表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第五話  幸運にもステータスが判明しました

―レオ・ウェルキエル 王宮―



「して・・・料理長。この糞のような味をしたメインディッシュは何かの冗談か?」


年老いた王の発する言葉に室内のだれもが心の内で震え上がる。


「も、申し訳ございませんっ!直ちに別の料理をお持ちいたします!」


―――殺されるかもしれない、その恐怖に料理長は支配されていた。


「・・・もうよい。ところでお主、年はいくつになる。家族はおるのか?」


「こ、今年で43になります。家族は・・嫁と娘の二人だけですが・・・?」


料理長はひどく怯えた様子だ。


「ほほう、43とな。・・それならば、もう十分生きたであろう。」


「そ、それはどういう・・・」


「簡単なことよ。わし自らが貴様の命を美しく散らしてやると言うのだ。なに、貴様の嫁と娘は死ぬまで王宮で飼ってやるから安心するがよい。」


「ひ、ひぃっ!ど・・どうかお許しをっ!!お許しくださいいぃっ!!」


料理長は大粒の涙を流し命乞いをするが、部屋にいる王の世話人たちは何も言わずうつむいている。それもそうだ、口を挟もうものなら自分が殺されてしまう。


すぅ、と王は小さく息を吸う。






「《獅子の牙(レオ デンテ)》」








それは、獅子の王だけが行使可能な最上級魔法、通称《星魔法(せいまほう)》――――唱えられるや否や、料理長の体は下腹部を境目に見えない力で引き裂かれた。



「ううごぎうごげえばばぁぁ!」



醜い断末魔を聞いて王は静かに笑う。


「ふむ、能無しも随分ときれいな声で鳴くではないか。 おい、この部屋を片づけておけ。それとこやつの嫁と娘を全裸にして町を歩かせたのち、王宮に連れてこい。・・抵抗するようならば、

手を切り落とすといい。そうでもすれば大人しくなろう。」


「は・・、はっ!!」



近くの騎士にそう命じると、王は血の飛散した部屋を後にした。























―――レオ・ウェルキエル 魔法局前―――




「まったく、コウったらどこで道草食ってるのよ。やっぱり私も買い物は後にして付き添うべきだったかなぁ。」


一足先に魔法局についていたアガサはため息をつく。




「おやおや、麗しきガールがいるじゃないか。君もこのマグヌス様に告白しに来たのかい?」


後ろから突然現れたこの男は、まるで自分の恋人だあるかのようにアガサの肩に手を回す。



「き、きゃあぁあ!」


アガサが悲鳴を上げると、マグヌスはより一層調子に乗る。



「はははっ、君ってば僕の美貌に相当驚いたようだねえ。まあ、無理もない。何せ僕は美の神に最も近しい存在なのだからっ!」




そう語るマグヌスの後ろに大きな影が現れる。



「・・馬鹿もんっ!!魔導書の整理をしとれと言ったろうが!」



巨体の老婆だ。その肉体は明らかに基準を大きく逸脱している。――――つまり、マッチョなおばあさん。



「おっとっと、ばれてしまっては致し方ない。つまらん仕事に戻るとするか・・。」


マグヌスは委縮した様子で魔法局の中に戻っていく。





「な、何なのよこの人たち・・・。」



「おや、客人かい?驚かせて悪かったねえ。まったくうちのバカは・・・。」



「い、いえ。気にしてませんし大丈夫です! それと今日は用事があってきたんですけど・・、」



アガサがそう言いかけると聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。



「無事か、アガサ!」



「コウ!?なに、そんなに慌てて・・。」



「いや、聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえたからな。近くだったから走ってきたってわけだ。」



アガサは幸太郎の後ろにもう一人いるのに気が付いた。



「この人は?」


ヘクトールはアガサの前に出て、軽く頭を下げる。


「私はヘクトール・レオ・ミカエリスと申します。コウタロウとは先ほど知り合いましてね。」


「・・あなた、貴族でしょ?供をつけずにぶらつくなんて、ずいぶんと腕に自信があるのかな。」


アガサは貴族を前にしても、いつも通り堂々とした態度だ。



「まあ立ち話もなんだし、中に入りんさい。」


老婆が幸太郎たち3人を屋内に招き入れる。




俺はヘクトールに近づき耳打ちをする。


「・・さっきの話だが、後で詳しく聞かせてもらっていいか。」


「私の出自のことですか。他人に話すには面白くもない話ですが・・・、いいでしょう。」









コウタロウ、アガサ、ヘクトールの三人は老婆に案内され、魔法局内に入った。

そこには新旧問わず、大量の本が納められた書架があり、部屋の中央には人間の頭部ほどの大きさを持つ水晶玉が輝いていた。

部屋の隅ではマグヌスがいそいそと本の整理をしている。


「なんか占い師の館みたいだな。ここで魔力適正の有無が分かるのか?」


「そうさね。魔法能力だけでなく物理的な得意不得意も計測できるぞ。ほれ、そこの水晶玉に触れてみな。」





水晶玉に軽く触れると、優しい光を放ちながら見たこともない文字が空中に投影される。



「おぉ・・。綺麗なもんだが、なんて何て書いてあるかはさっぱりわからん。」



俺が文字に困惑していることに気付いたのかどれどれとアガサとヘクトール、作業をしていたマグヌスまでもが文字に目をやる。





「あっ、おめでとうコウ!魔法適正”有”だよ!!詳しいステータスも見てあげるね。」


アガサは少し興奮気味だが、俺が異世界から来たと話していないヘクトールとマグヌスはなぜ驚くのか分からないといった様子だ。



魔法、か。使えたらいいなーくらいには思っていたが、いざ使えるとなるとどの程度の力が自分にあるのか気になる。そもそも魔法という概念のなかった世界の人間である俺に

魔法適正があること自体驚きなのだが。



















がたっ、と音がした。見るとあの強気な老婆が腰を抜かし、がたがたと震えている。




「・・まさか、この世界に再び神が降臨したとでも言うのか・・。」





その横ではアガサが大きく目を見開き、ヘクトールとマグヌスも信じられないといった表情を浮かべている。



ーーーーーーーーーなに、何なのこの空気。









俺のステータスはこんな感じらしい。



属性    :月


HP     :42


MP       :53


ATK (物理攻撃) :23


DEF (物理防御) :17


MAK(魔法攻撃) :12


MDF (魔法防御)  :14




俺はここまでのステータスだと、この世界において”落ちこぼれ”になるらしい。なんでも13歳の子供の平均を下回るそうだ。---------引きこもってたから、多少はね?


問題は次だ。










LUC (運)  :99999 over








俺自身も目を疑った。運から突き放されて生きてきた俺に与えられたものは剣や魔法の才能ではなく、ほかでもない”運”だったのだから。






「・・・ねえコウ、あなたって何者なの。この数値は明らかに人間を逸脱してるのよ?」


「ただの人間だって。それに言っておくが俺は決して運のいい男じゃない。事実、命を落としてこの世界にやってきた-----信じてもらえるかどうかは別としてもだ。」




「それなら簡単に実験をしてみたらよいではありませんか。」


そういってヘクトールはどこから取り出したのか5個のサイコロを手に持っている。


「これは私が遊戯の際に使用する賽です。これをコウタロウに振らせることで実力を観察しては?」




俺はサイコロを受け取る。さてどうしたものか。



(とりあえず、全部一の目が出るかどうか試してみるか。)



5個のサイコロを一回振って全て1の目が出る確率は 7776分の1 、 実に 0.00129% という低い確率である。



俺は適当にサイコロを近くのテーブルの上に転がした。


するとどうだろう。







まるでサイコロが意思を持っているかの如く、そろって1の目を俺たちのほうに向けてきたのだ。







それを見たマグヌスが大きく笑い出す。


「決まりだねぇ、彼は本物の強運の持ち主だ。いや、強運なんてもので片づけられるものでもないか。」


「ま・まってよ、サイコロにカラクリがあるとかじゃないの?そうに決まってる!」


アガサは信じられないといった口調でヘクトールを問い詰める。



「このサイコロはその道の職人に作らせた一品です。王宮の遊戯会でも使用されているものなのですよ?からくりなどあるはずがないでしょう。」





俺はサイコロを回収しもう一度、さらにもう一度振ってみるが結果は変わらない。出そうとする目を変えても同じだった。







「・・わかったわよ、認める。あなたの力は本物みたいね。」


アガサはサイコロを念入りに調べた後、観念したようだった。



「お主の体力と魔法適正では回路を開いたところでろくな魔法も使えまい、よくて序位魔法程度であろうな。だが、運というのは時として国を滅ぼすこともあるーーー

良くも悪くもな。」


老婆は今までになく深刻な顔をしている。


「コウタロウ・・といったか。そもそも運が良い、悪いとはどういうことだか理解しているか?」


「さあ?考えたこともないけど。あいにく俺は”運が良い”という状況を体験したことがないんでね。」



「それは己に降りかかる事象を自分にとって有益かどうかで良い・悪いに分別しているということだ。先ほどお主は自ら賽の目を制御しようとし、見事望んだとおりになった。

これはマグヌスも言っていたように”強運”などという言葉で片づけられるものではない。自らが望み、都合のいいように事象を改変しているのだからな。」



「そ、それって・・じゃあ例えばコウが”隕石振ってこないかなー”って願ったらそれが現実になるってこと?!」



老婆は相も変わらず深刻な顔をしたまま深くうなずく。



アガサはそれを聞いてガタガタと震えだす。俺もさすがに笑えない展開だ。




「ゆえにコウタロウよ、くれぐれもむやみやたらに天変地異を起こしたいなどと考えるなよ?お前の存在はある意味で圧政を強いる王よりもはるかに恐ろしい・・。」






(待てよ・・?俺はこの世界に来てから幾度となく”親に会いたい”とか”元の世界に帰還する”とか少なからず願っているはずなのにそれが現実とならないのはなぜだ?それとも今は”元の世界に帰る”という事象の過程なのか?)







「何やら外が騒がしいですね。まあ、コウタロウの能力以上に驚くものではないと思いますが少し気になります。」



確かにヘクトールの言う通り、少し外が騒がしい。ーーーーーーーちょっと様子を見てみるか。




俺とヘクトール、それに続いてアガサとマグヌスが通りに出るとそこには50人程度の騎士とそれに囲まれるように全裸の女性二人が手を縛られいずこかに連行されていた。

母と娘といったところだろうか。娘と思われるほうは目に涙を浮かべている。彼女らの体は傷だらけで暴行を加えられたであろうことが見て取れる。




「こ、こんなのひどすぎるよっ・・!」


「まっ、待て!アガサ!」



アガサは幸太郎の制止を振り切り一行の前に立ちふさがる。




「厄介なことになったな・・・。行くぞヘクトール!!」


「まったく・・今日は忙しいですねぇっ!!」




(俺は、どのようなプロセスをたどるにしろ望んだことが達成されるだけの運を現時点では持ち合わせている。それに賭けるしかないか・・)





「貴様ら、我々が王宮直轄の機動兵と知ってのことか?」



「その人たちが一体何をしたというの!?こんな刑罰は人道に反しているわ!!」



「この者らは王宮で無礼を働いた宮廷料理人の家族だ。この刑罰も王が決めたこと。そして刑の妨害行為は王に対する反逆をも同然だ。」


そう言い終えると兵たちは腰に携えたサーベルを静かに引き抜く。



「あーあーあー、僕たちも晴れて反逆者ってわけか。」


いつの間にかコウタロウとヘクトールの間にはマグヌスの姿がある。


「おわっ!お前いつの間に!」


「君も我々に加勢してくれるのですか?相手は王宮直轄の兵士ですから、味方は一人でも多いほうが頼もしいですね!」




兵士の一人がアガサに向かって襲い掛かるが、アガサは魔法で作り出した剣を手に応戦する。

ヘクトールがそこに加勢し、マグヌスは魔法で後方支援を行う。初めてとは思えないほどのチームワークで次々と兵士を打倒していく姿に実戦経験のない幸太郎はただ感心するばかりだ。

だが、50対4では明らかに分が悪くたちまち包囲されてしまう。



「あと35人ですか・・。この状況ではさすがに厳しそうですね・・・。」



「どうしよう、投降するしかないのっ!?」



「ははっ、投降したところで明日にでも処刑さ。」



(何とか、この状況を打開する手立てはないのか・・・?!)









その時、幸太郎の目にあるものが映った。



(そうか、あれを利用すればいける!)




幸太郎が強く願うと、通りの火薬屋に陳列されていた”特大の煙玉”が”偶然”起爆し、通りを濃煙が覆う。




「な・・なんだこれは!い、いったい何が起こっている!?」


兵士たちは驚きのあまり声を上げる。



「‥今だ、ヘクトール!突破するぞ!!」



「は、はい!三人とも私のそばを離れないでください!」


ヘクトールの案内のもと幸太郎たち三人は煙の中で混乱する兵士の間をすり抜け先ほどの女性二人を連れ裏通りへと駆け込んだ。


そして煙が晴れ、ようやく視界が満足に利くようになり幸太郎たちを見失ったことに気付いた兵士たちは負傷した仲間を連れ一時撤退していった。










「何とか切り抜けたみたいね・・、ほんと一時はどうなるかと思った。」


「いやぁ、さすがの僕でも変な汗かいちゃったよ。それにしても君、よくこんな方法を思いついたねぇ?」


マグヌスに尋ねられ俺は簡単に解説する。


「兵士たちに包囲された近くに火薬屋があっただろ?町を適当にぶらついてるとき、あそこの主人に絡まれてな。それはそれは丁寧に煙玉の自慢話を聞かされてね。とっさにあれを利用しようと考えた。

そしてこれを実行するにはヘクトール、お前の存在が必要不可欠だったのさ。」


「私ですか?」


「お前がアガサを探すときに使用した魔法を見て、もしかしたら“暗視”も使えるんじゃないかって思ったんだ。これは正直なところ賭けだったが運の強さも相まったってわけだ。」








「すごい、すごいよ!コウ!」


アガサは心の底から感心した様子だ。ーーーーーーそんなに褒められると少々照れ臭い。



「実に鮮やかな作戦だったよ・・。特別に僕の右腕にしてやってもいいんだぜ?」


「お、おう。一応誉め言葉として受け取っておくぞ。」



そんなやり取りを交わしていると例の女性二人が話しかけてくる。



「この度は、本当にありがとうございました。あのまま王宮に連れていかれていたらきっと一生家畜のようにこき使われたでしょう。」


母親が頭を下げるとそれにならって隣の娘も頭を下げる。

アガサは簡易的な布の服を作り出し二人に与える。



「それであなた方二人はこれからどうなさるのですか?」


アガサの問いかけに母親は少し考えたのちこう答えた。


「・・隣接する《巨蟹領(きょかいりょう)》に亡命しようと思います。あちらには亡命者を保護する制度がありますので・・。」


「なんだ、すべての領で暴政が行われているわけではないんだな。」


「まあ、あそこもあそこでいろいろとおかしいんだけどねぇ。」




「さて、話もこれくらいにしていったん領都を出ましょう。ここの警備水準が引き上げられたら正門からの脱出は困難になります。ですがご安心を・・。私はいくつかの隠し通路を把握していますから。」







そうして俺たちは領都を後にした。






















更新が遅くなり申し訳ありません。<(_ _)>


ブックマーク等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ