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第二十二話 面接試験

 俺は今日、錬金学校の正門前に立っていた。

 この学校の校長と面談を行い、俺の合否が判定されるそうだ。

 筆記試験なしで面談のみ、えらく恵まれているような気がするが、『錬金術』の特技持ちは元々無試験で合格なのだそうだ。

 あとは、『錬金術』の特技を持たない者たちから学生を選抜するため、筆記試験と実技試験が存在するらしい。


「あっ、裕子姉ちゃんがいる」


「弘樹、遅いわよ」


 なぜか、学校の正門前に裕子姉ちゃんがいた。

 なにか俺に用事なのであろうか?


「遅いって……俺はこれから校長先生と面談があるんだよ」


「私もそうよ」


「えっ? 裕子姉ちゃんも、錬金学校に入学するの?」


「当たり前でしょう。私も没落に備えて箔が必要だから。あっ、私は『錬金術』は持ってないけど、筆記と実技試験はクリアーしているから」


 元々裕子姉ちゃんは優秀だし、知力と器用の基礎ステータスはカンストしているから、中級以下の錬金物なら成功率が高いんだよな。

 多分、他の『錬金術』を持たない受験生よりも圧倒的に優秀なはずだ。


「今日は時間の都合で一緒に面談だって」


「そうなんだ」


「行きましょう」


「うん」


 俺は裕子姉ちゃんに手を引かれ、錬金学校の門をくぐる。

 校内には多くの生徒たちがおり、みんなまだ子供の俺たちを見て驚いているようだ。

 まれにいるらしいけど、俺と裕子姉ちゃんのような子供が入学するケースは少ないと、父から聞いていた。

 早くても十三~十六歳、二十歳を超えている者も珍しくない。

 『錬金術』の特技を持たない人は、知力と器用のステータスが高く、苦労して錬金の練習を重ねて実技試験に受からないと入学できないのだ。


 実技試験は、傷薬(小)を十個作って一個でも成功すれば合格で、これは試験内容が公に公表されている。

 いかに特技を持たない者が錬金をするのが難しいかという証明でもあった。


「私、傷薬(小)が三個成功したわ。弘樹を手伝っていてよかった」


 俺の錬金を手伝って作業を覚えていた裕子姉ちゃんは、錬金の特技を持たない受験生の中でもトップクラスの成績を出したそうだ。

 筆記試験も、裕子姉ちゃんは元々頭がいいし、ステータスアップの恩恵を受けている。

 小難しく、覚えることが多い『錬金術』には向いているわけだ。


「ようこそ、アーノルド君にローザ君」


 事前に教わっていた校長室に行くと、そこには某魔法使い小説の校長先生によく似た老人がいた。

 見事な白いヒゲと髪を伸ばしており、この世界でも高貴な色とされる紫色のローブを纏っている。


「レブラント・ハックスじゃ。久々に若い生徒じゃな」


「生徒と言うことは、合格ですか?」


「うむ。アーノルド君は『錬金術』の特技があるから元々無試験で合格。ローザ君も、筆記は満点、実技試験で三個も傷薬(小)が作れた。文句なしで合格じゃ。今日は世間話と思ってくれていい」


 レブラント校長は俺たちに椅子を勧め、そこに座ると彼の話が始まる。


「アーノルド君は、すでに色々と成果を出しているようだね。味なし傷薬、美強化紙、偽肉、お肌スベスベ軽石、自動インクペンなどの製法を開発し、そのレシピをデラージュ公爵家の御用商人に販売している。バレット商会は大儲けしていると評判になっておる」


「そうみたいですね」


 バレット商会が儲かれば、俺も濡れ手に粟状態なので問題ない。

 一個売れる度にパテント料が手に入るし、毎日錬金しなくても商品が売れるだけで金が手に入るのは素晴らしい。

 不労所得万歳というわけだ。

 販売数のちょろまかしはまずあり得ない。

 もしそんな不正があればデラージュ公爵が黙っていないし、他の商会が暴露して俺に製法を売ってくれと引き抜きにかかるのが明白だからだ。


「君はこの学校に入学しないでもとっくに一人前なのじゃが、錬金術師というのは、形式を重んじる者が多くてな」


 大半の『錬金術』を持たない錬金術師は、生真面目で形式に拘る人が多い。

 錬金という作業自体が慎重に行程をこなさいないと失敗するので、自然とそうなってしまうのだ。

 ある種の職業病だな。


 『錬金術』持ちでも、『純化』がないと材料の不純物で錬金が失敗ということがよくある。

 材料の吟味なども必要であり、いい素材を卸してくれる商人と人脈を繋ぐ、同業者とも仲良くするなど。

 なかなか才能だけでは渡っていけない世界なのだ。


 俺は例外だけど。


「退屈とは思うが、ちゃんと卒業すればいいこともあるというわけじゃ」


「実際に入学して授業を受ければ、なにか新しい錬金のヒントになるかもしれません」


「そう言ってくれるとありがたい。アーノルド君は特待生なので授業料はかからぬよ。『錬金術』の特技持ちはみんなそうじゃ。ワシも、学生の頃は特待生じゃったからわかる」


 レブラント校長は、自身もこの学校の卒業生のようだ。


「ローザ君は成績優秀。特に、実技で傷薬を三つ作れたのは凄い。たまに二個作れる者がいて、その時は大騒ぎになるからの」


 俺はほぼ100パーセント錬金が成功するが、これは俺がシャドウクエストのシステムを利用して対策を立てたからだ。

 ある意味、反則とも言えた。


「来月に入学式があるが、今日から校内は自由に出入りして構わぬよ。寮は……君たちは、自分で住む場所を探すのかな?」


「はい、父が探してくれるそうで」


「私もそうです」


 錬金学校は滅多に合格しない難関校だが、合格すれば格安で寮に入れるし、無利子の奨学金もあった。

 卒業すれば錬金術師なので、奨学金の返済が滞る者など滅多にいないのだ。


「今年は六十七名しか受からんでの。残念に思っていたところに、久々の年少合格者が二名じゃ。本当によかった」


 レブラント校長との面接は三十分ほどで終わり、あとは校内を探索することにした。

 俺は『鑑定』を使って、なにかいいアイテムがないかとあちこちを探る。

 すると、錬金に関する本が置かれた図書室の方から反応を感じる。


 急ぎ二人で図書室に入ると、そこはまだ授業中のためか誰もいなかった。

 好都合だと反応を探ると、奥にある卒業生論文が納められた本棚が光っている。

 手に取って鑑定すると、やはり特技の書であった。

 元は、ある卒業生が執筆した論文のようである。

 その名を見ると、レブラント・ハックスと書かれていた。

 あの校長先生の著書に特技の書の特性がついていたとは、偶然にしてもできすぎだ。

 どうやら相当優秀な人物のようだ。


「裕子姉ちゃん」


「じゃあ、『純化』を」


「あれ? 『錬金術』じゃないの?」


「弘樹、あんたも先に『純化』を取ったんでしょう?」


「そうだね」


「ゲームじゃないから堅実に行くわよ」


 確かに今の知力と器用から、裕子姉ちゃんは中級の錬金をほとんど失敗しない。

 傷薬(中)が量産できれば、もの凄く稼げるのがシャドウクエストなのだから。

 『錬金術』があっても、知力、器用が低く『純化』がないと、思った以上に錬金の成功率が下がる。

 失敗が多いと無駄になる素材が多いので、経費ばかり掛かって意外と儲からない。

 俺も最初は『純化』だけで錬金をおこなっており、堅実に稼ぐという観点でいうと『錬金術』はそこまで必要なかったりするのだ。


「これで錬金の成功率も上がるわ」


「そうだね。あっ!」


「どうしたの? 弘樹」


「もう一つ反応がある」


 図書室に、もう一つ反応を見つけた。

 なにか特殊なアイテムが……ほぼ特技の書と見て間違いないはず。


「こっちだ」


 反応は、隣の卒業生の論文からで一冊の本が光っている。

 著者を見ると『ミーシャ・ベルグラント』と書かれていた。

 こういう場合、ただの偶然とは片づけられないのがゲームであり、このミーシャという人も後に俺たちの前に姿を見せるかもしれない。


「ゲット!」


 さて、なにを覚えようか?

 シャドウクエストで必ず覚えた方がいい特技、『純化』、『錬金術』、『博才』は取ってしまった。

 『鑑定』は、スタート時のキャラ設定で当たりを引かないと駄目なので例外である。


 武器の扱い初級は、同じ武器を使ってモンスターを倒し続ければ手に入る。

 これだけは、努力だけで覚えられる例外的な特技だ。

 中級以降にするには、特別な才能か特技の書が必要だが、俺が剣技を中級にしても大して意味がない。

 となると、これを覚えておくと便利という特技を覚えるしかないな。

 いくつかあるのだが、どれを選ぶのかはこれは好みの問題だと思う。


「そうだなぁ……レベルアップ作業があるから、『治癒魔法』でいいや」


「えっ? 『治癒魔法』がレベルアップに必要なの?」


「効率よく経験値を稼ぐためにね」


 早速『治癒魔法』を取って、使える魔法を確認した。

 これも、運の数値が関係ないランダム性で決まってしまう。


「よっしゃ! ツイてるぞ! ヒール(中)をゲットだ!」


 他にも、『アンチドート(中)』、『アンチパラライズ』、『アンチロック』などがあるが、これは誰でもレベルさえ上がれば使えるようになる。


 『攻撃魔法』と同じく、八十パーセントがヒール(小)、十九パーセントがヒール(中)、一パーセントがヒール(大)なので、俺は珍しくツイていたわけだ。

 毒消しもヒールと比例し、ランクが低いほど対応できない毒が増える。

 その辺は、毒消し薬と同じだ。


「ヒールとモンスター退治? アンデッドで経験値を稼ぐつもりなの?」


「楽だからね」


 今はまだ行く予定はないが、人間の墓場の他に各地にモンスターの墓場があり、そこなら楽に大量の経験値が稼げるのだ。

 もっとも、これはヒールを覚えないとできない。

 傷薬では対応できないのだ。


「これでこの学校の探索は終わり」


 やはり、特技の書はなにか特別な場所で探した方がいいみたいだな。

 王城は残念な結果に終わったが、錬金学校は収穫であった。


「あとは、普通に見学しましょう」


 他も色々と見て回ったのだが、今は卒業式の準備でみんな忙しそうだ。

 この間授業もあるので邪魔をしてはいけないと思い、この日は早めに学校を辞したのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっ! 特技の書を2つゲット! 「純化」と「治癒魔法のヒール(中)」をゲットとは 素晴らしいですね! 錬金学校での生活も楽しみです。 2人ともステータスがカンストですからね、 天才とし…
[一言] 手をつないで門をくぐるとか周りからは恋人同士にしか見えないだろうな
[気になる点] 毎度なんですが、カントスではなくカンストでは無いのでしょうか? カンスト=カウントストップなのは知ってますが、カントスはいったい…?
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