第二十四話 新素材
「専属メイド? レミーの娘なのね」
「ローザ様ですね。アーノルド様専属のメイドでリルルと申します。よろしくお願いします」
「よろしくね、リルル」
専属メイドがついたのはいいが、実は結構面倒な問題を孕んでいる。
リルルは、レミーの命令どおり常に俺に従うようになってしまったのだ。
こうなると、今日も姿を見せた裕子姉ちゃんと本音で話せなくなってしまう。
「ローザ様」
今までどおり、二人きりの時に裕子姉ちゃんと呼ぶことができなくなった。
常に傍にリルルがいるからだ。
裕子姉ちゃんも俺を弘樹と呼ぶわけにいかず、お互いに困っているはず。
「ローザ様ねぇ……私たちは同じ年だから、ローザでいいわよ」
「あれ? ローザ様は年上……「ふん!」あげぇ!」
外見は俺の方が数か月年上だが、中身は裕子姉ちゃんの方が二つ年上だ。
と、迂闊に言おうとしたら、裕子姉ちゃんにひじ打ちを食らってしまった。
「いい機会ね! 私をローザと呼び捨てにしなさい。第一、みんな私が陛下の姪だから、様付けで呼ぶけど、アーノルドも子爵家の跡取りなのよ。同じ貴族なのに、様づけなんておかしいわ」
それはそうなんだけど、今のデラージュ公爵は陛下の実の弟である。
みんな気を使って、ローザも様付けというわけだ。
「そういうわけだから、アーノルドは私をローザと呼ぶの。わかったわね?」
「努力します」
「今すぐそう呼べばいいじゃない」
裕子姉ちゃんと呼べない以上は仕方がないか。
名前を呼び捨てなんて、ちょっと慣れないな。
俺はずっと、『裕子姉ちゃん』って呼んできたからな。
「今日はどこに行くの?」
「ほら、例の経験値稼ぎの話」
「武器と防具を買いに行くのね?」
「残念ながら違うけど」
「えっ? どうして?」
「ついてくればわかるよ」
実は、アンデッドを利用した経験値稼ぎに武器や防具は必要ない。
念のために装備はしていくが、俺は普段の木剣と、ホッフェンハイム子爵家に伝わる子供用の防具をレミーに調整してもらえばいいであろう。
「じゃあ、どこに行くの?」
「教会だよ」
教会には、アンデッド退治に必要なものが売っている。
いや、寄付をすると入手できる。
「我が教会にどのような用件でしょう?」
三人で教会に行き、俺は入り口に立っていた警護担当の神官兵から用件を聞かれる。
「聖水がほしいのです」
「わかりました。中へどうぞ」
俺が必要なものとは、聖水であった。
これはさすがに、錬金でも作れない。
水に、神官が長時間祈りを捧げないとできないからだ。
「本日は、聖水をご所望と聞きましたが」
教会の中にいた老神官が用件を訪ねてきたので、俺は聖水がほしいと告げた。
聖水は自分の身にふりかけると、一定時間モンスターに襲われなくなる。
冒険者が夜営をする際には、必須のアイテムであった。
勿論これは設定だけで、ゲームではモンスター除け、錬金素材としてのみ使われる。
「いかほど必要でしょうか?」
「小さな樽一つ分をお願いします」
俺はそう言うと、用意した小さな革袋を老神官にそっと手渡した。
聖水は販売していない。
あくまでも、聖水を受け取った信者が寄付をするという形式で入手する。
相場が決まっているので実質買っているようなものだが、そこにツッコミを入れてはいけないのが大人の世界なのだ。
「敬虔な神の子であるあなたに、聖水を与えましょう」
老神官は皮袋の中を確認してから、若い見習い神官に聖水の入った小さな樽を持ってこさせた。
「リルル、大丈夫か?」
「はい、小さな樽ですので」
樽とはいっても、それほど大きくはない。
小さなリルルでも持てるくらいの大きさだ。
「またのお越しを」
沢山聖水が売れて、老神官はホクホクとした表情で俺たちを見送った。
今日はお祝いに酒でも飲むのであろうか?
「アーノルド様、これほどの大量の聖水を一括購入するなんて凄いです!」
小さな樽とはいえ、これほどの量を一度に購入する人は少ない。
リルルは、それが可能な財力を持つ俺に感心していた。
「アーノルド、お金は大丈夫なの?」
「勿論」
新しい錬金物のパテントもあり、これまで『鑑定』で探し出した掘り出し物の骨董品は、すべて部屋に置いてある。
いつか纏まった現金が必要になった時、それを売ってお金を調達する予定であった。
「聖水だけ?」
「我が家に伝わる子供用の防具を着る予定だ」
今から大人向けの装備を買っても着れないので意味がなく、今注文して新しく用意しても、俺はこれからどんどん体が大きくなってしまう。
ゲームだと武器防具のサイズなんていう設定はないけど、現実は個人個人で色々と調整しなければいけないというわけだ。
そこで、武器と防具は家にあるものを使用することにした。
「私はなにか買わないと駄目ね。デラージュ公爵家には、小さな女の子用の防具なんて準備されていないもの。アーノルド、どういうのがお勧めなの?」
「そうだなぁ……皮製の戦闘用ドレスがあるから、それでいいと思うよ」
シャドウクエストは元々ゲームなので、現実ではまず使われなさそうな武器、防具が存在する。
その中に、皮の戦闘ドレスというものがあった。
設定には、高貴な生まれの女性がモンスターとの戦闘でも優雅さを失わないように、という理由で普及していると書かれていた。
戦闘中に見た目が優雅でも、モンスターに殺されたら全然優雅ではないので意味がない装備のような気もするが、せっかくあるのだから利用した方がいい。
皮製なので初期装備なのだが、これは錬金で強化できるから問題ないであろう。
「じゃあ、早速オーダーしましょう。明日までに急ぎ作らせるわ」
さすがは公爵家のお嬢様、権力と金の力で防具屋に急ぎ作らせるようだ。
「アーノルド様、私もついて行きますから」
「リルル、それは危険だぞ」
俺とローザは貴族なので、夜に二人きりでなど出かけられない。
そこでビックスに護衛を頼もうと思っていたが、リルルもそれについて行くという。
「リルルは、戦闘が得意なのか?」
「いいえ。ですが、私はアーノルド様専属のメイドですから」
それなら屋敷で部屋の掃除とか洗濯、料理などをしていればいいと思うが、そちらはレミーが一人でこなしてしまう。
リルルは、常に俺の傍についていることが重要だと思っているようだ。
「別にいいんじゃないの? 危険はないのでしょう?」
「大丈夫なはずだけど、万が一のことを考えてだ」
だから、俺も裕子姉ちゃんも防具をつける予定なのだから。
「うーーーん……どうするかは、家に戻ってからにしよう」
教会で聖水の購入を終えた俺たちは、急ぎ引っ越し作業中の家に戻った。
すでに片付けが終わっている自分の部屋に戻ってから、経験値稼ぎについての細かい計画を検討する。
「時刻は夜、場所は王都にある墓場だな。なるべく規模が大きい方がいい。そして、教会が近くにある墓地だ」
「それでしたら、王都東部にある公共墓地ですね。ですが、あそこは夜間は侵入禁止ですよ。レイスがウヨウヨいますから」
リルルは生まれてからずっと王都に住んでいるそうで、その地理にも詳しかった。
道案内としては、とても役に立つと思う。
「なあに、教会が作った『封印円』の中には入らないさ」
やはり、この世界にはシャドウクエストの設定が混じり込んでいる。
ゲームにおける墓地は、夜に行くとレイスや場合によってはゾンビの大量発生地になっているからだ。
そのせいで、教会は夜にアンデッドたちが墓地から出ないように『封印円』という結界を張っている。
教会は夜間の墓地への侵入を禁止しているが、別に見張りを立てるわけでもない。
結界内に人間は容易に侵入でき、もし勝手に入ってアンデッドに殺されても教会は責任は持たないというスタンスであった。
そこで俺たちは、夜に墓地を徘徊するアンデッドを倒して経験値を稼ぐというわけだ。
「アンデッドですか? たまに冒険者の方が経験値目当てに倒していますね。でも、なんの得にもなりませんよ」
リルルも、悪霊でしかないレイスをいくら倒しても、魔石も素材も手に入らない事実を知っていた。
「その分、経験値は多い」
金にならないので、その分同じ強さの魔物に比して経験値が多く手に入るという利点もあった。
そしてもう一つ、実は極稀にレアアイテムを落とすのだ。
これが手に入れば、錬金も色々と捗るであろう。
俺の運は高いので、沢山手に入るはずだ。
「というわけで、念のために防具を錬金しておこう」
俺の防具は、ホッフェンハイム子爵家に代々伝わる鎖帷子であった。
当主の跡取りが子供の頃に着るもので、体の大きさに合わせてサイズ調整が可能な作りになっている。
今、レミーが手入れと微調整を行っているところだ。
防具のサイズ調整ができるなんて、さすがは上級メイドである。
「アーノルド様は、武器や防具の錬金まで可能なのですか。凄いですね」
「一からは作れないけどね」
一から武器や防具を作るとなると、工房に弟子入りして習うか、特技『鍛冶』、『防具作製』などを覚えるしかない。
錬金術師で『鍛冶』も持っている人など滅多におらず、大半は材料を『置換』して高性能な武具を作る。
既製品の武具の素材を新しく代えるやり方だ。
例えば、皮の鎧を金属製の鎧に変えたりする。
ただ、皮の鎧と金属の鎧は基本的に形状に大きな差があるので、鉄の鎧を鋼、ミスリルの鎧などに置換するのがポピュラーであった。
ちなみに、我が家で代々伝わっている子供用の鎖帷子は鋼製であった。
ホッフェンハイム子爵家は歴史が長いので、鋼製の鎖帷子を子供のために代々伝えているわけだ。
「ミスリルに変えるのですか? ですが、ミスリルは高いですよ」
シャドウクエストにおいて、ミスリル製の武器や防具は後半にならないと出てこない。
布→木→皮→青銅→鉄→鋼→ミスリル→オリハルコンと、間に特殊な素材も入るが、基本的にはこの順番で性能がよくなる。
「ローザも武器と防具を準備すると言っていたから、明日に色々とやろう」
そして翌日、ローザは実家の力を利用して急ぎオーダーメイドの武器と皮のドレスを用意してきた。
普通、一日では皮のドレスを準備できないはずなんだが……そこはデラージュ公爵家の力でなんとかしたのであろう。
「武器は槍かぁ……」
「リーチがあるし、突けばいいんでしょう?」
「正確には違うけど、滅多なことでは使わないからなぁ……錬金をするか……」
「鋼製にでもするの?」
「いいや、チタン製にする」
「チタン? そんなことが可能なの?」
それが可能であった。
シャドウクエストで、新しく錬金可能な金属として発見されたのだ。
アイテムに『クズ鉱石』という物がある。
『鉄鉱石』など他の鉱石とは違い使い道がないと言われていたのだが、シャドウクエストを愛する者たちによって、ようやくその使用方法が見つかった。
この鉱石を原料に、アルミニウム、チタンが錬金可能なのだ。
チタンは鋼の半分ほどの重さで、耐久性も高い。
物理防御力では、ミスリルに近い性能を示す。
ただし、魔法に対する防御力では鋼と差がなかった。
アルミニウムはチタンよりも軽く、鋼には物理防御力で負けるが、その代わりに魔法防御力ではかなり上回っている。
重たい金属鎧を装備できない者に需要があった。
「チタンねぇ……」
裕子姉ちゃんは、どうしてRPGの世界にチタンが……と思っているのであろう。
実は俺もそう思っているが、シャドウクエストとはそういうゲームなのだ。
「クズ鉱石は、ゴミ捨て場に捨ててあるからね。材料費の割に性能が高くて便利なんだ。アルミニウムもね」
「どうやって錬金するの?」
「それはね……」
まず材料だが、クズ鉱石1に対し、純水1、カーツ火山の軽石1、魔石1を混ぜる。
魔石1とはエネルギー量の単位で、プリンの魔石百個で単位は1だ。
「あれ? 意外と簡単?」
「簡単だけど、この後で問題が出る」
この配合比でチタンができるが、その品質はお世辞にもいいとは言えない。
不純物が多く、このままでは使い物にならないのだ。
プロの鍛冶師でも、チタンのみを取り出して加工するなど不可能であった。
「ここで『純化』が役に立つ」
チタンがわかれば、これを選んで『純化』すれば質の高いチタンの塊が完成する。
これを素材に、既製の武器や防具を『置換』すればチタン製の武器と防具の完成だ。
「アルミは?」
「アルミは魔石の量を2に増やし、地面の土も入れる」
「地面の土?」
実は、『地面の土』もアイテムなのだ。
これも意外と使い道が多く、わざわざ購入しなくても地面を調べれば手に入るので、シャドウクエストをプレイしている者は、よく地面を調べる操作が恒例となっていた。
「地面の土1とは、百グラムだね。正確に測らないと、素材がゴミと化す。今日はチタンだけでいいよね」
まずは、ホッフェンハイム家秘伝の鎖帷子をチタン製に置換する。
まずは錬金したチタンの塊と鎖帷子を鍋に入れ、純水で浸す。
ここに魔石10を入れ、あとは錬金するだけだ。
「錬金鍋ってあるのね」
「あるけど、普通の鍋でも全然問題ないよ」
通常の錬金用の小さいのは購入したが、今日は置換を行う鎖帷子と使用する純水が全部入らないので、新しい大きな鍋を購入してきた。
極わずかだが成功率に影響があるし、金がないわけでもないので、そのうち大きな錬金鍋は購入しようと思う。
「こういう場合、高価な錬金道具の方がよさそうだけど」
「もっと高度な錬金の時には、そういうアイテムも必要だけどね」
それは、あとで購入すれば十分に間に合う。
鍋に蓋をして『置換』をすると、鎖帷子は無事にチタン製になった。
錬金と純化の特技、知力と器用と運の数値、素材の分量を間違えない。
このレベルの錬金なら、今の俺がしくじる可能性はほとんどなかった。
「完成だ」
「凄いわね。あっ、これ私の分」
「いや、さすがに皮のドレスをチタン製にはできないよ」
「硬くて動けなくなるか」
「そのうち置換はするけど、あるレアアイテムが手に入ってからだね。先に槍の方を置換しておくよ」
まず槍なんて使う機会はないと思うけど、万が一ってこともあるからな。
裕子姉ちゃんに槍の才能があるかどうかは別として。
「これも同じようにチタン製に置換する」
二度目の錬金にも無事に成功し、裕子姉ちゃんの槍も無事にチタン製になった。
もし失敗したら弁償しないといけないので、成功してよかった。
「あとは……」
同じ要領で、俺が普段使っている木剣もチタン製にしておく。
これで、万が一の時にも自分の身を守るくらいはできるであろう。
「あとは、夜に備えて寝るだけだな」
アンデッドは夜中にならないと出ないので、昼寝でもして備えるべきであろう。
「そういうことだから、夜に待ち合わせね」
俺はこれから、夜に備えて寝ておこうと思う。
裕子姉ちゃんにも、屋敷に戻って寝ておくようにと忠告した。
「あっ、私も泊まっていくから」
「いや、そんなサラっと言われても……」
未婚の貴族の娘が、同じく未婚の男性貴族の家に泊まるってどうなのだろうか?
絶対に、父親であるデラージュ公爵が怒りそうである。
彼が激怒すれば、我がホッフェンハイム子爵家など簡単に潰されてしまうであろう。
「ローザ様、一度お屋敷に戻られた方がいいですよ」
「大丈夫よ」
リルルも裕子姉ちゃんに忠告したが、彼女は頑として受け入れなかった。
「ここで寝ようっと」
それどころか、勝手に俺の部屋のベッドに寝転んでいる。
「レミィーーー!」
俺は慌ててレミーの下に向かうが、彼女ですら俺の助けにはならなかった。
「ローザ様がこの家で仮眠を取られるのですか?」
「そうだよ。これって、まずくない? デラージュ公爵が激怒したら、うちの両親は気絶しちゃうよ」
父は文官で気が弱い部分があるし、母も優しいけど気丈とは言い難いからだ。
「私は、特に問題ないと思いますが……」
「だって、俺もローザももうすぐ十歳だよ? 未婚の男女が同じ家で寝るのはよくないって」
妙な噂が立てば娘の婚姻に影響があるのだから、絶対にデラージュ公爵が激怒するはずなのだ。
「アーノルド様の仰られていることはごもっともです」
ごもっともなら、特に問題ないというのはおかしくないか?
そういえば、レミーは俺を『アーノルドお坊ちゃま』と呼ばなくなったな。
もうお坊ちゃまではなく大人扱い?
なら、なおさら裕子姉ちゃんの外泊は駄目だろう。
「なら!」
「ですが、デラージュ公爵様からは好きにしてくれと」
「はい?」
ローザは陛下の姪で、重要な政略結婚の駒じゃないのか?
裕子姉ちゃんはゲームどおり、主人公と被らない攻略キャラを狙うんじゃないのか?
みんなイケメンばかりだし、パーティーで会った時も悪そうな人はいなかったけどなぁ……。
「そういう噂が立つのはよくないんじゃないの? 僕は子爵家の跡取りだから」
俺が思うに、デラージュ公爵は娘を伯爵以上の貴族の跡取りに嫁がせたいと思っているはずだ。
ここで子爵の跡取りと噂になってしまえば、色々と不都合があると思うんだよなぁ……。
「アーノルド様は優れた資質を持ち、優しさも兼ね備えていますが、自己評価が低いと思います」
「そう?」
アーノルドに移り変わる前の俺は、本当に普通の高校生だったからなぁ……。
「この年齢ですでに一流の錬金術師として活動しており、子爵家の跡取りでもあるのですから、デラージュ公爵様は間違いなく、アーノルド様とローザ様をご結婚させるつもりですよ」
「ええーーーっ!」
俺が裕子姉ちゃんと結婚?
まったく考えていなかった。
前の世界では本当の姉ちゃんのように思っていたし、いくら綺麗でも恋愛対象に入れたことすらなかったのだ。
ああ、今は外見がローザなんだ。
すっかり忘れてた。
「ローザ様は三女ですから、そこまで家格は問題視されませんので。それに……」
「それになんだ? レミー」
「アーノルド様がこのまま活躍するのであれば、自然と爵位が上がると思います」
そうなれば、家格の釣り合いの問題は解消か。
「というわけで、未婚で十になる前の娘が他の家で仮眠を取っても問題視されないのです。アーノルド様は実質、ローザ様の婚約者扱いなのでしょう」
「なんだってぇーーー!」
俺は慌てて裕子姉ちゃんの下に駆け込んだ。
人が物凄く驚いているのに、すでに裕子姉ちゃんは俺のベッドで寝ていた。
この神経の図太さも、裕子姉ちゃんの優れた? 部分なのだ。
「ローザ!」
傍にはまだリルルがいるので、俺は彼女をローザと呼んで揺さぶった。
「うん? なに? せっかく寝ていたのに……ああ、アーノルドか。寝るのなら、私の隣で寝なさいよ」
「いや、そんなことをしたら余計噂になるじゃないか!」
「別にいいじゃないの。お父様は大喜びよ。天才錬金術師が婿になるって」
なんてことだ!
二つのゲームが融合していたばかりに、強くなることを優先していたら、別のゲームの悪役令嬢に好かれるなんて……。
中身は従姉の裕子姉ちゃんだけど、それでも従姉と結婚なんてするのか?
そういう人もいるとは聞くけど……。
しかもこれって、地味に没落フラグに巻き込まれる危険がないか?
「アーノルド、気にしては駄目。今日は美少女と一緒に寝られる幸運に感謝しなさい」
「……」
駄目だ。
俺では、どうやっても裕子姉ちゃんに口で負けてしまう。
ここでああだこうだ余計なことを言うと、傍にいるリルルも怪しむだろう。
それも計算しているとは、やはり裕子姉ちゃんには頭脳では勝てなかった。
いくらステータスの数値を上げても、駄目なものは駄目なようだ。
「ええい! 今はアンデッド退治に集中する!」
「それがいいわよ。早く寝なさい」
「わかった」
「このベッドいいわねぇ。随分と奮発したじゃないの」
「稼いだ金で思い切って購入したんだ」
鑑定使っての骨董品の転売や、錬金物のパテント料で稼いだので、思い切って購入したのだ。
俺がアーノルドになってから一番高い買い物であった。
「じゃあ、おやすみなさい」
前の世界と変わらず、相変わらずの寝入りの早さであった。
どうして俺がそんなことを知っているのかといえば、裕子姉ちゃんよく俺の部屋のベッドで仮眠をとっていたからだ。
ゲームで徹夜したから眠いという、本当にしょうもない理由で。
とはいえ、俺も夜には忙しくなる。
隣に裕子姉ちゃんが寝ているが、気にせずにそのまま昼寝を始めるのであった。




