまにレベリングしてくれるのさ」


「なるほど」


 年齢にそぐわず、シリルのレベルは意外と高かった。

 だから余計、錬金の成績がいいのであろう。


「アーノルドは、なにを倒しているんだ?」


「レイスだけど」


 ゲームの世界だからか、夜のレイス退治はとても効率がいい経験値稼ぎであった。

 この王都から一番近い、モンスターが大量に生息する場所には馬車で往復一日かかるし、ろくな準備もせずに初心者が行くと確実に死ぬ。

 その点墓場ならば、家から歩いてもさほど時間はかからない。

 レアアイテムの霊糸も随分と貯まったし、装備の『置換』も順調だ。


 ホッフェンハイム子爵家の跡取りが使う子供用の鎧をチタン製に錬金したら父に喜ばれたのだが、実は今は使っていない。

 それよりも、魔法使いが使うローブの素材を霊糸に錬金した方が防御力は上だった。

 対魔法防御力ではもっと差がついてしまう。


 俺と裕子姉ちゃんは、霊糸製のローブを着てレイス退治に参加していた。

 同行するビックスは自前の鎧を準備していたのでそれをチタン製に、リルルは新しいメイド服を霊糸を使って錬金し、それを貸与している。


 俺は別にあげてもよかったのだが、レミーが『それはいけません!』というので貸与ということになったのだ。

 

『リルル、アーノルド様の付き添いはいいですが、足手纏いになるのは許しません。これより、護衛術の練習も強化します』


 上級メイドになるってのは大変なようだ。

 リルルは、レミーから護衛術まで習っているのだから。


 そんなわけで、俺たちは時間が空けば夜にレイス退治を行っていた。

 裕子姉ちゃん以外は、相当にレベルが上がっている。

 裕子姉ちゃんも経験値は溜まっているので、運の数値がカンストしたら一気にレベルを上げる予定だ。


「お前らのことだから、常識外れな凄いことをしていそうだな」


「かもしれないけど、秘密だね」


「錬金術師は、抱える秘密が多いほど優秀って言うから、お前らは優秀なんだろうけどな」


 レイス退治の裏技でレベルが上がり、霊糸というレアアイテムも既に百個以上確保している。

 こんなに美味しい稼ぎ方を人様に教えるわけにはいかなかった。

 裕子姉ちゃん?

 まあ婚約者だし、俺はデラージュ公爵に気に入られて保護されてもいる。

 それに、裕子姉ちゃんには世話になってきたからな。

 同じくゲームの世界に飛ばされてしまった同志でもある。


 それに俺は、やはり裕子姉ちゃんと共に行動していると安心できてしまうのだ。

 裕子姉ちゃんもそうだと思う。

 それがわかるくらい、俺たちはつき合いが長いかった。


 でも、いくらまだ体が子供とはいえ、俺のベッドに潜りこむのはやめた方がいいと思う。

 しかもほとんど王都のデラージュ公爵邸に戻らず、実質俺の家に住んでいるからな。


『一緒に行動する機会が多いから、これでいいのよ。時間が効率的に使えるから。ベッドに入り込むな? いいじゃない。大きなベッドなんだから』


 借りた家のベッドは、大人でも二人が余裕で寝られそうな大きさだ。

 俺はたまには高価な買い物と思って奮発したんだが、まさか裕子姉ちゃんに半分取られてしまうとはな。

 それでも大きなベッドは寝心地がいいので、大金を出した甲斐があったというもの。

 とはいえ、今までに稼いだ額で考えると、それほど大金ってわけでもないけど。

 俺は根が庶民で貧乏性だから、大きなベッド一つでも俺からすれば高額な買い物なのだ。


「ところで話は変わるけど、今度の休みにリーフの森に狩りに行かないか?」


 色々と考えていたら、シリルからモンスター退治に誘われてしまった。


「アーノルドもローザも、プリンとレイス以外は倒したことがないだろう? うちの姉貴がつき合ってくれるから四人で行かないか?」


「それはいいわね」


 裕子姉ちゃんのみならず、俺も賛成だ。

 いくらレベルを上げていても、俺たちには戦闘経験が少ない。

 十五歳になると貴族の跡取りは全員王国軍によるモンスター退治で初陣を飾るようだから、その前に練習しておいた方がいいか。

 経験値も入るので、レベルアップできるかもしれない。


「ローザは参加しなくても大丈夫だけど」


「留守番なんて嫌よ。どうせビックスとリルルも参加するっていうから、楽しくモンスターを退治しましょう」


「楽しくって……」


「リーフの森って、薬草やキノコ、木の実とかの素材も手に入るぞ。モンスターも大して強くない。経験を積むにはうってつけだな」


「じゃあ、シリルのお姉さんにお世話になるかな」


「私も」


「じゃあ、週末に出発だ」


 錬金学校入学から半月、同じような錬金ばかりさせられて飽きた俺たちは、冒険者として王都郊外にあるリーフの森へと出かけることになるのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 基礎値弄らなかったらレベルカンストさせても勝てない魔王様率いる魔王軍が暴れてて、基礎値弄る錬金アイテムは主人公しか創れず、天然物の種も鑑定持ち以外にはほぼ発見不可 おまけに、錬金しまく…
[気になる点] これでリーフの森に行って何も起きない訳が無く。 影使命関連でしょうね。 [一言] 三人とも馴染んだと思ったら半月三人だけで錬金してたのですか。 流石錬金至上主義。交流なんて考慮しないぜ…
[気になる点] カントス リーフの森なのかリーブの森なのか [一言] 次はシリルの姉の顔見せ回ですね 楽しみです
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